第22話
本作では、創作補助としてChatGPTを利用しています。
物語やキャラクターは作者自身によるものですが、文章整理や推敲の補助としてAIを使用している箇所があります。
また、「小説家になろう」のAI利用状況区分の設定機能開始後は、本作を「AI直接使用」として設定予定です。
──空気が裂けた。
何かが宙を舞った。血飛沫がぶち撒けられ、悲鳴が響き渡る。
腕が床へ転がり、嫌な音を立てた。
一瞬、時が止まったみたいだった。
やっぱり……お兄ちゃん、本気だ。
これ、“いつもの危ないお兄ちゃん”じゃない。本当に、人を殺すやつだ。
「あ、あああーっ! やっぱり無理いぃぃいいっ!!」
カティアはその場にしゃがみ込み、床へ手をついて泣き喚いた。叫び声が響き、誰もが逃げ惑う。
サーシャの笑い声と、剣が床を引きずる音が混ざり合い、頭の中でぐるぐると響いていた。
「ぐすん……ぐすん……」
涙で滲む視界の向こうで、イヴァンが必死に応戦しながら叫ぶ。
「カティア嬢! しっかりしてくれ!! 君がしっかりしてくれないと……ここは、魔物相手よりも地獄になるっ!!」
えぇぇぇ、そんなプレッシャーかけないでよぉ……
その時、『蒼銀の翼』の仲間たちが駆け寄ってきた。
「カティアちゃん! リーダーを助けてくれ!」
「このままじゃ、本当にサーシャに殺される!」
みんなの顔が本気で、泣きそうなくらい真剣だった。
カティアは鼻をすすりながら、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま振り返る。
「えー……ぐすんっ、ぐすんっ……」
サーシャを見た。
笑っていた。すごく、楽しそうに。イヴァンをじわじわと斬りつけながら、まるで遊んでいるみたいに。
……なんで、あんなに楽しそうなの?
意味わかんない。無理だよ……余裕であんな動きするお兄ちゃん、私が止められるわけないよ……
「ぐすん……ぐすん……、あ……、そうだ……」
ふと、あることを思い出し、カティアはベルトポーチを探った。
『蒼銀の翼』の面々が、不思議そうに見つめてくる。
「……そういえば、これがあったんだった……」
瓶をひとつ取り出して見せると、みんな首を傾げた。
「それは?」
カティアは返事もせず立ち上がり、先ほど腕を斬り落とされた冒険者のもとへ向かった。途中、床へ転がっていた腕も拾い上げる。
「ちょっとごめんなさいね……えっと……これを、こうして……」
呻いている冒険者の腕を合わせ、瓶の中身をかける。
「こうすると……あーら不思議、腕がくっつくのです!」
じゃーーーん! と両手を広げて見せた。
繋がった腕を見つめたまま、冒険者本人が呆然と固まっている。
「……え」
震える指で、自分の腕へ触れる。
「い、痛くない……」
次の瞬間。
「「えええええええっ!!?」」
絶叫が爆発した。
「な、何それ!?」
「腕! 腕くっついてるぞ!?」
「お、おい嘘だろ!? さっき斬れてたよな!?」
騒然となる周囲へ、カティアはきょとんとしたまま小首を傾げる。
「えっと……エルフの霊薬……かな?」
ぽそりと呟いた瞬間、空気が凍りついた。
「なっ……」
「エルフの……?」
「霊薬……?」
ざわめきが、一気に広がっていく。
その瞬間、ぞわりと背筋が粟立った。視線を感じる。
恐る恐るそちらへ顔を向けると、イヴァンと剣を交えながらも、サーシャがこっちをめちゃくちゃ睨んでいた。
「ひぃっ!?」
思わず肩が跳ねる。
イヴァンへ容赦なく剣を振るっているのに、何故か視線だけはずっとカティアから外れない。
……なんか怒ってる!?
そう思いながら、ベルトポーチから次々と瓶を取り出す。
「いっぱいあるから、とりあえず……イヴァンさんや怪我した人に使ってください!」
「いや待て待て待て! エルフの霊薬だぞ!?」
「そうだよ! そんな、とりあえずで簡単にあげちゃっていいはずないでしょ!?」
誰も彼もが混乱したまま叫んでいた。
その時──轟音が響いた。
空気が震え、床が揺れる。
何が起きたのか理解するより早く、誰かの身体が宙を舞った。
イヴァンだった。
血飛沫を撒き散らしながら吹き飛び、床へ叩きつけられる。鈍い音を立てて二度ほど跳ね、そのまま転がった。
床へ、じわりと血が広がっていく。
一瞬、動けなかった。
「リーダーっ!!」
『蒼銀の翼』の面々が血相を変えて駆け寄る。
イヴァンは動かない。
いや、違う。ぴくりと、指先だけが震えていた。
「う、うそっ……!」
カティアの顔から血の気が引いた。
──こ、これ。前にもあったやつだ!!
そうだ。腐葉の森でイヴァンと出会った日も、こんな感じだった。
カティアがうっかり地面へ置いていた剣を、サーシャが拾ってしまったのだ。その瞬間、サーシャの目の色が変わった。
森の魔物を次々と倒し始め、剣を返してと言ってもまるで聞いてくれない。一晩中追いかけ回しても全然捕まらず、食料はサーシャが持っているせいで何も食べられなかった。
疲れ果てて眠ってしまい、翌朝イヴァンに起こされた瞬間、サーシャがイヴァンへ襲いかかった。そのまま吹き飛ばして木へ叩きつけ、慌てて駆け寄った時には、イヴァンは息をしていなかった。
心臓まで止まっていて、あの時は本気で頭が真っ白になった。
焦ってエルフの霊薬を無理やり飲ませたことで、なんとか息を吹き返してくれたものの、本当に危なかったのだ。
しかも、当の本人は「なんだよ……思ったよりも弱かったな」と呟いたかと思うと、剣を放り投げてそのまま寝始める始末だった。
もしあそこでイヴァンが死んでしまい、それが父と母へ知られたりしたら大変だった。
家族からは、“サーシャに剣を持たせるな! 持たせたら誰も止められないんだ!!”とか、“悪戯に持たせて問題を起こしたら、冒険者は禁止よ!!”とか、“サーシャが人を死なせるとか、もってのほかだからね!!”とか、散々言い聞かされている。
それなのに、実際には結構ちょいちょいうっかり持たせてしまっていた。しかも、そのたびに問題まで起きている。
そんなことが知られたら、実家から出してもらえなくなるかもしれない。冒険者を続けられなくなる。
それだけはいやーっ!!
「霊薬! カティアちゃん、霊薬っ!!」
ルカの声で、カティアははっと我に返った。
「は、はいっ!」
慌てて駆け寄り、カティアは霊薬を傷口へぶちまけた。さらに別の瓶を開け、半ば無理やりイヴァンの口元へ押し当てる。
「イヴァンさん! 飲んでくださいっ!」
反応はない。
いやー! 死なないでーっ!!
喉がかすかに動いた。霊薬が流れ込んでいく。その瞬間、イヴァンの身体がびくりと震えた。
「っ、が……!」
閉じていた瞼がわずかに開く。傷口が、目に見える速さで塞がっていった。
「す、すごい……! 傷が……!」
『蒼銀の翼』の誰かが、呆然と呟く。
その瞬間、カティアはへなへなと力が抜けそうになった。よかった。本気で、そう思った。
だが、その間にも。ずる、……ずる、と床を引きずる大剣の音が、ゆっくり近づいてきていた。
顔を上げる。
返り血まみれのサーシャが、こちらへ歩いてくる。獲物を見つけた肉食獣のような目だった。
ぞわりと背筋が粟立ち、カティアは息を呑んだ。
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