第20話
本作では、創作補助としてChatGPTを利用しています。
物語やキャラクターは作者自身によるものですが、文章整理や推敲の補助としてAIを使用している箇所があります。
また、「小説家になろう」のAI利用状況区分の設定機能開始後は、本作を「AI直接使用」として設定予定です。
「炎の精オゴニよ、我が拳に灼熱の刃を刻め── 燃え上がれ、《紅蓮火弾》!」
“サーシャ本気だね。嬉しいね”
“楽しいね。燃やすよ”
“燃やすよ、燃やすよ”
声が耳に流れ込むのと同時に、魔法が炸裂した。熱が一気に広がり、焼けた空気が頬を撫でる。視界がわずかに揺れた。
「な、なにそれ、威力やば……っ」
カティアの引いた声が聞こえた、その直後だった。足元がぐらりと傾いた。
「……え?」
鈍い違和感が足裏から伝わる。遅れて、内側をなぞるような嫌な感覚が走った。
ばきばきっ!!
視線を落とす。床に亀裂が走っている。
「きゃあっ!? ちょ、足元崩れてる!!」
カティアの悲鳴と同時に、床が抜けた。
「いやぁぁぁぁぁ〜っ!!」
足場が消え、身体が宙に浮く。心臓が強く打ち、体勢を整えようとするが……踏み込む場所がない。先に落ちていくカティアが視界に入る。距離が開く。……まずい。反射的に魔法を叩き込んだ。
「風の精ヴェーテルよ! えーっと! ああ──とにかくカティアを守れ!!」
“守るよ〜”
“守る〜”
“サーシャも守るよ〜”
“守る〜〜”
風が周囲を包む。だが、カティア側だけ風が乱れている……落下を殺しきれていない。
「いたっ!」
下から短い声が届く。視線を向けると、崩れた瓦礫がカティアの頭上へ迫っていた。
「あっ! バカ! ちゃんと守れっ!!」
声に反応するように、風が一気に強まる。瓦礫が弾き飛ばされ、視界から消えた。
その直後。自分の頭上へ落ちてくる瓦礫には、気づけなかった。
まずい──咄嗟に身構えたが、衝撃はなかった。
圧迫感がまとわりつく。外から押さえつけられているような感覚の中、周囲を土の壁が覆っているのに気付く。
“サーシャ、大丈夫?”
“大丈夫?”
“サーシャ、無事?”
“無事、怪我してない”
「カティアは?」
“カティア、無事”
“カティア、怪我してない”
“カティア、大丈夫”
「本当だろうな……」
耳にまとわりつく声が妙に楽しげで、どうにも信用できない。サーシャは小さく息を吐いた。土の匂いが濃い。視界は土に塞がれ、何も見えない。
“居るよ”
“いっぱい居るよ”
“サーシャ、いっぱい遊べるよ。くすくす”
“遊べるね。くすくす”
“サーシャ、遊ぼう。くすくす”
“くすくす”
“くすくす”
いつも通りの声、だが……どこか引っかかる。
手を伸ばし、土壁と瓦礫を押しのけると視界が開けた。
「お兄ちゃん……!」
カティアの声が届く。無事らしい。
「カティア、無事か?」
「お兄ちゃん! 良かった!」
短く言葉を交わし、顔を上げた。黒い天井がやけに高い。視界の先には広い空間が広がり、そのまま暗闇の奥へ沈んでいる。
体を起こしながら、サーシャは小さく眉を寄せた。
「ここ、どこだ? さっきいた場所は最下層だったよな……」
「……多分、ここが本当の最下層──ボス部屋なんだと思う……」
震える声のまま、カティアが中央を指さした。
その先へ視線を向ける。暗闇の奥で、巨大な鎧ゴーレムが静かに立っていた。
「え……」
サーシャはわずかに目を細めた。
嘘だろ……あんな大きな鎧ゴーレム……誰がどうやって作ったんだよ!
いいな、あれ!!
いや待てよ? ダンジョン内なんだから、人が作ったとは限らないよな……。
でも……俺にも作れないかな。後でスヴェじいさんに聞いてみるか……
胸の奥がわずかに浮き立つ。危機感より先に、興味が湧いていた。迂闊にも、そんなふうに意識が逸れたその時、奥からイヴァンの声が響いた。
「カティア嬢! 無事か?!」
『蒼銀の翼』の連中が次々と現れ、レオニードが叫ぶ。
「イヴァン! 直ぐに戦闘態勢だ! 魔物に囲まれてる!!」
イヴァンが迷いなく声を張る。
「全員、ここにいるか?! 一箇所に集まれ!」
その一喝と同時に、暗闇の奥から白骨兵や亡鎧がぞろぞろと現れた。間も無く、一斉に向かってきた。
「──迎え撃つぞ!!」
イヴァンの号令と同時に、『蒼銀の翼』が迎撃へ動いた。
“くすくす。いっぱい来た”
“来た、来た。くすくす”
“くすくす”
“こっち、こっち。くすくす”
“くすくす”
前衛をすり抜けた魔物が、距離を詰めてくる。その流れは途切れず、暗闇の奥から続々と湧き出る。
サーシャはわずかに視線を動かした。何かがおかしい。……違う。
魔物が、こっちへ集中してる。
「なんで俺のところばっかり来るんだよ!! くそっ……! だ、大地の精ゼムリャよ、槍となりて、我が敵を穿て──《大地の槍》」
叫びながら、サーシャは反射的に魔法を放ち、そのまま後方へ飛び退いた。
“刺すよ〜”
“刺す、刺す”
床が変化し、鋭い槍となって突き上がる。魔物の身体を貫き、いくつも動きを止める。
だが、それでも数は減らない。すぐに次が押し寄せ、視界の端まで埋めていく。
「お兄ちゃんっ!!」
カティアの声が耳に届く。だが、そちらに意識を割く余裕はない。
なんなんだこれ。異常だろ。
“こっち、こっち。くすくす”
“おいで、おいで。くすくす”
“遊べるよ。くすくす”
“いっぱい、来て来て。くすくす”
耳にまとわりつく声が、やけに騒がしい。サーシャは眉をわずかに寄せた。
……まさか。こいつらが呼んでるのか?
そんな馬鹿な。魔物に影響を与えるなんて、聞いたこともない。
「バカ! お前ら、一体何してくれてんだよ!?」
“くすくす。これでいっぱい遊べるね”
“いっぱい、遊べるね”
“遊べる遊べる”
“楽しいね、サーシャ。くすくす”
“くすくす”
信じられなかった。こんなことまでして、魔法を使わせたいのか。サーシャは小さく息を吐く。
押し寄せる魔物へ魔法を叩き込む。熱が弾け、衝撃が狭い空間を震わせた。だが、倒しても倒しても敵は減らない。暗闇の奥から、次がすぐに溢れてくる。
気付けばカティアたちから離されていた。
「くそっ! カティアは無事なんだろうな! 何かあったら許さないからな!!」
“カティア、無事”
“カティア、怪我してない”
“大丈夫”
“大丈夫、大丈夫”
返ってくる声は軽い。妙にあっさりしていて、余計に信用できなかった。
剣がぶつかる音も、魔法の閃光も、誰かの叫び声も届いている。近いのに戻れない。その感覚がじわじわ気分を荒らしていく。……イラつく。
昔、スヴェじいさんが言っていた。“精霊は動物のように気まぐれだから信じすぎるな”。
だが、これはそういう話じゃない。信じる以前に、そもそも理解できない。
精霊に好かれているのだからと、当たり前のように魔法を使ってきた。だが、こいつらに頼らないと戦えないのは不愉快だ。
……魔法以外で戦えればいいのに。
ふと、思考が引っかかった。
魔法以外で……? 魔法以外は、習っていなかったのか?
いや、そんなはずはない。カティアが剣を習っていたのに、自分が剣を習っていないのはおかしい。
そういえば、昔、じいさんたちに剣をいくつも貰っていたはずだ。
あれは、どうした?
特に、ボリスじいさんから貰った剣。気に入っていた記憶だけはある。
だが──思い出せない。
その周辺だけ、綺麗に抜け落ちている。
まるで、そこだけ時間ごと切り取られたみたいに、何度辿ろうとしても繋がらない。
無意識に杖を握り込む。指先にわずかに力が入った。
剣を持っていたはずの感触を探る。だが、輪郭がぼやけている。掴めそうで、掴めない。
違和感だけが、胸の奥に残った。何かがずれている。何かが足りない。だが、それが何なのかは分からない。
言葉にできない空白だけが、胸の奥に静かに残っていた。
その違和感に意識を引かれかけたとき、遠くでカティアの声がふと耳に届いた。
「いやぁぁ……もうやだぁぁ……お兄ちゃん助けてよぉ……!!」
ええ……。あいつ、泣いてるのかよ……。
思わず顔をしかめた。こんな状況で助けに行けるはずもない。
“カティア、泣いちゃった”
“泣いちゃったね”
“泣いてるね。くすくす”
“面白いね。くすくす”
「笑い事じゃねぇよ!」
そもそも、こうなったのはお前ら精霊のせいだろうが!
溢れ続ける魔物へ魔法を叩き込む。熱と衝撃が周囲を揺らした。だが、押し寄せる数は減らない。
苛立ちながらも、泣き叫ぶカティアの方へ視線を向ける。泣いているせいか、普段からだだ漏れの魔力がさらに大放出されていた。
いや……居場所分かりやすいな……。てか、どんだけ放出するんだよ……化物かよ……。
呆れ半分に視線を向けた、その瞬間だった。カティアから漏れた魔力が、鎧ゴーレムへ吸い込まれていくのが見えた。
「……え?」
思わず声が漏れる。
“動くよ。動くよ”
“ワクワクするね”
“くすくす”
“くすくす”
耳にまとわりつく声の通り、鎧ゴーレムがついに動き出した。
ドゴォンッ!!
鎧ゴーレムが巨大な腕を振り抜く。鈍い衝撃が周囲を震わせた。
……あ、イヴァンっぽいのが吹っ飛ばされた。
“イヴァン、吹っ飛んだ。くすくす”
“吹っ飛んだ。くすくす”
“くすくす”
「あー……あれって、もしかして、カティアの魔力がなかったら動かなかった……なんてことは、ないよな?」
魔物の攻撃を避けながら、サーシャは半ば嫌な予感を抱きつつ精霊へ尋ねた。
“魔力なかったら動かない”
“ゴーレム魔力必要。くすくす”
“カティア、おもちゃ動かしてくれた。くすくす”
“カティア偉いね。くすくす”
“偉いね。くすくす”
……うん、聞かなかったことにしよう。カティアの魔力は関係ない、きっとそうだ。
半ば無理やりそう結論づけた、その時だった。耳にまとわりついていた精霊たちの声が、急に騒がしくなる。
“あ、カティア”
“カティア”
“カティアが”
「どうした?! カティアに何かあったのか?!」
反射的にカティアの方へ視線を向ける。だが、見えるのは相変わらず大量の魔力を垂れ流しながら、鎧ゴーレムへ供給し続けている姿だけだった。
なんだ、普通に元気そうじゃないか。
小さく息を吐き、精霊たちの声へ意識を向ける。
“出すよ”
“カティアが出すよ”
「出すって何だよ? 魔力ならいつもだだ漏れだろ?」
“出しちゃうよ。ドキドキ”
“出しちゃうね。ドキドキ”
「え? 違うのかよ? 気になるんだけど!」
精霊たちだけが妙に楽しそうで、余計に嫌な予感がする。
“あ、カティア。イヴァンと手を繋いでるね”
“繋いでる”
“繋いでる。くすくす”
「はっ?!!!」
手を繋ぐって何だよ。どんな状況だよ。まさかカティア、イヴァンのこと……満更でもないのか? 嘘だろ? 弟があれってマジで嫌すぎるんだが?
思わず眉をしかめる。戦闘中だというのに、変な方向へ意識を持っていかれている気がした。
“あ、回した”
“ぐるぐる回した”
“ぐるぐるしてるよ”
どんな状況なんだよ。回すって──イヴァンを回してるのか? ……待て待て、頭が追いつかねぇ!
耳にまとわりつく声だけが妙に楽しそうで、余計に意味が分からない。
“来るよ。ドキドキ”
“来ちゃうよ。ドキドキ”
「来るって、何が?」
その時だった。カティアの呼ぶ声が、騒がしい音の奥からはっきり届く。
「お兄ちゃーーーん!」
反射的に視線を向ける。カティアのいる方向から、何かが真っ直ぐこちらへ飛んできていた。
キラーンと光るそれが視界に映る。嫌な予感が背筋を走り、思わず声が漏れた。
「え?!」
嘘だろ? あれ、剣じゃねーーかっ! あいつ俺を殺す気かっ!!
──ドカーンっ!!
それは魔物を巻き込みながら、サーシャの目の前へ落下した。衝撃が床を揺らし、土煙が一気に広がる。
い、一瞬、俺に刺さるかと思った……
咄嗟に作られた土壁が、飛来を逸らしていた。どうやら大地の精霊ゼムリャが勝手に守ったらしい。
……こいつ、今日は珍しくいい仕事するな。
少しだけ感心しながら、土煙の向こうへ視線を向ける。そこに突き刺さっていた大きな剣を見た瞬間、胸の奥がわずかにざわついた。
見覚えがある。視線が自然と剣へ引き寄せられていく。忘れていたはずの感覚が、ゆっくり浮かび上がってきた。
「あれ……これって……」
鼓動がわずかに速くなる。息が浅くなり、指先に妙な熱が残った。
「……確か、俺の……」
手が自然に伸びた。触れる前から分かる。ああ、なんで忘れてたんだ。これは、俺の剣じゃないか。
……そうだ。思い出した!
これはボリスじいさんが俺にくれた、俺が一番気に入ってる剣だ!!
鼓動が速まる。脈打つ音が耳の奥でやけに響いていた。息が少しずつ浅くなっていく。それなのに、胸の奥は妙に満たされていた。
そうだ! そうだよ!
込み上げる感情に頭がぐらつく。吐き気に似た震えと、熱に近い喜びが入り混じっていた。苦しいのに、嫌じゃない。この感触を離したくなかった。
俺の剣だ!! 俺の剣だ!!! 俺の剣だっ!!!!
溢れる感情のまま、剣を握った──その瞬間。
ふっと世界が真っ白になった。
……なんだ?
剣は……確かに握ってる。感覚はある。大丈夫だ。体が少しふわついている気はするが、ちゃんと立っている。
ここは……どこだ? 静かだな……
視界がぼやける。だが、すぐに思い出した。そうだ。ダンジョンだ。
そう認識した途端、景色が一気に戻る。しっかり剣を握る自分の手が視界に映った。
……ああ、俺の剣。久々だ。そうだ。久々に持ったんだ。
斬りてぇ! 超斬りてぇ! 何でもいいから斬りてぇ!
斬りてぇ、斬りてぇぇぇ!
──居るじゃん、ここに。いっぱい。斬れるやつら。
思わず口元がニヤリと緩む。
次の瞬間、剣を振り抜き、魔物へ斬り付ける。
手に伝わる感触。その気持ちよさに背筋がゾワッと震えた。たまらない。もう一度、もう一度──そう思うまま、剣を振る。
斬って斬って斬って斬って、快感が止まらない。全身に鳥肌が立っていた。
これだ。これだよ。この感触は魔法なんかじゃ絶対わからない。
もっと。もっと。もっとっ! 楽しい。楽しい。超楽しいぃっ!!
「ふふ……ふっふっ……ふっ……ふっ……はっはっ……はっはっは……はっはっはっはっ……あははははははっ!!」
手に残るこの感触。剣の重みと匂い。ゆっくり呼吸を整えながら、目を閉じて感覚を反芻する。熱の残る指先に、自然と力が入った。
「……ああ、この感触……これだよ……」
“サーシャ嬉しい?”
“サーシャ喜んでる”
“サーシャ楽しい”
“サーシャ幸せ”
耳にまとわりつく精霊たちの声。相変わらず騒がしい。だが今は、不思議と気にならなかった。
「父さんと母さんは、魔法の方が格好いいって言ってたけど……」
口にしてから、ふと引っかかった。
……そうだったか?
だが、その違和感もすぐにどうでもよくなった。
「やっぱり、剣の方が最高に格好いいよな……斬ったときの感触が、最高に気持ちいい……」
アホみたいに鎧ゴーレムへ魔力を供給し続けているカティアへ目を向ける。
「なあ、カティア」
「う、うん……そーだね♡」
俺の剣をお前が持っていたのは分かってる。だが、まあ今回は許してやる。こうして俺に返したんだ、妹の悪戯くらい多めに見てやる。
何せ数年ぶりの剣だ。まだ興奮が抜けない。手の中に残る感触が、どうにも離れなかった。
ああ、もっと、もっと、斬りたい。
ご感想・レビュー・誤字報告など、ぜひお気軽にいただけたら嬉しいです。
「ここが気になった」「このキャラが印象に残った」など、一言だけでもとても励みになります。
いただいたご感想は、今後の創作の参考として大切に読ませていただきます。
楽しんでいただけましたら、ぜひ気軽にお声を聞かせてください。




