第18話
本作では、創作補助としてChatGPTを利用しています。
物語やキャラクターは作者自身によるものですが、文章整理や推敲の補助としてAIを使用している箇所があります。
また、「小説家になろう」のAI利用状況区分の設定機能開始後は、本作を「AI直接使用」として設定予定です。
その日、イヴァンは全員でギルドへ向かっていた。人数が必要そうな依頼があれば、そのまま受けるつもりだ。
ルカとレオニードと三人で、依頼掲示板を覗き込む。紙に貼られた文字を目で追っていると、横からルカが声をかけてきた。
「今日のリーダー、なんか落ち着いてますよね?」
「それは……どういう意味だ?」
「いや……なんというか……」
イヴァンの返答に、ルカは言葉を濁して視線を逸らす。はっきりしないその態度に、レオニードが小さく息を吐き、何か言おうと口を開いた──その瞬間だった。
「イヴァンさん」
名を呼ばれて振り返ると、例の女性のギルド職員がこちらに手招きしていた。レオニードが何を言いかけたのか気になったが、イヴァンは結局、そのまま彼女の方へと歩き出していた。
「例の件ですが、昨日の夕方に『なかよし団』のカティアさんに伝えておきましたよ」
彼女は親指を突き立てて言った。約束を守ってくれたことに、イヴァンの胸の奥がじんと熱くなる。気づけば、反射的にその手を掴んでいた。
「ありがとう」
「いえいえ。こちらこそ感謝してます。イヴァンさんのお陰で、子供たち大喜びでした。理由はともあれ、私の育った院なので……本当に嬉しいです」
その言葉が、胸の奥に鋭く突き刺さる。妹のモラナに何か言われた時より、よほど堪えた。思わず視線を落とす。
「リーダー。何やってるんですか。職員の人に迷惑かけちゃだめですよ?」
「いえ、そんなんじゃないので、お気になさらず。それじゃイヴァンさん、また困ったことがあれば、いつでも言ってください!」
そう言って、彼女は指で小さく金の形を作る仕草をして去っていった。
……本当に、金を受け取ったのは不本意だったのだろうか。それとも、今のは彼女なりの気遣いで、優しさだったのか。どちらにせよ、自分がやったことは変わらない。
それでも、自分の金が人の役に立ったのなら、それはせめてもの救いなのかもしれない。そう思い、イヴァンは小さく息を吐いた。
「ルカ、俺は今から【暗穴の墳墓】へ行く」
「……は?」
ルカは口を開けたまま、完全に固まった。
「別に、皆は付いてこなくてもいい」
「いやいや! 何言ってるんですか! 一人で行かせられるわけないでしょ!」
ルカが思わず声を荒げる。その声に気づいたのか、少し離れた場所にいたレオニードがこちらへ歩いてきた。
「どうした?」
「レオニードさん! 聞いてくださいよ! リーダーが一人で【暗穴の墳墓】に行くって言うんですよ!」
必死に訴えるルカに、レオニードがイヴァンをまっすぐ見た。
「イヴァン、どういうことだ? 一人で行く理由はなんだ?」
「……きっと『なかよし団』が、そこに来るはずだ。だから俺は、最深部でサーシャを待つ」
自分で言っておきながら、無茶苦茶だということは分かっている。それでも、口を止められなかった。
イヴァンの言葉に、ルカの顔が一気に引きつる。
「待つって……正気ですか?! そんな、いつ来るかわからない相手を、ダンジョンで待つなんて! 無茶ですよ!」
胸の奥がざらついた。分かっている。そんなことは。
苛立ちを抑えきれず、イヴァンは冷たく言い捨てる。
「だから俺一人で行くと言っている。これは俺の私情だ。仲間を巻き込むつもりはない」
「そんな……。俺たち、とことん付き合うって言ったじゃないですか。だから、リーダーが行くなら俺たちも行きます。でも……俺、今のそれが本当にいいのか、正直わかんないんです。だから、馬鹿なことしそうなら止めたくなるんですよ。そこは分かってくださいよ……」
ルカは、言い聞かせるように続ける。その声に、イヴァンの胸がちくりと痛んだ。
それから、レオニードも静かに口を開いた。
「イヴァン。気持ちは分かるが、俺たちは迷惑だとは思っていない。お前あっての『蒼銀の翼』だ。お前が行くなら、全員で行く。それじゃダメなのか?」
「……」
イヴァンは返事ができなかった。
正直なところ、今のイヴァンは、仲間を邪魔だと思ってしまっている。一緒にいると、自由に動けない。そう思ってしまう自分が、心底嫌になる。大切な仲間を、邪険にしたくなんてないのに。どうして今の自分は、こんなにも自分を制御できないのか──。
いや、もしかしたら。以前から、ずっとそうだったのかもしれない。
「リーダー?」
ルカが、覗き込むように声をかけてくる。
「……好きにしてくれ。とにかく俺は【暗穴の墳墓】に行く」
少し投げやりな言い方をしてしまった。言った直後に、後悔が胸に広がる。それでも、二人は顔を見合わせて、小さく頷き合った。
……本当に、嫌な奴だ。自己嫌悪が押し寄せてきて、吐き気がする。
「救いようもないな……」
思わず零れたその言葉は、幸い、誰の耳にも届いていなかったらしい。
気まずさを引きずったまま、イヴァンたちは残りの仲間の元へ戻った。
「ということで、俺たちは【暗穴の墳墓】に潜ることになりました!」
ルカがそう言うと、三人は揃って口を開けたまま固まった。イヴァンは胸の奥が落ち着かず、まともに目を合わせられずにいる。
「まあ、イヴァンさんが行くなら、行くしかないですね」
「そうだな。鍛錬でもするつもりで行けばいいんじゃないか?」
ラリッサとデニスの言葉に、ボグダンが無言で頷いた。
「向かいがてら、食糧の確保だけしていこう」
レオニードの一言に皆が同意し、イヴァンたちはギルドを出た。
街を歩きながら、イヴァンは気持ちの整理がつかないまま、深くため息をついた。
ふと横に視線をやると、例のパン屋が目に入る。なぜか、そこから目が離せなかった。
見つめていると、ドアが開いて店主が出てきた。目が合った。店主が、わずかに微笑んだように見えた。次の瞬間──表情が変わり、まっすぐイヴァンの方へ歩いてくる。
途端に、イヴァンの足が勝手に止まる。その直後には、いつの間にか店主が目の前に立っていた。
「やあ、イヴァンくん。求婚したんだね。頑張ってくれて、とても嬉しいよ。でもそうか……あの“雑光”は本当に煩わしいね。どうやら、うまくいってないようだ」
店主は、イヴァンの目を覗き込むようにして話を続ける。
「なるほど、少し邪魔をしていたようだ。大丈夫、次は必ず会えるよ。“彼女”をたくさん楽しませてあげてくれ。それで喜んでくれるなら、私も嬉しいんだ。よろしく頼むよ」
……何を言っているんだ。“雑光”って、なんだ? “彼女”って、誰のことだ……?
「リーダー、何してるんですか? 行きますよ?」
その声に、はっとしてイヴァンは顔を上げた。ルカが、不思議そうな顔でイヴァンを見ている。
ドアベルの音がした気がして、反射的にそちらを見る。そこには、さっきまでと変わらない、あのパン屋があるだけだった。
……自分は、なぜ立ち止まっていたのだろう。ほんの一瞬、考え事に沈み込んでいたような気もするが、何を考えていたのかまでは、うまく思い出せない。分からないまま、イヴァンは歩きだした。
「あ、あのパン屋、寄りたかったですか? もしかしてサーシャいるかもしれないし、確認していきます?」
ルカにそう言われて、イヴァンは小さく首を振った。
「いや、いい。多分……今はいないだろう」
確証などない。それでも、なぜかそう思えた。とにかく、イヴァンたちは【暗穴の墳墓】へと向かった。
ダンジョンの入り口にたどり着き、湿気が肌をくすぐる。冷たい空気に包まれながら、イヴァンは先頭に立って中へ足を踏み入れた。辺りは、妙なほど静まり返っている。
「攻略されただけあって、魔物の気配はほとんどないな」
レオニードが低く呟く。
「でも、最下層に行ったことないから、ちょっと楽しみですね! 攻略したのがダニールさんってのが癪ですけど」
「まあ、その気持ちは分かるかも。アンドレイさんとミハイルさんはいいけど、なぜかダニールさんだけは許せないよな」
「だよね」
ラリッサとルカが軽口を叩き合いながらも、自然と足は奥へ向かっていた。たいして魔物に遭遇することもなく、やけにあっさりと奥へ進めた。気づけば、すでに最下層にたどり着いていた。
「何これ! びっくりするほど、あっという間だった!!」
騒ぐルカに、レオニードが肩をすくめる。
「まあ、仕方ないだろう。ボスを倒してしまえば、ダンジョンなんてこんなものだ」
「でも、採取はできるからいいんじゃない? この苔とか、ダンジョンにしか生えないやつだよ。他にも鉱石とかあるかもだし……せっかくだから、『なかよし団』が来るまで採取してようよ」
「そうだね」
ラリッサの提案に、ルカが素直に頷いた。二人は並んで、壁際にびっしりと張り付いた苔の方へ歩いていく。
「これ、何に使えるの?」
「んー……たぶん薬草系じゃない?」
二人が首を傾げていると、少し離れた場所で本を読んでいたデニスが、そっと本を閉じて顔を上げた。
「ああ、それは《湿光苔》だ。魔力回復薬の材料になるし、乾燥させれば保存も利くんだ」
「へえー、じゃあ沢山集めとこ!」
二人は笑いながら苔を摘み始める。
一方で、ボグダンは無言のまま通路の奥へ消えていった。鉱石でも探しているのだろう。時折、壁を叩く乾いた音だけが響いてくる。
レオニードは少し離れた場所に立ち、目を閉じている。眠っているわけではない。おそらく、周囲に意識を張っているのだろう。
……皆、それぞれの時間を過ごしている。イヴァンだけが、何もしていなかった。
岩に腰掛けたまま、イヴァンは何度目か分からない入口の方を見やった。
──こんなんで、良かったのか。来ると信じて、ここまで来た。だが、どれくらい待つことになるか分からない。それに……。仮に『なかよし団』が来たとして。勝負ができたとして。それで、本当にカティア嬢の気持ちを、自分に向けられるのか?
……何を考えているんだ。そんなこと。小さく首を振る。決めたはずだろう。ここで待つと。今さら、迷うな。
「ちょっと疲れたから、お茶にしよっか!」
ラリッサの明るい声が響いた。買ってきた菓子袋を広げ、デニスに火を頼んで湯を沸かし始める。その様子を見て、イヴァンは心の中で小さく舌打ちした。
……まるで、ピクニック気分じゃないか。自分は、こんなにも必死なのに。苛立ちが、喉の奥に溜まる。いや、違う。この気持ちを、仲間に押し付けるわけにはいかない。分かっている。分かっているのに。水底に沈んだままの、重くて鈍い感覚を、ふと意識してしまう。嫌な気分だ。
それでも、イヴァンはただ、また入口の闇を見つめるだけだった。
同じ場所に留まり続け、気づけば皆の動きが鈍くなっていた。
もう苔を見るのも嫌になったらしく、ルカは気を紛らわせるように弓を引いている。だが、的から外れるたびに舌打ちしていた。集中できていないのは、見ていれば分かる。
ラリッサは床にしゃがみ込み、小石で意味のない線を引いている。楽しそうなふりをしているが、すぐにそれもやめて、またため息をつく。
レオニードは「少し周辺を見てくる」と言って、ルカに警戒を任せて奥の通路へ消えた。
デニスは読み終えた本を閉じ、無言で杖の手入れをしている。ときどき、小さく息を吐くのが聞こえた。
ボグダンは相変わらず、壁を叩きながら鉱石を探している。
イヴァンは一人、剣を振っていた。しかし、少しでも物音がすると、反射的にそちらへ顔を向けてしまう。心臓が、いちいち跳ねた。
「……本当に、来るんですかね」
ぽつりと、ルカが呟いた。その言葉に、イヴァンの胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
「夜だけでも、戻りませんか?」
ラリッサが、遠慮がちに言った。その瞬間、頭の中がかっと熱くなる。
「……戻りたければ、戻ればいい」
自分でも驚くほど、冷たい声が出た。ラリッサは一瞬、目を見開き、それから俯く。それを見て、ルカが声を荒げた。
「リーダー! そんな言い方しなくても!」
「……いいの。付き合うって決めてたのに、今のは私が違ってた……」
泣きそうな声だった。
「……っ、ラリッサ、すまなかった!」
慌てて、イヴァンは頭を下げる。
「今のは……きつい言い方だった……」
「大丈夫です。気にしないでください!」
ラリッサは無理に笑って言った。
「頑張って、待ちましょう!」
その言葉が、胸に刺さる。
何をやっているんだ。……仲間を傷つけたかもしれない。そう思うと、息が詰まりそうになる。
──だから、最初から一人の方が良かったんじゃないか。そんな考えが、頭をよぎる。仲間がいなければ、こんな気持ちにならずに済んだ。誰も、傷つけずに済んだ。
……違う。分かっている。分かっているのに、苛立ちが止まらない。
胸の奥で、黒いものが渦巻いていく。
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