第17話
本作では、創作補助としてChatGPTを利用しています。
物語やキャラクターは作者自身によるものですが、文章整理や推敲の補助としてAIを使用している箇所があります。
また、「小説家になろう」のAI利用状況区分の設定機能開始後は、本作を「AI直接使用」として設定予定です。
それから、何日かが過ぎた。イヴァンたちは変わらずギルドに通い、依頼をこなし、合間を縫ってサーシャを探し続けていた。
「さっき、裏通りで見たらしい」
「朝、南門から出ていったって聞いたぞ」
「いや、もう戻ってきてるはずだ」
噂だけは、やたらと耳に入る。だが、急いで向かえば空振り。辿り着いた頃には、誰もいない。そもそも、その話自体が本当なのかどうかすら、分からなかった。
「確かに見たんだって!」
「似てただけじゃないのか?」
「あれはサーシャじゃなくて別の魔法使いだろ」
情報は錯綜し、真偽の区別すらつかなくなっていく。イヴァンたちは何度も街を駆け回り、そのたびに肩透かしを食らった。
……いるはずなのに、会えない。近くにいる気配はするのに、姿だけが、どうしても掴めない。時間だけが、じわじわと過ぎていった。
サーシャに会えない。つまり、カティア嬢にも会えない。それに気づいた瞬間、胸の奥に、言いようのない焦りが広がった。……あの兄が、意図的に距離を置いているのなら。
イヴァンは今、この街で──彼女から、完全に切り離されている。
その考えに囚われたまま、イヴァンはぽつりと呟いた。
「全然……捕まらない……会えない……」
イヴァンはテーブルに肘をつき、片手で額を押さえたまま、力なくため息をついた。あまりにも会えなさすぎて、何が正しいのか、もう分からなくなっていた。こんなことを続けていても、何にもならない。
「せめて、カティア嬢の姿を……遠目でもいいから見たい……」
思わず、本音がこぼれた。そんなイヴァンを見て、ラリッサがぼそっと言う。
「うわあ……イヴァンさんが……完全に病んでる……」
「そりゃそうだよ。サーシャに会えないってことは、実質、カティアちゃんにも会えないんだからさ。完全にカティアちゃん不足になってるよ」
ルカは呆れたように肩を竦める。
「しかも最近、リーダーが求婚してから、便乗してカティアちゃん狙うやつが増えてるらしいんだよね……。サーシャ、決闘だの何だので追い回されて、余計に逃げ回ってるみたいだし」
「それじゃ、なかなか会えないわけだよね……」
ラリッサが納得したように呟く。
「もう、日に日に負のオーラがダダ漏れになってきててさ……。それじゃなくても最近のリーダーはやばかったのに……なんか、もっとやばくなってきてる気がする……」
二人の声は耳に届いている。だが、イヴァンは反応する気になれなかった。気持ちと一緒に、身体まで重くなってしまったように感じる。
「リーダー、そろそろギルドに行きましょう!」
「今日は私も一緒に行きますね」
二人はそう言うが、イヴァンは顔を向けただけで、立ち上がる気力が湧かなかった。
「ほら、行きますよ!」
ルカが腕を引っ張り、無理やりイヴァンを立ち上がらせる。
「ああ……行くか」
ため息をつきながら、イヴァンはようやく動き出した。どうしてこんなにも、胸の奥から指先まで重く感じるのだろう。
その答えを考える間もなく、気づけばイヴァンはいつものギルドの扉の前に立っていた。沈んだ気分のまま中へ足を踏み入れると、最近すっかり聞き慣れてしまった言葉が、また飛んできた。
「よう! イヴァン。相変わらずサーシャに逃げられてるんだって? いい加減、カティアちゃんのことは諦めたらどうだ?」
男は笑うように言った。周囲の冒険者たちも、同じようにニヤニヤと笑っている。くだらない。反応する気にもならない。
その時だった。
「なあ、金を払うんならサーシャの居場所を教えてやってもいいぜ?」
一人の男が、面白半分みたいな調子で言ってきた。その言葉に、イヴァンの足が止まる。
「それが本当に正確な情報なら、金を払ってやる」
「リーダー?!」
ルカが目を見開いてこちらを見る。だが、イヴァンは、鼻で小さく笑って、そのまま続けてしまった。
「なんなら、サーシャを俺の目の前に連れてきた奴には、望む額を払って──」
「わー! わー!」
「あーーーーー!」
言い切るより早く、ルカとラリッサが大声で喚き始めた。
「冗談! 冗談! 今のは完全に冗談だから! 誰も本気にしないでください!」
ルカがそう叫ぶと、ラリッサと一緒にイヴァンをギルドの外まで押し出す。そのまま、ルカが凄い剣幕で捲し立てた。
「リーダー! 何考えてるんですか! 金を払うなんて! そんなことしたって、誤情報に踊らされるだけですよ!」
「そうですよ! それに“サーシャを連れてきたら”なんて言っちゃったら、サーシャが何をされるかわからないじゃないですか! カティアちゃんに嫌われたいんですか?!」
二人の言葉に、イヴァンは頷くことも、謝ることもできなかった。
だったら、どうしろと言うんだ。あの時から、何もできていない。それどころか、自分の行動のせいで、カティア嬢に会うことすらできなくなっている。それなのに、他に自分にできるやり方があるのか。あるなら、教えてもらいたい。
「リーダー……そんなに焦らなくても、いつかチャンスが来ますって……」
ルカの言葉は、イヴァンの中には何も響かなかった。
深く、深く、水底に沈んでいるみたいな場所で。別の世界に取り残されたみたいな感覚のまま、重たい息を吐くように呟く。
「チャンス……? そんなもの、いつ来るって言うんだ」
思わず漏れた本音に、ルカもラリッサも黙り込んだ。その時だった。
「やばっ!!」
「え?! お兄ちゃん? ちょっと待ってよー!」
遠くで、聞き覚えのある声がした。はっとして、周囲を見渡す。
その一瞬。視界の端に、小さく光を弾くような、きらめく後ろ姿が映った。
──あれは……!
気づけば、イヴァンは駆け出していた。ルカとラリッサの声が、少しずつ遠のく。速い。追いつかない。このままだと、見失う。そう思っても、現実は容赦なかった。
結局、姿は見えなくなり、いつの間にかルカとラリッサまで置いてきてしまっていた。イヴァンは肩を落としたまま、ギルドへと引き返した。
ギルドに戻っても、ルカもラリッサもいなかった。カウンターに向かい、近くにいた職員に声をかける。
「すまないが、ルカとラリッサを見なかったか?」
「いえ、見てませんね」
どうやら、イヴァンを探しに行ってしまったらしく、完全にすれ違ったようだ。小さく息を吐いた、その時だった。
「そういえば、イヴァンさん、聞きました? 【暗穴の墳墓】、攻略されたんですよ」
「……っ?!」
思わず、声が詰まった。
「数組のパーティで合同攻略だったみたいなんですけどね。『灰色の刻』の皆さんが大活躍したらしいです! でも残念です。あそこを攻略するのは、絶対に『蒼銀の翼』の皆さんだと思ってたので……。でも、まだ他のダンジョンもありますし、陰ながら応援してますね!」
その言葉に、足元がぐらりと揺れた気がした。
自分もだ……。【暗穴の墳墓】は、いつか『蒼銀の翼』で攻略しようと考えていた。先を越された。求婚やら勝負やらと浮ついている間に。しかも、『灰色の刻』に……。
そうか。あの時、あいつらが言っていた「約束」って、これのことだったんだ。
『灰色の刻』の実力は本物だ。いつでもイヴァンたちを追い越して、先に進める。今さらながら、そう納得してしまう。
情けない。そう思っているはずなのに──イヴァンの頭には、別の考えが横切った。
これで【暗穴の墳墓】の一部封鎖が解除される。冒険者なら、好奇心に負けて、この機に探索に出かけるに違いない。しかも、最下層なら逃げ場がない……。
……これは、チャンスかもしれない。
そう思った瞬間、イヴァンの胸の奥がざわついた。何かを踏み越えかけている気がしたのに、イヴァンはその感覚から目を逸らした。
気づけば、ギルド職員の手を掴んでいた。職員は、頬を赤らめて驚いた顔をする。
「頼みがある。この情報を、君の口から確実に『なかよし団』に伝えてくれ。それで、伝え終わったら、すぐに俺に教えてほしい。それくらいのお願いなら、聞いてくれるだろう?」
そう言って、イヴァンは小袋を彼女の手に握らせた。中身は金だ。それは、彼女にも一目で分かったらしい。イヴァンの顔と小袋を交互に見て、職員は小さくため息をついた。
「わかりました。でも、これを貰うのは本当は不本意です。私的にもイヴァンさんを応援してますし……。でも、これを受け取った方が、貴方は私を信用できるでしょう? だから受け取りますし、ちゃんとお願いも聞いてあげますね!」
「あ、ああ……頼む」
「でも、助かりました! これで孤児院の子たちに、美味しい物を食べさせてあげられるので!」
その言葉に、イヴァンの胸の奥が少しだけ痛んだ。……また、馬鹿なことをしたのかもしれない。人の気持ちも、善意も、ちゃんと理解できていない。何も分かっていない。自分は、偏った人間なのかもしれない。
だが──今は、そんなことはどうでもよかった。
「あ! リーダー! 戻ってたんですか!」
「もー! 探したんですからね!」
ルカとラリッサが、ようやく戻ってきた。イヴァンは、心のどこかに後ろめたさを抱えながら、無理やり笑って謝る。
「ああ。すまなかった。カティア嬢の姿が見えて……追いかけたんだが、見失ってしまった」
「え、そうだったんですか? 残念」
その一言を聞いた瞬間、イヴァンの胸の奥が、きゅっと掴まれたみたいになった。……そんなふうに言われると思っていなかった。責められるでもなく、ただ気遣うみたいなその声が、やけに胸に染みる。
視界がじわりと滲み、イヴァンは反射的に彼女の方へ手を伸ばしかけた。──“流石に、ラリッサはダメだ”。脳裏に、レオニードの声がよぎる。
咄嗟に腕を下ろし、代わりにイヴァンはラリッサの手をぎゅっと握っていた。
「……ありがとう」
指先に伝わる温度が、心を落ち着かせてくれる気がした。ラリッサは一瞬だけ戸惑った顔をして、それから、困ったように小さく笑った。
「イヴァンさん……もしかして、泣いてます? もー、手だけなら許してあげますよ」
「え?! リーダー泣いてるんですか?!!」
ルカが大げさに声を上げる。
「いや……」
かろうじて、泣いてはいない。ただ、ラリッサが本気で残念そうにしてくれた、その一言に、少しだけ救われただけだ。
その沈黙を破るように、ルカがイヴァンの肩を軽く叩いた。
「もういいでしょ、リーダー。……とりあえず、今日は軽い依頼でも受けましょう」
その言い方は、ぶっきらぼうなのに、妙に優しかった。イヴァンは何も言えず、ただ小さく頷く。
そのまま三人は、気を紛らわすみたいに、依頼掲示板の方へ向かった。
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