第16話
本作では、創作補助としてChatGPTを利用しています。
物語やキャラクターは作者自身によるものですが、文章整理や推敲の補助としてAIを使用している箇所があります。
また、「小説家になろう」のAI利用状況区分の設定機能開始後は、本作を「AI直接使用」として設定予定です。
騒動のあと、イヴァンたちは依頼も受けず、逃げるように家へ戻った。中に入るなり、ルカが堪えきれない様子で声を上げる。
「リーダー……何やってるんですかー!!」
続いて、ラリッサも勢いよく言葉を重ねた。
「そうですよ! いきなり求婚だなんて! まずはお付き合いしてからですよ!」
その言葉に、ルカがぴたりと固まり、ラリッサを見て目を見開く。
「ラリッサさん?! そこじゃないでしょ! あんな騒ぎになって! 恥ずかしくて、もうギルドに行けないよ!」
「ルカも、そこなのか?」
淡々としたレオニードの突っ込みに、ルカが一拍置いて黙り込む。そこへ、デニスが顔を引きつらせながら口を開いた。
「それより、リーダー……どうするんです? 本当にサーシャと勝負するんですか? 相手は魔法使いですよ? 剣士のリーダーと魔法使いのサーシャで、どうやって勝負するんですか? 俺がリーダー相手なら、斬られて即死する自信ありますよ」
言われて、ようやくその点に思い至る。確かに、職業も戦い方もまるで違う。
だが、その時──レオニードが意外なことを言った。
「もしかしたら、いい勝負になるんじゃないか?」
その一言に、全員の視線が一斉にレオニードへ向いた。
「何言ってるんですか、レオニードさん!」
ルカが反射的に声を上げる。
「サーシャはランクDですよ? この人のランク、分かってます? Aですよ、A! しかも、かなり上のAですよ?!」
「分かってる」
レオニードは短く返すと、静かに続けた。
「……ルカ。覚えてるか? 俺たちが腐葉の森で『なかよし団』に会った時のことを。あの時、最初にサーシャがどこにいたか、見たか?」
「え?」
ルカが間の抜けた声を出し、考え込む。あの時は、旋風に巻き込まれたカティア嬢のことで頭がいっぱいで、サーシャの存在自体、意識していなかった。
「最初、サーシャは木の上にいた。そのあと、軽々と飛び降りて、俺たちの前に現れた」
その言葉に、皆が揃って息を呑む。
「それだけじゃない。“街道喰らい”の時も、サーシャは奴のおおよその位置に気づいていた。俺たちが何も分かっていないうちから、だ。さっきのギルドでも、移動に気づいた者はいなかった。……あいつは、気配を消すのが、かなり上手い」
「魔法使いなのに……?」
ルカの呟きに、レオニードが頷く。
「そうだ。あの動きで、索敵まがいのことができて、気配も消せる。魔法の実力は未知数だが、他にも予想外のことができる可能性はある。……そんな相手と、殺さずに勝負するとなると、決着は簡単じゃないだろう」
「確かに。サーシャを殺しちゃったら、求婚どころか、カティアちゃんに恨まれちゃいますしね」
ラリッサの言葉に、皆が黙る。それよりもイヴァンは、サーシャの知らなかった一面と、それを当然のように把握していたレオニードに衝撃を受けていた。
──なぜ、知っていたのに、何も言わなかったんだ?
胸の奥がちくりと痛む。
いや、分かっている。レオニードはそういう男だ。必要なことだけを、必要な時に出す。余計な説明をしない。その在り方を、イヴァンは信頼してきた。
疑っている訳じゃない──それなのに、置いていかれたような、取り残されたような、言葉にできない寂しさが胸に滲む。
「だとしてもですよ!」
ルカが叫ぶ。
「勝負して気を引くとか、なんでそんな方向に行くんですかー!」
だが、その言葉を遮るように、ラリッサが首を傾げた。
「それって、ダメなのかな?」
「え?」
「だって、サーシャより強い人としか結婚しないって言ったのは、カティアちゃんだよ? だったら、それを証明するには勝負するしかないじゃない。……カティアちゃんだって、それを分かった上で言ったと思う」
ラリッサはまっすぐ続ける。
「ランクは分かりやすい目安だけど、職業が違えば実際の力は戦ってみないと分からないよ。それに──勝負がダメっていうのは、ルカの価値観でしょ? カティアちゃんは、自分の価値観であの言葉を選んだんだと思う」
そして拳を軽く握った。
「“それはお兄ちゃんに勝ってからの話ですね”って言ってたじゃない。これはもう、勝負しろって言ってるのと同じよ!」
その熱量に、場が圧倒される。イヴァンは、ラリッサがここまで真っ直ぐに肯定してくれたことに、胸を打たれていた。
「ラリッサ……」
身体が動きかけた、その瞬間──
「イヴァン」
レオニードの手が、イヴァンの肩を抑えた。
「流石に、ラリッサはダメだ。……ルカにしとけ」
行き場を失った勢いのまま、イヴァンはルカを抱きしめていた。
「なっ! なんで俺なんですかー!」
「ラリッサ、ありがとう」
ルカを抱いたままそう伝えると、ラリッサはボグダンの影に隠れつつ笑う。
「求婚も引き抜きも、言い出したのは私ですし。確かに急だったとは思いますけど……カティアちゃん、嫌がってはいませんでした。だから、結果が出るまで付き合いますね!」
照れたように言うラリッサに、レオニードが小さく息を吐く。
「そうだな。イヴァンの気が済むまで付き合おう」
「しかたないな。うちのリーダーのためだ」
デニスの言葉に、ボグダンも静かに頷いた。それを見て、ルカはイヴァンの腕の中でもがきながら大きくため息をつく。
「……またこの流れですか。毎回、俺ばっかり否定してるみたいじゃないですか。……俺だって、リーダーを応援してるんです。だから、とことん付き合いますけど……絶対に殺しはダメですからね。そんなことしたら、カティアちゃんに一生恨まれますから。分かってますよね?!」
「ああ」
イヴァンが短く答えた、その拍子に、無意識のうちに腕に力が入っていた。
「ぐぇ! リーダー、死ぬ……っ」
ルカが大げさに悲鳴を上げ、その声が部屋に響いた。
「とは言っても、どうやって勝負をするんです? サーシャのあの感じだと、絶対に逃げるだろうし」
デニスが首を傾げて言った。
「確かにそうですよね。かと言って、家を知ってる訳じゃないし……やっぱり、ギルドで待ち伏せするしかないんじゃないかな?」
ラリッサがそう言いながらこちらを見ると、呆れたような顔で続ける。
「……イヴァンさん。そろそろルカを離してあげないと……締め付けすぎて、泡吹いてますよ?」
「ルカ、大丈夫か?!」
イヴァンは慌てて腕を解き、覗き込んだ。するとルカは、ぐったりした顔で正気に戻っていた。
「……危うく死ぬかと思った」
「イヴァン、次からはボグダンにしとけ。ルカだと死ぬ」
淡々としたレオニードの一言に、ルカが噛みつく。
「レオニードさんが俺にしとけって言ったんじゃないですか!」
どうやら意識はあったらしく、ルカはそのまま話を続けた。
「とにかく、明日からギルドで会えるのを期待するしかないですよね。かと言って、ずっと張ってるわけにもいかないですし……依頼をこなしながら、ですよね」
「そうだな。イヴァン、気持ちを優先したいだろうが、俺たちは冒険者だ。そのことを忘れないでくれ」
レオニードの静かな念押しに、イヴァンは小さく頷いた。
「ああ。わかってる」
確かに、これ以上、自分の都合で皆に迷惑をかけるわけにはいかない。イヴァンは自分に言い聞かせるように、ゆっくりと息を整えた。
──そして翌日。イヴァンとルカは連れ立ってギルドへ向かった。扉を開けた瞬間、刺すような視線が一斉にこちらへ集まる。
「ああ……視線が痛い……」
ルカが背中を丸めて小さく呟いた。そのときだった。
「よう、イヴァン」
一人の男が、にやついた笑みを浮かべて声をかけてきた。
「あんなに派手に求婚しておいて、よく恥ずかしげもなく顔が出せるもんだな。それで、サーシャと勝負はできたのか?」
周囲の冒険者たちも、面白がるような視線を向けている。イヴァンは気にせず、淡々と答えた。
「いや、まだだ。……誰か、サーシャを見かけた奴はいないか?」
「はっ、見ててもお前には誰も教えねーよ。みんなカティアちゃんを狙ってるんだ。お前、女に困ってねーんだから、別の女にしとけばいーだろ」
男の言葉に、周囲が同意するように頷く。イヴァンは小さく息を吐いた。
「くだらない考えだな。女なら誰でもいいなら、求婚なんてする訳ないだろう」
「なっ、てめー! それどういう意味だ!」
「ま、まあ、まあ! うちのリーダーが、すいませんね」
すかさずルカが割って入り、イヴァンの背中を押して奥へ進ませる。
「リーダー! 喧嘩売ってどうするんですか! それじゃなくても気まずいのに!」
「……そんなつもりはなかったんだが」
どうやら、また余計なことを言ってしまったらしい。
「とりあえず、冒険者に聞いても無理そうですね。ダメ元で職員の人にでも聞いてみますか」
「そうだな」
イヴァンたちは受付横で書類を整理している、見慣れた職員のもとへ向かった。
「あ、イヴァンさん、ルカさん。おはようございます。何かお困りですか? ああ……もしかして、あれですか……」
「あー、察しちゃった?」
ルカが苦笑いで応じる。
「すいませんが、あの件について、ギルドとしては何もご協力できません。パーティ同士の揉め事になりかねませんし……戦闘行為はギルド外でお願いしますね。勝負や決闘は、禁止ではありませんが、あくまで黙認です。目の届かない場所で行ってください」
「そうか……すまない」
「ちなみになんですけど……『なかよし団』の住まいとか……」
ルカがダメ元で尋ねる。
「すいません。それも、知っていてもお教えできません。個人情報になりますので」
「ですよねー」
「ルカ、無理を言わなくていい」
職員は少し笑って、付け足した。
「個人的には……イヴァンさんとカティアさん、お似合いだと思いますけどね。美男美女のカップルなんて、滅多に見ないですから」
その言葉に、胸がわずかに温かくなる。そのまま、イヴァンとルカはギルドの建物を出た。中で待っていても状況は動かない。そう分かっていたからだ。とりあえず外に出て、次の行動を考えようとして──
「おー! イヴァンじゃねーか!」
軽い調子で名を呼ばれ、イヴァンは顔を上げる。声の方を見ると、そこにいたのはダニールだった。その後ろに、アンドレイとミハイルの姿も見える。……面倒なのが来た。内心で舌打ちする。
「お前! カティアちゃんに求婚したんだって?! しかもギルドの中で! 笑かしてくれるよなあ! 俺も見たかったぜ!!」
「ダニール、そういう言い方はやめろ。イヴァンは真面目に求婚したんだ。笑っていいことじゃないだろ」
「アンドレイ。ダニールは求婚どころか、女の子と会話もしてもらえないから、イヴァンに嫉妬してるんだよ。言わせてやりなよ」
「ミハイル……さらっと本当のこと言うな。さすがにダニールが可哀想になる」
「え……二人とも、俺のこと嫌いなの? 酷い言いようじゃない?」
いつもの光景だ。どうしてこいつらは、揃いも揃ってこう騒がしいのか。イヴァンはため息をつき、その奥に、わずかな苛立ちが滲んでいた。
「ダニールさん、冷やかしならあっち行ってください! 俺たち忙しいんで!」
「硬いこと言うなよ、ルカ。それで? サーシャと勝負できたのか?」
イヴァンは短く首を振った。
「……まだだ。お前たち、サーシャを見かけなかったか?」
「あー、見かけたけど……」
ダニールはわざとらしく考え込む素振りをしてから、にやりと笑い、イヴァンに指を突きつけた。
「お前にだけは、ぜってー教えてやらねーーよ!」
……やはり、そう来るか。
「サーシャたちなら、ちょっと前に街の外に出て行ったぞ」
「たぶん依頼だね。早く行って、早く帰ってくるんだって言ってたよ」
ダニールの宣言を完全に無視して、アンドレイとミハイルがあっさり情報を出す。隣で、指を差したまま固まっているダニールが、間抜けな声を上げた。
「え? なんで普通に教えんの?」
「逆に、なんで教えないんだ。子供か、お前は」
「まあまあ、アンドレイ。ダニールは精神年齢がお子ちゃまだから仕方ないよ。でも僕たちは、イヴァンを応援してるから。カティアちゃんとうまくいくといいね」
「ミハイル……」
その一言で、胸の奥がふっと緩んだ。考えるより先に、身体が動いていた。
「はっ! リーダー!」
ルカの声が上がったときには、もう遅かった。気づけば、イヴァンはミハイルを抱きしめていた。
「わー。なんか知らないけど、イヴァンに抱きしめられたー。何気にいい匂いする〜」
「ミハイル……男に抱きつかれて喜ぶなよ……」
「え? ダニール、妬いてんの? そうだよね〜。ダニールは誰にも抱きしめてもらえないもんね。あとで僕が抱きしめてあげるからね〜」
「ばか! 俺だって、抱きしめられたことくらい………………?」
「あー、はいはい。もういいだろ、お前ら」
アンドレイが呆れたように言いながら、二人の腕を掴んで引きずる。
「俺たち、これから約束あるんだ。行くぞ」
「くそっ! イヴァンなんて、コテンパンに振られればいいんだ!」
「じゃあ、イヴァン、頑張ってね! あ、でもサーシャは殺さないでね〜」
そう言い残して、三人はギルドの中へ消えていった。
「よかったですね、リーダー。アンドレイさんとミハイルさんは応援してくれるみたいですね」
「そうだな……。とりあえず、サーシャが今は街にいないのなら、俺たちも簡単な依頼を受けるか」
そう言いながら、イヴァンは内心で小さく頷いた。……サーシャは、イヴァンに遭遇しないように動いているのだろう。
「それもそうか……あいつの本意ではないからな……」
言葉は、勝手に口から零れていた。
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