第12話
本作では、創作補助としてChatGPTを利用しています。
物語やキャラクターは作者自身によるものですが、文章整理や推敲の補助としてAIを使用している箇所があります。
また、「小説家になろう」のAI利用状況区分の設定機能開始後は、本作を「AI直接使用」として設定予定です。
街道が夕焼けに染まり、夜の気配が忍び寄り始める頃、イヴァンたちはすでに焚き火の前に集まっていた。昨日、“街道喰らい”の討伐を提案すると、ギルドはあっさりと了承した。それだけ、自分たちは信用されているのかもしれない。イヴァンは皆を見渡し、静かに口を開いた。
「今日、俺たちは“街道喰らい”を討伐する。そのために、班編成を少し変える」
焚き火の音だけが、短く間を埋める。
「俺と『灰色の刻』は、奴を探す探索班だ。レオニード、ボグダン、ラリッサは警戒班。デニス、ルカ、それと『なかよし団』は火の番と軽警戒を担当してくれ。今回は念のため、『なかよし団』は二人一緒に行動してほしい」
全員が頷くのを確認してから──いや、一人だけ、頷きもせず視線を逸らしている者がいた。だが今はあえて無視して、イヴァンは続けた。
「流れはこうだ。まず、探索班が糸を辿って“街道喰らい”を探す。発見次第、アンドレイが空に魔法を放って位置を知らせる。それまでは防御を優先して応戦し、全員が合流したところで一気に仕留める」
イヴァンはそこで一度、言葉を切った。
「戦闘時の配置は、初日に伝えた通りだ。無理はするな。最悪の場合、橋が壊されたとしても撤退は許容する。命を落とすことだけは、絶対に避けろ」
イヴァンが言い終えると、ダニールがいつもの軽い調子で口を挟んだ。
「大丈夫だって! 俺の経験上、このメンバーなら確実に倒せるからさ」
「黙れ、ダニール」
即座に言い返したのは、アンドレイだった。
「もっと緊張感を持て。そんな軽口を叩いて、もし誰かに何かあったら、どうやって責任を取るつもりだ」
「おう! その時は俺がそいつと結婚して、一生面倒見てやるぜ!」
「馬鹿か。死んだら結婚なんてできないだろう。そんな当たり前のことも分からないのか」
「やめてあげてよ、アンドレイ。ダニールはそうでもしないと、誰とも結婚できないんだから」
「そうか、ダニール。……色々と、気の毒な奴なんだな」
相変わらず収拾のつかない『灰色の刻』に、ルカが困ったように声を上げる。
「え、俺、ダニールさんと結婚するの嫌なんですけど……」
「誰が男と結婚すると言った! 結婚するなら女に決まってるだろ! な、カティアちゃ──」
そう言ってダニールがカティア嬢に手を伸ばしかけた瞬間、イヴァンは一歩踏み出し、ダニールの肩を強く掴んでいた。
「いい加減にしろ、ダニール。これ以上やるなら……」
思わず力が入り、肩口に思ったより強い手応えが伝わった。
「あ゛あぁぁぁ、待ってイヴァン! そこは折らないで! ごめん、ごめんって!」
喚くダニールに呆れ、イヴァンは手を離した。ダニールは即座にアンドレイのもとへ駆け寄り、魔法治療をねだる。アンドレイは深いため息をつきながら、黙って魔法をかけていた。
「これからすぐに行動に移る」
イヴァンは改めて全員を見渡す。
「全員、緊張感を持って動け。……分かったな、ダニール」
「……はい」
イヴァンはダニールを睨みつけたまま、短く息を吐いた。いよいよ、勝負の時だ。
イヴァンたちは前夜に“街道喰らい”の糸を発見した地点から、慎重に歩みを進めていた。糸を刺激しないよう、足運び一つにも気を配る。街道から少し外れるだけで、周囲はすぐに林に変わり、背の高い木々が視界を塞ぐ。夕闇を先取りしたような薄暗さの中、蜘蛛の糸は街道だけでなく、林の奥へと不気味に伸びていた。
この糸がどこまで感知するのか分からない。本来はこちらが奇襲を仕掛ける側だ。奇襲されるわけにはいかない。
「ねぇ、ダニールが前に“街道喰らい”を倒したのって、いつの話?」
静かな声で、ミハイルが口を開いた。
「あー……お前と出会う前だな。前のパーティにいた頃だ」
「そりゃ、随分前だな。あの大人数のパーティの時か」
アンドレイが思い出すように言う。イヴァンも気になり、ダニールに視線を向けた。
「その時は、どうやって倒したんだ?」
「無駄に人数が多かったからな。数でゴリ押し、って感じだったよ。体の割にやたら素早くて苦戦はしたけどさ」
ダニールは軽く肩をすくめる。
「パーティ自体は『蒼銀の翼』より弱かったしな。お前ら優秀だから、総出でやれば確実に倒せるはずだ」
──珍しく、素直に褒めてきた。一瞬、こいつも悪くない奴かと思いかけた、その時だった。
「ダニール。そんなふうに褒めても、イヴァンはカティアちゃんを諦めてはくれないと思うぞ?」
「ちっ……」
アンドレイの一言で、その考えはすぐに引っ込めた。その直後、ミハイルが声を潜めた。
「……しっ。アンドレイ、今は冗談言ってる場合じゃなさそうだよ。なんか、この先……嫌な感じがする」
「え? 俺なのか?」
間の抜けた返答をするアンドレイをよそに、場の空気が一気に張り詰めた。林の奥は暗く、風に揺れる枝葉の擦れる音さえ、何かが動いたように聞こえる。
ゆっくりと進んでいくと、前方には今までとは比べ物にならないほどの蜘蛛の糸が張り巡らされていた。もはや、避けて通ることは不可能だ。
「……いよいよ、巣っぽくなってきたな」
ダニールが、冗談抜きの声で呟く。
「もっとも、仮住まいだろうがな……」
「仮住まい、か」
イヴァンは周囲を見渡し、低く告げる。
「ここからは、いつ奴が現れてもおかしくない。警戒を怠るな」
そう言って、イヴァンは一瞬だけ息を止め、一歩、糸の張られた領域へ足を踏み入れた。一瞬、糸が震えた気がした。この糸は、獲物を絡め取るためのものじゃないらしい。やはり人間は、最初から獲物として見られていないのか──そんな考えが一瞬よぎる。だが、イヴァンは意識を切り替えて歩みを進めた。
アンドレイが小さく呟く。
「少し、足元がベタつくな……」
「気をつけろよ、アンドレイ。お前が最初にやられたら、他の奴らを呼べないからな」
「ダニール……恐ろしいことを言うのはやめてくれ」
アンドレイが呻くように言った、その瞬間だった。
「来るよ!!」
ミハイルが叫んだと同時に、正面から何かが飛んできた。全員が反射的に横へ飛び退く。
「糸だ──アンドレイ! 生きてたら今すぐ魔法を放て! 大体の場所でも知らせとけば間違いねえ!」
「だから恐ろしいことを言うな!」
そう言い返しながらも、アンドレイはすぐに詠唱へ入る。
「炎の精オゴニよ、我が灼熱の拳を焔とせよ──舞い上がれ《火炎球》」
火の玉が数弾、空へと撃ち上げられる。それを確認して、イヴァンは声を張った。
「ミハイル、奴の居場所はわかるか?」
「ちょっと待って……あ、後退してるみたい」
「まずいな。見失う前に追うぞ!」
糸が飛んできた方向へ走り出すと、皆が続いた。
「どこ行きやがった!」
ダニールが悪態をつく。糸が飛んできた方向に来たはずなのに、姿はない。代わりに、張り巡らされた糸だけが、明らかに増えていた。
その時──後方にいたミハイルが、慌てた様子で前へ跳ねてきた。
次の瞬間、糸が立て続けに飛んできて、その身体をかすめた。
「後ろを取られた!! あはは、僕、狙われてるっぽい!!」
「笑い事じゃない!」
イヴァンとダニールが前に出る。
茂みが大きく揺れ、木の幹が折れる音とともに、巨体が姿を現した。
──“街道喰らい”。
その体は、馬車よりもはるかに大きい。八本の脚が木々の間に広がり、闇の中で鈍く光る眼がこちらを見下ろしていた。この巨体で、ここまで気配を殺して動いていたことが信じられなかった。
「アンドレイ! もう一度、空に魔法を放て!」
指示を飛ばすと、アンドレイは即座に詠唱を始める。その間も、“街道喰らい”はミハイルへ向けて糸を放ち続けていた。
「なんでミハイルばっかり狙うんだ!」
「ああ? いつものことだから気にすんな!」
「あはは、僕、弱っちいから狙われやすいんだよ〜」
軽口を叩きながらも、ミハイルは器用に糸をかわしている。やがて、アンドレイの魔法が再び空へと放たれた。
「ミハイル、一旦後退しろ! もっと距離を取れ! ダニール、俺たちで気を引くぞ!」
「おうよ!」
イヴァンは剣を振りかぶり、“街道喰らい”へ斬りかかる。だが、巨体に似合わぬ速さでかわされ、刃は空を斬った。その直後、待ち構えていたダニールがハルバートを振り下ろすが、それすら見切られ、奴は後方へ飛びのく。
速い。本当に、速い。
着地するより早く、“街道喰らい”は再び糸を放った。今度の標的は──アンドレイ。
「嘘だろ!」
叫び声と同時に、一本の矢が糸を撃ち砕いた。ミハイルだ。間を置かず、二本目、三本目と矢が連続して放たれる。“街道喰らい”は、ぎりぎりのところでそれをかわした。
その間隔の短さに、イヴァンは息をのんだ。
「あんなの、立て続けに……!」
「あいつ、化け物じみてるだろ?」
ダニールが得意げに言った、その瞬間だった。
“街道喰らい”が、脚を四方から一斉に叩きつけてきた。地面が抉れ、砕かれ、跳ね上げられる──こいつは、ただ速いだけじゃない。一撃一撃が重い。
こちらの狙い通り、“街道喰らい”はイヴァンとダニールに意識を向けた。脚の攻撃が、間を置かずに襲い来る。
「食らうな、ダニール! 直撃したら死ぬぞ! 全員集まるまでキープだ!」
「死ぬかよ! アンドレイ、下がってろ! ミハイルの方には行くな、一緒に狙われる!」
「わかってる!」
アンドレイが即座に後退し、茂みに身を隠す。脚が振り下ろされる。避ける。次の脚。躱す。その次が、もう来る。反応はできている。だが余裕はない。──一瞬でも遅れたら、終わる。
その時、ダニールの足がわずかに滑った。
「っ……!」
一瞬だった。“街道喰らい”の八つの眼が、同時にダニールへ向いた。次の脚が振り下ろされる。逃げ場はない。
「ダニール!」
イヴァンの叫びとほぼ同時に、横合いから鋭い斬撃が走った。振り下ろされる寸前の脚へと迫り、一撃を止めさせた。瞬時に巨体は横へ跳ね、空間だけを斬り裂く音が響いた。
そこに立っていたのは、双剣を構えたレオニードだった。
「避けられたか。……速いな」
「おおおお、レオニード! 助かったぜ!」
「リーダー! 全員、集まりました!」
ルカの声と共に、奥から次々と仲間たちが姿を現す。──揃った。
「よし! 作戦通りだ、全員配置につけ!」
イヴァンが声を張り上げると、カティア嬢が前へ出てくる。
「カティア嬢、無理はしないでくれ」
「はい!」
笑顔だった。だが、その奥に緊張を隠して、剣を構えている。その姿に一瞬、意識を引かれ──すぐに我に返る。
ここからが本番だ。
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