第11話
本作では、創作補助としてChatGPTを利用しています。
物語やキャラクターは作者自身によるものですが、文章整理や推敲の補助としてAIを使用している箇所があります。
また、「小説家になろう」のAI利用状況区分の設定機能開始後は、本作を「AI直接使用」として設定予定です。
焚き火の明かりが照らしているのは、街道の縁までだった。その先にはすぐに木々が密集し、夜の闇に沈んだ林が広がっている。街道からそう離れていないはずなのに、林の奥は音を吸い込み、重い気配だけが残っていた。
イヴァンとカティア嬢の会話は、それほど弾むこともなく、ルカが場を回しているうちに、時間だけが静かに過ぎていった。やがて、レオニードが戻ってきた。その後ろには、ボグダンとラリッサの姿もある。
「交代の時間だ」
「そうか。皆、配置についてくれ。カティア嬢は、辛くなったらいつでも休んでいい」
そう軽く伝えると、彼女は疲れた様子も見せず、柔らかく微笑んだ。
「ありがとうございます。……あれ? お兄ちゃんがいない」
「サーシャなら、ぐっすり眠っていたから置いてきた」
「もー! しょうがないなあ! 私、起こしてきますね!!」
そう言って、カティア嬢は少しだけ頬を膨らませ、テントへ向かった。怒っているはずなのに、怖さは感じない。むしろ可愛らしい。そう思った瞬間、イヴァンは視線を切った。
「イヴァン」
レオニードが声を落として呼ぶ。
「“街道喰らい”だが、気配がずっとあちこちに漂っている。周辺のどこかにいるのは確かだ」
「……」
「相当大きいはずなのに、一度も見かけないということは、余程隠れるのが上手いか、移動しているのに音を一切立てないか……。気づいたら後ろにいる、ということもあるかもしれない」
「わかった」
イヴァンは頷き、持ち場へ向かおうとした。
その時──
「ほらぁー! お兄ちゃん、しっかりしてぇぇぇ! 自分で歩いてよぉぉぉ!」
夜気を裂くその声が、張り詰めていた緊張を叩き割った。振り向くと、カティア嬢がサーシャを引きずるようにして戻ってきている。サーシャの顔はひどく不機嫌──というより、目がほとんど開いていなかった。
「はい! ここ! レオニードさんの隣に座って!」
カティア嬢は無理やり立たせ、そのまま背中を押して座らせる。
「お兄ちゃん! お仕事なんだから、ちゃんと役に立たないとダメなんだからね!」
その言葉に、サーシャは舌打ちで答えた。迷いも遠慮もない。……こいつ。胸の奥から苛立ちが一気にせり上がる。だが、ここで荒事を起こすわけにはいかない。イヴァンは奥歯を噛み締め、どうにか感情を押し殺した。
その直後、レオニードが静かに口を開く。
「カティアちゃん、大丈夫だ。サーシャはちゃんと役に立っているよ」
「え?」
イヴァンも含め、その場にいた者たちが同じ反応をした。だがレオニードはそれ以上説明せず、焚き火へと視線を戻す。揺れる炎を見つめる横顔からは、真意までは読み取れなかった。
「それはどういう──」
イヴァンがそこまで言いかけた、その時だった。街道脇の茂み──林の入り口に近い場所から、かすかな物音とともに声が聞こえる。
「やあ、お疲れ様〜」
ミハイルだった。
「ミハイル、休憩しないのか?」
「うん、まだ体力に余裕があるし。じっとしてると退屈でね〜」
そう言うと、ミハイルは焚き火のそばまで歩き、サーシャの隣に腰を下ろした。イヴァンは軽く息を吐き、カティア嬢に声をかけた。
「カティア嬢、俺たちも警戒に──」
「サーシャ、そのパン何? 美味しそうだね」
イヴァンが言い切る前に、ミハイルの言葉が遮った。見ると、サーシャがどこからともなくパンを取り出し、一言も発さず無造作にかじっている。
「え? どこからパンを……?」
ラリッサが思わず声を漏らした。ミハイルは無邪気にサーシャの袖を掴む。
「僕にも少し分けてよー」
「……やだ」
短く不機嫌に答えるサーシャ。だがミハイルは気にせず続けた。
「えー、いいじゃん、ひと口だけでいいから〜お願い!」
観念したのか、サーシャはため息をつき、パンをちぎって差し出す。ミハイルは嬉しそうに口に運び、目を輝かせた。
「美味しい! サーシャ、今度ここのパン屋さん教えてよ!」
サーシャはパンをかじりながら、ちらりとミハイルを見ると、小さく頷いた。
「そうだ、ミハイル」
イヴァンは声をかける。
「“街道喰らい”なんだが、どうやら周辺をうろついているらしい。ダニールとアンドレイにも、十分気をつけるよう伝えてくれ」
「あー、やっぱり? なんかそんな気がしてたんだよねー」
ミハイルは肩をすくめた。
「あれ? ミハイルさん、索敵できるんですか?」
ラリッサが興味深そうに尋ねる。
「んー、ちゃんとした索敵は苦手なんだよねー。ただ、なんとなく嫌な感じするなーってくらい?」
軽い調子で、そう答えた。
「まあ、二人には僕から伝えておくよ。ダニールが用足し中に襲われたら、笑うしかないけどね」
「……ああ、頼む」
イヴァンは軽く頷いた。ミハイルの掴みどころのなさは、どこかカティア嬢に似ている気がする。ともかく、これで『灰色の刻』の面々にも伝わるだろう。気持ちを切り替え、イヴァンは改めてカティア嬢に声をかけた。
「カティア嬢、そろそろ警戒に向かおう」
「あ、はい。そうですね」
イヴァンたちが配置に向かおうとした、その時──
「あ!」
またミハイルの声がイヴァンの足を止めた。さっきからどうも調子を崩されて、なかなか警戒に向かえない。
「サーシャ、寝ちゃったよ」
「は?」
「ええ?」
振り返ると、パンを握ったまま眠り込んだサーシャの体が揺れていた。ふらりと倒れそうになったところを、ミハイルが抱き留める。パンは手から落ちかけていたが、ミハイルの手がぎりぎりで支えた。
「やだ、サーシャ、寝てる顔が小さい子みたいで可愛い〜」
ラリッサが近づき、拝むように見つめる。カティア嬢はイヴァンの隣で、なぜか誇らしげに大きく頷いていた。……イヴァンの口から出たのは、悪態だけだった。
「……火の番すらできないのか。まるで子供だな」
「サーシャって、これで何歳なんだろう……」
ラリッサの呟きに、イヴァンもついカティア嬢の方を見る。だが返事をしたのは、意外にもレオニードだった。
「イヴァンと同じ歳らしいぞ」
その一言で、全員の動きが止まった。ミハイルだけが気にも留めず、サーシャを抱き上げて立ち上がる。
「このままテントで寝かせちゃっていいよね。パンは手間賃として、僕がもらっちゃおう。ふふん♪ じゃあ、警戒頑張ってねー」
そう言って、ミハイルは休憩用のテントへ歩いていった。驚きを隠せないまま、イヴァンはレオニードに問いかける。
「レオニード、サーシャとそんな話をしたのか?」
「ああ。同じ班だからな」
同じ班……確かに。一緒にいる時間が多ければ、自然と会話もするのだろう。──本当なら、イヴァンもそうするべきなのだ。ルカは、カティア嬢と恋人同士になりたいならサーシャと仲良くするのが最善策だと言っていた。それは理解している。だがサーシャを見ると、苛立ちばかりが募り、素直に歩み寄る気持ちにはなれなかった。ルカの“何がなんでもじゃない”という言葉に、今は縋ってしまっている。
「お兄ちゃんが自分のこと話すなんて珍しい……」
「待って! 嘘でしょ!? あの見た目で、私より年上なの!!」
ようやく理解が追いついたのか、ラリッサが声をあげた。……イヴァンも同じだった。思いのほか、あの見た目に引っ張られていた。その事実が、イヴァンの中の“普通”という感覚を揺らした。
片手で軽く頭を押さえながら、イヴァンはカティア嬢に声をかける。
「カティア嬢、今度こそ警戒にあたろう。こうしている間にも、“街道喰らい”の脅威が近づいているかもしれない。ルカとデニスにも、より一層の警戒を伝えに行こう」
「そうですね!」
彼女は拳をぎゅっと握りしめ、意気込みを見せた。その姿があまりに愛らしく、イヴァンの頭を占めていた重い考えは一瞬で薄れていった。
イヴァンたちは、ルカとデニスが警戒している橋の傍までやってきた。レオニードから聞いた話を二人に伝え、より一層注意するよう促す。話を終え、イヴァンは何気なく視線を巡らせた。
橋の周りは、街道沿いでありながら、すぐ脇から林が迫っている。来た時から変わらないはずの光景が、なぜか今は重く感じられた。
風は吹いているはずなのに、葉擦れの音はほとんど聞こえない。この一帯だけが、息を潜めているように思えた。
次の瞬間、月明かりの下で何かが光ったように見えた。気になって近づいてみる。角度を変えると、光を受けて地面の何かが反射する。
イヴァンはしゃがみ込み、指先でそっと触れた。
「これは……!」
イヴァンは思わず背筋にぞっとしたものが走り、勢いよく立ち上がった。蜘蛛の糸だった。しかも、まだ新しい。周囲を見渡すが、何かが潜んでいる気配はない。──こんなにも近くまで、気づかれもせずに来ていたというのか。
「リーダー、どうしたんです?」
異変に気づいたルカが、こちらへ歩み寄ってくる。
「“街道喰らい”が、ここまで来ているらしい。新しい糸が張られている」
「えっ……!」
ルカは慌てて周囲を見回す。その瞬間、少し離れた場所で茂みが揺れ、ルカの肩がびくりと跳ねた。だが、それきり何も起こらなかった。
「……風で、揺れただけ……ですかね?」
息を飲むように、ルカが言った。
「どうだろうな。だが、これではっきりした」
イヴァンは糸に視線を落とし、静かに続けた。
「本当に、“気づいたら後ろにいる”ことも、十分あり得る」
もしかすると、思っているほどのんびりしていられないのかもしれない。橋を壊される前に、手を打つ必要がある。そう考えると、ダニールの案も相当馬鹿にできない。
「あいつ、あんなんでも馬鹿ではないんだな……」
思わず口から零れた。
「この糸、どこまで続いてるんですかね……」
ルカが、ふと思いついたように言う。もしかしたら、この糸を辿れば“街道喰らい”に辿り着けるのかもしれない。そもそも、こんなにも糸を地面に張る理由は何だ──
「もしかして、この糸で俺たちの動きを把握しているのか……。そうなると、やたらな動きはできないな」
そう考えた瞬間、傍で何かに見られているような、そんな錯覚に囚われた。
「ルカ、蜘蛛の糸には十分注意しろ。下手に触れれば、奴を刺激するかもしれない。それと──俺たちは、次の夜には“街道喰らい”を狩る。そのつもりでいてくれ」
「了解です……」
イヴァンの決意に、ルカは緊張した面持ちで頷いた。
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