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第10話

本作は自分の考えた世界観やキャラクターをもとに、小説の文体化をChatGPTにサポートしてもらいました。物語そのものはすべて自分の手で作っています。

第10話


「なあ、俺たち、別に“街道喰らい”を待つ必要、なくないか?」


 休憩していたはずのダニールが、ふらりとイヴァンのところへやってきて、前触れもなくそんなことを言い出した。


「いや、待っているわけじゃない。俺たちの依頼は橋の警護だ。“街道喰らい”が現れたら対処する。討伐は、その延長にある」


「だから、その“延長”を前倒しできないかって話だよ。無駄に体力を削らずに済むし、万が一この場所で戦闘になって、橋を守りながら立ち回るより、別の場所で戦った方が俺たちも動きやすいだろ」


 いつもの軽口調ではない。ダニールが珍しく真面目な顔で、筋の通ったことを言ってきたことに、イヴァンはわずかに驚いた。


「確かに、一理はある。だが、橋の修復が終わり次第、討伐に移る。それがギルドの方針だ。それに──俺たちだけで確実に仕留められる保証はない」


「その方針自体は分かってるさ。でもよ、また橋を壊されたらどうする? 金も、労力も、時間も、全部やり直しだ。だったら最初から、損失を一番小さく抑える動き方をした方が賢いだろ」


 ダニールは一度言葉を切り、少しだけ口角を上げた。


「それにさ。『蒼銀の翼』と俺たちが組んでりゃ、倒せると思うんだよな」


 そのやけに確信めいた口ぶりに、イヴァンは思わず問い返した。


「……もしかしてお前、実際に“街道喰らい”と戦ったことがあるのか?」


「ああ、昔に一度な。あの時と同じくらいの大きさなら、いけると思う」


 ダニールはあっさりと言ってのけた。


「それに“街道喰らい”ってのは、何度巣を壊されても、少しずつ場所をずらしながら作り直すんだ。でも、完全に街道から離れることはない」


「……街道から外れない? どうしてだ?」


 そう問い返すと、ダニールは肩をすくめる。


「さあな。餌でもあるんじゃねぇの?」


 その言葉に、イヴァンの胸の奥がわずかにざわついた。以前カティア嬢から聞いた、“魔物に生態系はない”という話と、どうにも噛み合わない気がした。……だが、考えるのは後だ。


 イヴァンは火の番をしているレオニードに声をかけた。


「レオニード、ちょっと来てくれ」


 レオニードは近くにいたボグダンに軽く合図を送り、こちらへ歩いてくる。イヴァンは、先程ダニールと交わした話を一通り伝えた。


「……どう思う? 確かに、討伐できれば一番いい。だが、打ち損ねれば危険だ。下手に刺激して昼にも“街道喰らい”が暴れでもしたら大事になる。悪い案じゃないが、正直、簡単に決められる話でもない」


 イヴァンがそう言うと、レオニードは一拍置いてから、冷静に答えた。


「そうだな……。討伐できればメリットはあるが、リスクもある。失敗すれば昼も夜も安全が脅かされるし、橋どころか命に関わる。俺たちの戦力なら余裕はあるが、無理は禁物だな」


「方針通りに動けば、いずれ解決はする。ただ、その間に橋が壊される可能性は残る。だから待つだけじゃなく、被害を抑える手も考えるべきだろうな。それができればメリットが大きいのは確かだ」


「つまり、悪い案じゃない。だが扱いを誤れば命取りになる、ってことか」


「……ただし、今夜勝手に動くのは避けた方がいいな。まずはギルドの許可を得て、全班に状況を共有するのが先だ。焦って動いて失敗すれば、それこそ全員が危険に晒されるからな」


「そうだな。そうしよう」


 レオニードの言葉に、イヴァンは迷いなく頷いた。方針は固まった。あとは、正しい順序で動くだけだ。


「なあ、なんで俺が言った時は悩んでたのに、レオニードが言うと納得するんだよ? 言ってること同じだろ?」


 腑に落ちないような顔でダニールが聞いてくる。だが、イヴァンもレオニードも何も言わなかった。


「いや、なんか言えよ」


 イヴァンは思わず苦笑した。レオニードは相変わらず無表情のままだ。二人は顔を見合わせる。


「もういいわ! ……なんか悲しくなってきたから、俺は時間まで休むよ。とほほ……」


 そう言い残し、ダニールは力なく手を振り、休憩用のテントへと戻っていった。


 イヴァンたちは警戒を終え、交代の時間が来た。今度は火の番に回り、相変わらずルカは一人で途切れることなく喋り続けている。


 不意に、ルカがこちらを見て立ち上がった。


「あー、リーダー。俺、小便したくなったんで、一緒に来てください」


「は? 一人で行けるだろ」


「俺が小便してる間に、“街道喰らい”に襲われたらどうするんですか!」


「……まあ、確かにそうだな。仕方ない、ついていこう」


 そう言ってイヴァンは立ち上がり、ルカと並んで茂みへ向かった。考えてみれば、無防備な状態で襲われたらひとたまりもない。そう思うと、やはりカティア嬢とラリッサは同じ班にしておいた方が良かったのでは、そんな考えがふと頭をよぎった。


「リーダー、今ちょっと考えましたよね? カティアちゃんとラリッサさん、同じ班にしとけばよかったって」


「ああ……よく分かったな」


「そんな心配しなくても、警戒班がいるんですから大丈夫です! そもそもこれは、リーダーを連れ出すための口実なんですから!」


 そう言って、ルカはイヴァンを指さし、少し語気を強める。


「それより! リーダー、何やってるんですか! せっかくカティアちゃんと同じ班なんですから、黙ってちゃダメでしょう! 俺ばっかり喋ってたって意味ないんですよ! もっと積極的に話しかけてくださいよ!」


「あ、ああ……。そうは言っても、何を話せばいいのか……」


「あるでしょう! 趣味は何かとか!」


「趣味……」


「好きな本とか!」


「本……」


「普段どんな風に過ごしてるかとか!」


「……?」


 どこかで、似たようなことを言われた気がする。思い出せないが、人と会話するだけで、ここまで必死になったことが今まであっただろうか。


「……分かった。俺なりに努力してみる。よし、戻るか」


「あ、待ってください。小便するんで!」


「お前、それ、ただの口実じゃなかったのか……」


 小さく息を吐き、イヴァンはルカを待ちながら考える。自分には趣味がない。本も読まない。普段はただ、冒険者として動いているだけだ。


 やがて用を済ませたルカと共に焚き火へ戻る。ルカはデニスの隣に腰を下ろし、今度は妙に強い眼差しでイヴァンを見てきた。……これはもう、逃げ道はないな。


 イヴァンは少し間を置いてから、思い切って声をかけた。


「……カティア嬢。その……趣味は──何かあるのか?」


 口に出した瞬間、イヴァンは自分でも唐突すぎると思った。視線の先で、焚き火を挟んだ向こうにいるルカが、言葉を失ったような顔をしている。口を半開きにしたまま、わずかに固まっている──ああ、今のは完全に唐突すぎるという反応だ。


 カティア嬢も一瞬きょとんとしたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。


「趣味ですか? えーっと……んーーー……」


 少し考え込んだ末に、


「……ないです♪」


 拍子抜けするほど、あっさりした答えだった。


「そうか。実は俺も、趣味と言えるものは特にないんだ」


「えへへ、一緒ですね〜」


 場が少し和んだ……気がした。イヴァンはその流れに乗るように、次の言葉を探す。


「……じゃあ、読書とかはどうだ? 本とか」


 脳裏に、さっきルカに言われたことがよぎる。ちらりとルカの方を見ると、苦い顔でこちらを睨みつけていた。……違ったか? 胸の奥に、ほんの小さな不安が残る。


「本ですか? 全然読まないですね。文字をずっと追うのが苦手で……」


 そう前置きしてから、カティア嬢は少し楽しそうに続ける。


「小さい頃は、お兄ちゃんが読んで聞かせてくれたんです。でも最近は、声に出すのが面倒らしくて。もう聞かせてくれないんですよ」


「そうか。俺も、じっと本を読むよりは体を動かす方が好きだ。読むと言えば……妹からの手紙くらいだな」


 そう口にしながら、イヴァンはふと思う。サーシャが本を読むその光景は、どうにも想像がつかなかった。


「カティア嬢は、普段はどんな風に過ごしているんだ?」


「んーーー……冒険者として働いてる、くらいですかね!」


 即答だった。あまりにもあっさりしていて、イヴァンは一瞬言葉に詰まる。


「……それも、俺と同じだな」


「あ! でも、暇な時はお兄ちゃんを観察してますよ♪ ずっと見てても飽きないんです! 可愛いんで♡」


「あ、ああ……。俺も、妹のことはよく考えている。手紙も、わりと頻繁に書いてるし……」


 サーシャを“観察していて飽きない”という感覚は、正直よく分からない。だが、流れでそう返すしかなかった。……これは、合っているのか? これでいいのか? 自分でも分からなくなってきた。


 ルカはこめかみに指を当てたまま、静かに天を仰いでいる。やはり、外しているらしい。


 その空気を気にも留めない様子で、カティア嬢が少し身を乗り出す。


「前に話してた妹さん、ですよね? どんな人なんですか?」


「……どんな人、か」


 イヴァンは思わず言葉に詰まった。“兄としてではなく自由に生きてほしい”と綴られていた、あの手紙以来、モラナはどこか辛辣で、会いに行ってもため息をつかれるばかりだった。


 正直なところ、今の彼女がどんな人間なのか、イヴァンにはよく分からなくなっている。だが、つい先日届いた手紙を思い出すと、ほんの一瞬、昔の面影を見た気もした。


「……厳しい人、かな。昔は……カティア嬢みたいに、兄の俺を慕ってくれていたと思うんだが」


「慕ってる……?」


 カティア嬢は少し考え込み、


「うーーーーん……」


 どこか納得していない様子で、


「慕ってる、ですかねぇ……?」


 ……ん? 何だ? そのなんとも言えない反応に、イヴァンは少し戸惑った。


「カティア嬢は……サーシャを、慕ってるんじゃないのか?」


「うーーーーん……」


 歯切れの悪い返事。どうにも噛み合わない。訳が分からなくなって、イヴァンはルカの方を見る。


 ルカは何とも言えない顔でイヴァンからそっと視線を外し、そのまま焚き火を見つめた。


「……俺は兄弟じゃないですけど、リーダーの事、慕ってますよ」


 そう言ってから、ルカは今度ははっきりとカティアの方を向いた。


「カティアちゃん、リーダーは、ほんとにすごいんだよ。状況を見るのがめちゃくちゃ冷静で、どんな場面でも判断を誤らない。なのに、仲間が危なくなると自分が前に出るんだ。ちゃんと全体を見ながらさ」


 焚き火の爆ぜる音が、一瞬だけ間を埋めた。


「それから、優しいだけの人じゃなくて、必要ならちゃんと厳しい。……それで、自分のことはいつも後回しにしちゃうのが、悪い癖なんだけどさ」


 ルカはそこで一度言葉を切った。


「戦い方も、正直意味分かんないくらい強いよ! 動きは速いし、力もあるから、一振り一振りがとにかく重いんだ」


 少しだけ熱を帯びた声になる。


「この前の討伐も、正直……かなり危ない相手だったけど、ほぼ一人で押し切っちゃったからね! 俺なんか、正直、死ぬかと思ったくらいだよ」


 そう言って、ルカは苦笑した。


「でもこの人、最後まで立っててさ。終わった後は『怪我はないか』って、真っ先にそれだよ? 俺が女だったら惚れてるね」


 肩をすくめたまま、改めてカティアを見る。


「……まあ、そういうの見ると、慕わない方が無理というか。かっこいいなって思うよ」


 最後に、少しだけ照れたように付け足した。


「あと、背は高いし、顔も整ってるし、料理までやたら上手い! そこは本気で意味分かんないけど、それ込みで俺はこの人がリーダーで良かったと思ってるんだ!!」


 ルカは言い切って、恥ずかしいくらい誇らしげな顔をした。聞いている当のイヴァンの方が、いたたまれなくなった。


 場が静まり返り、誰も喋らない。デニスも、ルカを見たまま呆けている。


 やがて、カティア嬢が口を開いた。


「……へー…………。イヴァンさん、凄いんですね!」


 どうやら、ほとんど響いてはいなかったらしい。ルカは分かりやすく肩を落とした。その肩を、デニスが軽く叩いた。


「ルカ、俺は感動したよ。うちのリーダーは最高だよな……」


「デニスさん……」


 気持ちは嬉しいが、正直、イヴァンはこれ以上は勘弁してほしかった。

ご感想・レビュー・誤字報告など、ぜひお気軽にいただけたら嬉しいです。

「ここが気になった」「このキャラが印象に残った」など、一言だけでもとても励みになります。


いただいたご感想は、今後の創作の参考として大切に読ませていただきます。

楽しんでいただけましたら、ぜひ気軽にお声を聞かせてください。

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