終戦への道
ここは戦艦大和の幹部用会議室である。
最初、なぜ日本が誇り、天皇陛下から下賜された軍艦に女が・・・と不満げな顔をしていた幹部も大和の能力の一端を見せられ、恐怖していた。
「彼女はこの天一号作戦を成功に導き、我が大和を沖縄に導いた立役者だ。元帥になってもおかしくはない。」
ということで会議に出席を認められている。
「敵艦隊を殲滅させたアレは何なのですか?」士官が言う。
「ローレンツ力を応用した兵器です。質量兵器にも転用出来ますので、この地球どころか、太陽の破壊も可能です。」
大和は言った。
その言葉に室内はどよめく。
彼らは嘘や大げさだとは思えなかった。
あの大津波を引き起こした破壊力を目の当たりにしたからだ。
「その技術を我が帝国に提供するのですか?」
「それは無理です。」大和はきっぱり答える。
「考えて下さい。この戦艦大和ごと過去へ時間転移したとしましょう。・・・過去の人間が使いこなせると思いますか?」
その答えに幹部はそれぞれ顔を見合わせる。
そうなのだ。
あの進歩的と言われた、織田信長にも扱えるかという問いだ。
主砲を撃って、当時交戦した毛利勢を討ち滅ぼすことは出来るかも知れない。
この大和の主砲の射程距離は約50キロ、瀬戸内海から艦砲射撃して、毛利の城を殲滅するのは造作も無いことだ。
それに船体が高いので、毛利の傘下の村上水軍も歯が立たない。
しかし補給となると絶望的である。
大和の主砲弾は約1トン。しかも砲弾は大和の主砲の規格に合わせなければならない。
主砲弾一つにとってもそれを作るための技術的な問題が、直接的にも間接的にも絡んでくるのだ。
(もっとも超未来の戦艦の生体端末にそうした縛りは一切無い。解消されているのだ。)
「ただし、この後の歴史は言うことは出来ます。すでに歴史はかわってますけど。
私たちの歴史では・・・・まず4月7日、・・・・一週間ほど前ですが、大和は沈みました。」
その大和の言葉に会議室はざわめいた。
「6月22日、沖縄は米軍に占領され、そして、8月6日、広島に原子爆弾が投下されます。」
「原子爆弾とは何かね?」
「私たちのもってる兵器に比べれば、水鉄砲みたいなものですが、この時代では間違いなく最強の兵器でしょう。
一発で街は壊滅します。」
「爆弾なのかね?それは。」
「普通の爆弾を起爆剤にして核分裂反応を起こすのです。厳密に言えば違うのですが、あの太陽で起こってることを地上で再現させたものみたいなものです。」
幹部らは想像出来なかったらしい。
「8月8日、ソ連は日ソ不可侵条約を破棄し、満州へ侵攻します。
その次の日に同じような爆弾が長﨑に落とされ、同じように長﨑は壊滅します。」
その事実に幹部等は顔を見合わせた。
「8月15日、日本は無条件降伏します。」
「降伏ですと・・・!?」
正直、大和はこれを言うか迷っていた。
「それから日本は敵国アメリカと同盟を結び、高度経済成長に入っていきますけど。」
この辺はすでに関係無い話かもしれない。
歴史は変わっているからだ。
「私はこのレールガンを脅しに使おうと思っています。」
「具体的には?」
「米機動艦隊の乗組員はほとんど生き残ってますよね。彼らに無人島を吹き飛ばすところを見せるんですよ。」
「彼らは敵国人だ。捕虜にして沖縄に連行すべし。」
「彼らに圧倒的な力を見せつけて、本国で流布させた方がいいと思いませんか?」
大和は言った。
彼女には人間らしい感情もあるが、軍艦として状況を見るべきことも弁えている。
「山本長官はアメリカで厭戦気分が盛り上がることを期待されてたと聞いています。
それを実行するんです。力の差を見せつけて恐怖心を煽り、厭戦世論を盛り上げます。」
大和はにっこりと笑った。
マーク中将はうなされていた。
至近距離で爆発が起こったかと思うと大津波が発生し、彼らにまともに襲いかかったのだ。
彼は全身汗びっしょりで目が覚めた。
「夢か・・・・。」彼はつぶやくように言った。
現実も悪夢だ。
あの後、彼らはよりによって日本軍に救助され軟禁されている。
「目が覚めましたかな?」アドミラルイトーが入ってきた。
「はい。」
自分はこれからどうなるのか・・・と不安に思った。
いや、それよりも部下だ。
「外の空気を吸われると良いでしょう。」
私は日本軍に甲板で処刑され、海に捨てられると何となく察知した。
戦争中なのでそんなものはお互い様だ。
彼らも基本、捕虜をとりたくないのである。
捕虜を取りたくないならどうするか?処分するしかないのだ。海の上で。
甲板にでた彼は、生き残って憔悴しきった部下と再会する。
その時、巨大な主砲の上に少女がいるのを見た。
なぜこんな軍艦に少女が・・・と疑問を持つ。
でもこれから死ぬ自分に詮無きことである。
少女は進行上を見ていたが、右手を突き出すと小さな金属みたいなのを自分の前に弾いた。
その次の瞬間、すさまじい光のようなものがはなたれ、眼前の小島を爆散させた。
「!!」
キノコ雲がわき上がる。
(こ・・・これは!!我が艦隊を壊滅させたものなのか!!)
小島は跡形も残っていない。
戦艦大和上の将兵は敵味方の区別無く全員、あ然としていた。
伊藤長官も例外ではなかったが我に返って、マーク中将に言った。
「どうですかな?我が帝国の新兵器は。」
「今のは新兵器なのですか?私には何を言えばいいのか分かりません・・・。」
「大和くん。もう一度お見せしろ。」
伊藤長官は主砲塔の上に立っている少女に言った。
「では1メガトンの出力で行きます。」
大和は純粋なレールガンから核粒子砲へ、※体内攻撃機構を切り替えた。
体内攻撃機構とは、位相が異なる別次元に構築されている攻撃システムを一時的にダウンロードすることで既知のあらゆる兵器を使用可能にする。
似た機能を挙げるとするなら、パソコンにおけるソフトウエアプログラムだ。
あれは言語の記述によってまったく違うソフトウエアを作ることが出来る。
安全機能として周囲100キロに別の船舶があるかを確かめ、発射態勢を整えた。
あった場合はシールドを展開する。
当然、大和以下の日本艦隊の前面にシールドを展開する。
ちなみに核粒子砲は水爆みたいなのと違って、放射能は出さない。
余分なものは出さないからだ。
太平洋上に巨大なキノコ雲がわき上がった。
これこそ、戦闘情報共有システムの利点だ。
このシステムは時間や次元を越える。
(もし、魔法が使える世界に行ってもそれを解析さえすれば、フィードバックが可能なのだ。)
まさにチートである。
このキノコ雲は当然、太平洋上の敵艦隊や潜水艦隊群も発見していた。
ま・・・まさか・・・この少女は。
マーク中将は最近、米軍内で噂される話を思い出した。
3月の東京空襲に参加させたB29を全滅させたという、黒髪の少女・・・・。
「ゲイシャ・ガール・・・。」と思わず口に出した。
その独り言に大和は反応する。
「ゲイシャ・ガール・・・・?私のことですか?それは。」と大和は主砲塔から降りてきていった。
米兵達は怯える。
無理も無い。
「抗議しますわ。マーク中将閣下。私の名前は大和です。」
と流暢な英語で抗議した。
「ヤ・・・マ・・・ト・・・?」
「以降、お見知りおきを。閣下。」
1945年5月帝都東京。
この世界では東京大空襲は存在していない。
また空襲できる爆撃機をほとんど海の藻屑にしていたので日本中の都市は無傷だった。
本当に戦時下かというぐらい長閑なのだ。
『大和』という少女の話はすでに帝国政府の上層部にも有名である。
当然、やんごとなき方々もご存じである。
その辺りは割愛するが、無視出来る範囲を超えていた。
問題は彼女の身分である。
戦果はキリが無い。
今年になってから、沖縄ふくむ日本本土への攻撃が皆無。
一時捕虜となり、今は本国に送り返されたマーク中将の話によれば、ほとんど全て落としてたらしい。
だから米軍は彼女のことをゲイシャガールと呼んで侮蔑していたのだ。
そして4月の天号作戦の成功である。
『元帥』に列せよと鶴の一声もあった。
『大和』と面会し、いたく気に入られた陛下である。
大和は親であるサクラニレザキが大佐である以上、これを固辞したのだった。
使いはそれでも食い下がり、大和は根負けし、上司の指示を仰いでからと承諾した。
サクラニレザキは最初こそ面白がっていたが、本気だと分かると上層部に問うとのことだった。
そして指定された返事の時間が来たのである。
立体スクリーンに正規の軍服を着たサクラニレザキが映し出され敬礼した。
伊藤中将以下幹部も答礼する。
「わたくしは、大日本帝国宇宙軍情報技術部上級宙佐・サクラニレザキであります。」
「伊藤です。」
サクラはやっぱり大和に似ている。
「我が国の見解を伝えます。この世界限定の身分なら容認するとのことです。」
伊藤はほっとした。
断られたら切腹も覚悟していたのだ。
「それから、私事なのですが・・・・。」サクラは大和を見た。
「この『娘』は私の子供なのです。もしそれを侵害するようなことがあったら、親として強制帰還をこの子に命じます。
このことは私どもの軍の上層部も承知していますので。」ちょっと厳しい表情でサクラは言った。
「はい。お任せ下さい。」
「それを聞いて安心しました。大和。」
「はい。」緊張した面持ちで大和は返事をした。
「現時点を以て、あなたの任務を凍結します。」
ほどなくして、勅命がくだった。
日本本土回復のために以下の事を実施するとの旨である。
一、朝鮮半島を売却し、その金で国土強靱計画を実施すること。
一、帝国陸軍を中国大陸から撤収すること。
一、地政学に基づき、東南亜細亜と南洋諸島(後のミクロネシア)を発展させ、米豪を分断させること。
元帥となった大和の最初の提案がそれだったのだった。
※体内攻撃機構:パソコンのCAD→(仮想)3Dプリンター→実弾入りを一元的に行うシステム。レベル5生体端末以上に実装。




