坊ノ岬沖海戦
直径数十メートルの隕石が、直径1キロ以上のバリンジャー・クレーターを形成したように、直径10センチの鉄球もまた、海面を穿つ。
熱エネルギーもすさまじいが、恐ろしいのはその時に発生した海面の振動である。
至近距離に着弾したものだから、そのうねりはまともに米艦隊に襲いかかったのだ。
熱エネルギーよりその津波の方が、米艦隊に致命的な被害を与えた。
空母エンタープライズ、ホーネット、ベニントン、ベローウッド、サンジャシント、エセックス、バンカーヒル、ハンコック、バターン、イントレピッド、ヨークタウン、ラングレー)に乗っていた約400機の攻撃機は大津波に激しく煽られ、海に落下する。
軽空母は悲惨なものだった。爆風と衝撃波でもあやうく沈没しそうになったが、津波がとどめを刺した感じである。
「なんてこった・・・・!」将旗が翻る旗艦空母エンタープライズの艦橋では、マーク中将がものに掴まりながら吐き捨てた。
「津波確認!」
大和の戦闘指揮所ではその報告がなされていた。
「波に対し直角にしろ!急げ!」
「みぎげん、面舵まわーせー!!」
大和や軽巡洋艦矢矧以下駆逐艦で構成される日本艦隊は回避運動を取り始める。
彼方にキノコ雲がわき上がっていた。
(原子爆弾だけがキノコ雲を作るわけではない。皮肉なことに大和撃沈の際もキノコ雲は発生した。)
「こ・・・・これは・・・・!」
これは戦意喪失ものである。
彼女が平文で津波を警告という意味を伊藤長官は理解した。
まるでソドムとゴモラを滅ぼした神の裁きだ。
インドの伝承にあるインドラの矢だ。
米軍機動艦隊に対し、彼らの戦意を一気にそぎ落とす計算ずくの攻撃である。
彼は、敵であるはずの米艦隊に同情せざるを得なかった。
「有賀くん。」伊藤長官はいった。
「確かに彼らは憎い敵だが、海の男としてはどうするべきなのかね。」
「長官」大和艦長、有賀幸作大佐は言った。
「敵を助けよとおっしゃるのですか?」
「元帥府に列せられた山本長官もおそらくそう判断されるだろう。」
山本五十六は2年ほど前にすでにブーゲンビル島にて戦死している。
「・・・はい。」
有賀大佐はそう敬礼すると、全艦に下命した。
「これより救援に向かう。国際救援旗を掲げよ!」
大和に国際信号旗に基づく、救援旗・ヴィクター (Victor)が掲げられた。




