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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season14 Le choix《ル・ショワ》 ― 選択 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season14 Le choix《ル・ショワ》 ― 選択 ―
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Chapter7 社長が気づきはじめる

織原(おりはら)梨杏(りあん)は、自分が社長の椅子に座っている理由を、ときどき考える。


――あまりにも、早すぎた。


前社長の急逝(きゅうせい)。混乱する社内。

傾きかけていた業績。


それなのに、気がつけば道は整えられていて、気づけば名前が挙がり、反対の声もほとんどなく、「お願いしたい」と背中を押されていた。


――私は、

――そんな器だっただろうか。


そう思わなかったわけではない。


だが、その疑問は、いつも同じ2人の存在によって打ち消されてきた。


「社長なら大丈夫です」

「あなたしかいません」


優しく、穏やかで、いつも正しい言葉を選ぶ人たち。


社長に就任してからも、その2人は常に隣にいた。


判断に迷えば支え、責任が重くなれば引き受け、表に立つのは梨杏(りあん)で、裏を整えるのは彼らだった。


――この人たちがいなければ、

――私は、ここに立っていない。


感謝している。

それは、嘘じゃない。


けれど。

ふとした瞬間に、胸の奥に残るものがあった。


「……このプロジェクト、遅れると困りますよね」


柔らかな声。

穏やかな笑顔。


「社長が困るようなこと、私たちは避けたいだけです」


それは、優しい言葉だった。


だが――


なぜか、選択肢がひとつしかない言い方だった。


「……それは、脅し?」


ある日、冗談めかして言ったことがある。


ほんの出来心だった。

深い意味はなかった。


その瞬間、2人は一斉に笑った。


「まさか」

「そんなこと、言うわけないじゃないですか」


声は明るく、表情も穏やかで、非難の色など、どこにもなかった。


「社長、考えすぎですよ」

「気のせいです」


そう言われて、梨杏(りあん)はそれ以上、何も言えなかった。


――気のせい、なのだろうか。


そう思おうとした。


だが、その違和感は消えなかった。


優しさの中に、逃げ道がない。


選択しているようで、導かれている。


気づけば、「そうするしかない」場所にいつも立っている。


最近になって、その感覚は強くなっていた。


スマートオフィス化。


本来なら、未来に向けた前向きな改革。


なのに、話を進めるたびに、どこかでブレーキがかかる。


「そこは触らなくていい」

「今まで通りで問題ありません」

「余計な混乱は避けましょう」


それは、会社のための言葉だったはずなのに。


――なぜ、

――“見せない”ことを、

――そんなに恐れるのだろう。


梨杏(りあん)は、デスクに置かれた資料を見つめる。


その中に、如月(きさらぎ)環(たまき)の名前があった。


丁寧な字。静かな視点。

質問は鋭いが、責める色はない。


それなのに――


周囲の空気が、ほんのわずか、張りつめる。


「……」


梨杏(りあん)は、知らず知らずのうちに、その名前を指でなぞっていた。


――私は、

――何を見ないふりをしてきたのだろう。


社長になる前から、何かは動いていた。


自分が気づく前から、道は敷かれていた。


それを、ありがたいと思っていた。


けれど今、初めて思う。


――これは、

――“支え”だったのか。


それとも――


梨杏(りあん)は、ゆっくりと目を閉じた。


まだ、答えは出ない。


だが、確かにひとつ。

気づいてしまった。

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