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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season14 Le choix《ル・ショワ》 ― 選択 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season14 Le choix《ル・ショワ》 ― 選択 ―
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Chapter5 残響の行き先

[アークシステムズ・オフィス/夕方]



コーヒーの香りが、ようやく張り詰めていた空気をほどいていた。


「……はぁ」


凪(なぎ)が、深く息を吐きながらマグカップを置く。


「さすがに疲れましたね……指も頭も、限界です」


「同感だ」


蒼真(そうま)は椅子に深く腰掛け、無言でコーヒーをひと口飲んだ。


柊(しゅう)は立ったまま、窓の外を一度だけ見てから、振り返る。


ソファでは、環(たまき)がゆっくりと目を開けていた。


「……柊(しゅう)……」


その声に、柊(しゅう)はすぐに近づき、そっと肩を抱き寄せる。


「環(たまき)。大丈夫か?」


「はい……もう、平気です」


環(たまき)は、自然に柊(しゅう)にもたれかかった。


柊(しゅう)の体温が、まだ少し揺れていた意識を、静かに現実へ戻す。


「そうか……よかった」


環(たまき)は、しばらく黙っていたが、やがて小さく呟(つぶや)いた。


「……終わったんですね……」


「ああ」


柊(しゅう)は短く答え、すぐに続ける。


「……だが、まだここからだ」


その言葉に、環(たまき)は小さく頷いた。


そして、ぽつりと問いを落とす。


「……これって……

 何のために、仕掛けてきたのでしょうか?」


そのひと言で、凪(なぎ)と蒼真(そうま)の動きが止まった。


「……あ」


凪(なぎ)が、息を呑(の)む。


「もしかして……」


蒼真(そうま)は、すぐに立ち上がり、別のログを呼び出した。


「……もうひとつ、あるな」


画面に映し出されたのは、閉じたはずの経路とは別の――

影のような接続口。


「消させないためだ」


蒼真(そうま)が、低く言う。


「こっちに気を取らせて、もうひとつを“生かしたまま”にする」


凪(なぎ)が、唇を噛む。


「つまり……

 今日のハッキングは、“侵入”じゃない……」


「目くらましだ」


柊(しゅう)が、静かに結論を出した。


環(たまき)は、その言葉を胸の奥で反芻(はんすう)する。


――誰かが、

――ずっと前から、

――ここを“使い続けている”。



◇◇◇



数日後。


ルーアン社とのスマートオフィス化進捗確認ミーティング。


社長・織原(おりはら)梨杏(りあん)は、いつも通り穏やかで、はっきりとした口調で説明をしていた。


……はずだった。


環(たまき)は、ふとした瞬間に気づいてしまった。


資料のページをめくる、その一拍。 


視線が一瞬だけ、宙(ちゅう)を彷徨(さまよ)ったこと。


ほんの、ほんの一瞬の――ためらい。


不安、と呼ぶには短すぎる。


でも、何かを隠している人の目だった。


(……今の……)


ミーティングが終わったあとも、環(たまき)の胸の奥に、小さな引っかかりが残る。


その日から、環(たまき)は少しずつ、ルーアン社の担当者たちに話を聞き始めた。


雑談の延長。世間話のふり。


「このシステム、前はどんな感じだったんですか?」


何気ない質問。


けれど――


その中に、妙に歯切れの悪い答えが混じる。



◇◇◇



そしてある日。


環(たまき)は、少しだけ――

危ない目に遭う。


それは事故のようで、事故ではなかった。


「環(たまき)!」


間に合ったのは、柊(しゅう)と凪(なぎ)だった。


「……っ……すみません……わたし……」


柊(しゅう)は、何も言わずに環(たまき)を抱き寄せる。


「勝手にひとりで動くな」


声は低いが、責める色はなかった。


「……でも……」


「でもじゃない」


凪(なぎ)も、珍しく真剣な顔で言う。


「環(たまき)さんが気づいた“何か”は、たぶん、正しい」


蒼真(そうま)が、ゆっくり頷く。


「……内部だな」


柊(しゅう)は、環(たまき)の頭にそっと手を置いた。


「この先は、ひとりで踏み込む場所じゃない」


環(たまき)は、小さく息を吸い、静かに頷いた。


事件は、終わっていない。


音は、まだ、どこかで鳴っている。

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