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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season14 Le choix《ル・ショワ》 ― 選択 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season14 Le choix《ル・ショワ》 ― 選択 ―
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Chapter3 一拍の、ずれ

[アークシステムズ・オフィス/夕方]



画面の中のログは、相変わらず整然としていた。


処理は流れ、数値は揃い、異常は出ていない。


――音だけを聴けば、完璧な演奏。


「……きれいすぎるな」


蒼真(そうま)が、ぽつりと言った。


凪(なぎ)は頷く。


「はい。テンポも、強弱も、“正解”しか鳴ってない」


柊(しゅう)は腕を組み、モニターから目を離さない。


「だが……“聴かせよう”としている」


その言葉に、環(たまき)の胸が、わずかにざわついた。


「……柊(しゅう)……」


「どうした?」


環(たまき)は、画面ではなく、自分の内側に意識を向ける。


「……リズムは合ってるんです。

 でも……」


言葉を探すように、環(たまき)は一度、息を整えた。


「……一拍だけ、置いてる気がします」


凪(なぎ)が、すっと環(たまき)を見る。


「……置く?」


「はい。流れてるんですけど……流れ“すぎない”というか……」


蒼真(そうま)の指が止まった。


「……わざと、だな」


その声は、確信に近かった。


「音楽で言うと……」


環(たまき)は、少しだけ目を伏せる。


「拍子は変わってないのに、次に来るはずの音が、一瞬だけ……“待たされる”感じです」


凪(なぎ)が、はっとした。


「……フェルマータ」


蒼真(そうま)が低く続ける。


「いや、フェルマータほど長くない」


「……ルバートですね」


凪(なぎ)が、静かに言った。


「ほんの一瞬だけ、テンポを奪う」


環(たまき)は、その言葉に小さく頷いた。


「……そうです。でも、誰かに気づかれない程度の」


柊(しゅう)は、そこで初めて|環から視線を外し、全体のログを見渡した。


「……相手も、“聴かせる側”だな」


蒼(そうま)真は、薄く笑った。


「しかも、上手い」


キーボードが、再び鳴る。


――カタ、カタ。


今度は、向こう側の演奏をなぞるように。


「……来ます」


環(たまき)が、小さく言った。


「次の処理……0.2秒、遅れます」


凪(なぎ)が即座に確認する。


「……ほんとだ」


蒼真(そうま)が、静かに息を吐いた。


「……遊んでるな」


「はい」


環(たまき)は、胸の奥の違和感を、必死に言葉にする。


「相手……こちらが“聴いている”ってわかってます」


柊(しゅう)の目が、細くなる。


「……試している」


「ええ」


蒼真(そうま)が頷く。


「俺たちの“耳”を」


凪(なぎ)は、苦笑混じりに言った。


「……音楽勝負ですね、これは」


「環(たまき)」


柊(しゅう)の声は、いつもより少し低い。


「無理に言葉にしなくていい。

 感じた“ズレ”だけ、教えてくれ」


環(たまき)は、その言葉に救われたように、小さく息を吐いた。


「……はい」


少し間を置いて、環(たまき)は言う。


「この人……“崩したい”んじゃないです」


3人の視線が、環(たまき)に集まる。


「……“転調”させたい」


凪(なぎ)が、ゆっくり笑った。


「なるほど……場面を変えたい、か」


蒼真(そうま)は、静かに結論を出す。


「……主導権を、音で奪うタイプだな」


柊(しゅう)は、短く言った。


「なら――

 こちらは、テンポを渡さない」


その言葉に、空気が引き締まる。


激しい音は、まだ鳴らない。


だが――


見えない相手と、確かに同じ譜面(スコア)を見ていることだけは、全員が理解していた。


一拍の、ずれ。


それは、戦いの合図だった。

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