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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season14 Le choix《ル・ショワ》 ― 選択 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season14 Le choix《ル・ショワ》 ― 選択 ―
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Chapter2 静かな二重奏

[アークシステムズ・オフィス/午後15時]



ドアが開いた音は、驚くほど静かだった。


「……来たか」


柊(しゅう)がそう言うと同時に、廊下から足音がひとつだけ近づいてくる。


「悪い、遅くなった」


低く、淡々とした声。


桐生(きりゅう)蒼真(そうま)は、いつもと変わらない無表情で立っていた。


「いえ、むしろ絶妙です」


凪(なぎ)は、眼鏡の奥で目を細める。


「……ここ、もう“音”が鳴り始めてます」


蒼真(そうま)は一瞬だけ凪(なぎ)を見ると、小さく口角を上げた。


「だろうな」


そう言って、何も聞かずにひとつ空いている席に腰を下ろす。


「環(たまき)さん」


蒼真(そうま)は、初めて環(たまき)に視線を向けた。


「……はい」


「もう感じてる?」


環(たまき)は少しだけ迷ってから、正直に頷いた。


「はい……“見られてる”感じがします」


蒼真(そうま)はそれ以上何も言わず、ただキーボードに指を置いた。


――カタ。

一音だけが、部屋に落ちる。


それが、序奏の最初の音だった。


凪(なぎ)は蒼真(そうま)の画面を覗き込み、自然に自分の端末を並べる。


「まずは……この権限継承ログ、ですよね」


「ああ。人の操作じゃない」


「でも完全な自動化でもない」


凪(なぎ)が言葉を継ぐ。


「“人の意思を模した処理”です」


蒼真(そうま)は頷く。


「だから、痕跡は残る」


2人の会話は、無駄がなく、説明もない。


まるで、最初から同じ譜面(スコア)を共有していたかのようだった。


「……すごい」


環(たまき)は、思わず小さく声を漏らした。


柊(しゅう)は何も言わず、そのやり取りを静かに見ている。


凪(なぎ)の指が走る。


蒼真(そうま)の画面が切り替わる。


別々の操作なのに、タイミングがずれない。


――トン、トン。


2つの音が重なり、二重奏になる。


「ここ……」


環(たまき)が画面を指さす。 


「処理が通った“あと”に、一瞬だけ……空白がある」


蒼真(そうま)の指が止まった。


凪(なぎ)が、はっと息を吸う。


「……環(たまき)さん、それ、普通は見えません」


「……でも……

 “息をしてない”感じがして……」


一拍の沈黙。


そして蒼真(そうま)が、低く言った。


「……正解だ」


凪(なぎ)が苦笑する。


「環(たまき)さん、探偵モード入ってますね」


環(たまき)は少し照れたように笑った。


「……すみません」


「謝るところじゃないですよ」


凪(なぎ)は、どこか楽しそうだ。


「……柊(しゅう)」


蒼真(そうま)が初めて、はっきりと柊(しゅう)を呼んだ。


「ここから先、“壊せる”」


柊(しゅう)は即答しなかった。


代わりに、全体のログ、環(たまき)の表情、凪(なぎ)と蒼真(そうま)の手元――

すべてを見渡す。


「……まだだ」


短く、しかし明確に言う。


「相手は、“こちらがいつ動くか”を見ている」


蒼真(そうま)は、ほんの一瞬だけ目を細めた。


「……了解」


凪(なぎ)も頷く。


「じゃあ、今日は“弾かない”ですね」


柊(しゅう)は、環を見る。


「怖いか?」


環(たまき)は一瞬だけ息を詰め、それから首を振った。


「……少し、です。

 でも……ひとりじゃないので」


柊(しゅう)は、その言葉を聞いてから言った。


「なら大丈夫だ」


蒼真(そうま)が、小さく息を吐く。


「……揃ったな」


序奏は終わり、二重奏は確かに始まった。


まだ、激しい音は鳴らない。


だが――


この4人が揃った瞬間、戦いはもう、始まっていた。

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