Chapter10 守るという名の支配
――守っている。
それが、自分の役割だと、ずっと思ってきた。
社長、織原梨杏には、何度もそう言ってきた。
「私たちは、あなたを守ります」
「社長は、前だけを見ていればいい」
「面倒なことは、こちらで引き受けます」
それは、嘘ではなかった。
実際、彼女は何の不自由もなく、社長の椅子に座っている。
余計な責任を背負わされることもなく、泥をかぶることもなく、
決断に迷えば、正しい答えが用意されていた。
――だから、
――疑う必要などなかったはずだ。
疑わなければ、すべては、うまく回る。
社長は社長として輝き、会社は再建され、社員は救われる。
それが、“最善”だ。
そう信じていた。
だが最近、織原梨杏の様子が、わずかに変わった。
資料を読む時間が増え、確認の回数が増え、言葉を選ぶ間が長くなった。
――何を探っている?
それがわからないのは、不快だった。
だから、もうひとりの影が動いた。
社長のPC。閲覧ログ。検索履歴。
問題はない。
すべて、把握できている。
クロノスとの癒着。過去の取引。
現在も続く裏の関係。
それらはすべて、社長の手の届かない場所へ移した。
クロノス側のクラウド。古い権限。閉じたはずの回路。
|織原《おりはら》梨杏には、見つけられない。
――これでいい。
そう思っていた。
だが、想定外が起きた。
アークシステムズ。
あの会社が、一度、音を立てた。
バックドア。構造。流れ。
――気づかれた?
そう思った。
だが、違った。
それ以来、彼らは沈黙している。
騒がない。問い詰めない。社長に近づかない。
代わりに、まったく別の次元で、スマートオフィス化を進めている。
――何を考えている?
それが、わからない。
如月環。
最近、社員への聞き取りもない。
社長への接触もない。
――気づいていない?
――それとも……。
考えを振り払う。
今は、静かだ。
このままでいい。
このまま、誰も疑わなければ。
社長が、「守られている」と信じ続けてくれれば。
それで、すべては保たれる。
守るという名のもとに。
支配していることに、気づかせないまま。




