Chapter9 影が声を上げる
[アークシステムズ・オフィス/夜]
照明を落とした室内で、モニターの光だけが静かに瞬いていた。
「……動いてます」
凪が、低い声で言う。
蒼真は、その言葉だけで画面に目を向けた。
「定期ログだな」
「はい。侵入じゃないです」
凪は、キーボードを叩きながら続ける。
「裏口を“使ってる”。しかも……」
画面には、一定間隔で並ぶ通信ログ。
量は多くない。
だが、無駄がない。
「……排出してますね」
蒼真が言う。
「情報を抜くっていうより、“渡してる”感じだ」
「どこへ?」
凪が問いかける。
蒼真は、一瞬だけ間を置いて答えた。
「……外」
「外?」
「社外ネットワーク。しかも……」
蒼真は、別のウィンドウを開いた。
「経路が、古い」
凪の指が止まる。
「……クロノス」
蒼真は、静かに頷いた。
「高瀬玲子は、もう表の担当じゃない」
「でも……」
凪が、ログを拡大する。
「切れてませんね」
柊は、2人の後ろで腕を組んだまま、画面を見つめていた。
「……“会社”じゃないな」
その言葉に、蒼真が反応する。
「はい。これは部署でもプロジェクトでもない」
「“個人”だ」
柊が、低く言った。
凪が、小さく息を吸う。
「……つまり……
社長を“支えている側”の、どちらか……」
「その通りだ」
蒼真は、淡々と続ける。
「定期的な交信。定期的な支援。その見返りが……」
画面に、別のログが重なる。
「……経営権」
凪が、呟いた。
「表向きは社長。でも……」
蒼真は、言葉を選ばず言った。
「実態は、“預けている”」
その瞬間、空気が変わった。
それは、怒りではない。
理解したときに訪れる、静かな重さ。
柊は、ゆっくりと口を開いた。
「……つまり、この会社は……」
「まだ、“返せる段階”です」
蒼真が言う。
「完全に奪われてはいない」
凪が、画面を見つめながら言った。
「でも……守ってるつもりの影は……」
「声を上げ始めている」
柊が、静かに締めくくった。
そのとき。
環が、少し離れた場所から、そっと言った。
「……このログ……音みたいです」
3人が、環を見る。
「同じ時間、同じ間隔……繰り返し……」
環は、胸の前で手を握る。
「……“助けて”じゃない……
“続ける”って言ってる……」
蒼真は、小さく笑った。
「……いい感覚だ」
凪も、頷く。
「これは、警告じゃない」
柊は、静かに立ち上がった。
「……宣言だ」
影は、もう隠れていない。
声を上げ、構造を守ろうとしている。
そしてそれは――
必ず、誰かの“意志”に辿り着く。




