第八話 ファンタジーの定番ってやっぱり冒険者
今回ちょっと長めかもしれません。
ナンパ男を撃退したのを見られたせいで周りに人が集まってしまっていた。そりゃそうに決まってる、多くのプレイヤーが街に来るこのタイミングであんな激闘をしてしまったのだから。いや、それにしても集まりすぎでしょ。私は上野動物園の見世物パンダか?ってぐらい人が取り囲んできたし。たしかに少々やりすぎた感じはある。だけど、先に煽ってきたのそっちだからな?ただただ挑発に乗ってあげただけだし、そもそもナンパなんかすんなよ。
『あんたさ……ちょっと戦ってるときの目が怖いんだよね。なんていうか、捕食者の目?絶対に相手を逃さないぞーって感じの目で見ているこっちのほうがゾクゾクしてくるような…』
「えー?そんな雰囲気出てたっけ?確かに戦闘中は思考が早くなったり口調とかが変わっちゃうけど、そこまで変わる?」
『普段のアンタがお気楽ちゃらんぽんの女の子としたら、戦闘中のアンタは冷徹な暗殺者ね。殺意を向けてきた奴らは全員殲滅ッ!っていう感じの顔をしてるし。』
「そこまで言わなくても良くない??」
『あ、あと普段の私は他の人の目に見えないから今のアンタは空中に向かって喋りかけてる変な人になってるよー。ほら見てみて、周りの人ドン引きしてるー!』
先に言えよ!そんな大事なこと。お陰様で私は「変人」のレッテルを早々に貼られることになっちゃったじゃん。そういう気遣いができない人ってたまにいるよなー、主にお前だけど。
「え、あの子何に向かって喋りかけてるの?」
「もしかしたら彼女は強さと引き換えに何かを失ってしまったのかもしれない。」
「てか、あの子超可愛くね?」
「あれがギフデッドって奴か……興味深い。」
うわぁ、周りがざわついてきちゃったじゃん…これ以上ココにいてずっと話されるの嫌だからなぁ、よし一旦ここは他の場所に移ろう。これから先、人はもっと増えてくるだろうからとっととこの門の前から街の中に入ろう。
「お、おい。お前……その、悪かったな。女だからって決めつけて弱いとか言っちゃって。」
おー、あのナンパ男たちにも謝るって概念があったんだな、意外だ。ここで更に「思ったよりも弱かったっすねーww もう一回ゴブリンでレベル上げしたらどうですー??」とか「弱いやつほどよく吠えるって言いますもんねww もう一回私に噛みついてみてください。ほら、ワンワン!」って煽ったら火に油を注ぐことになっちゃうな。どうしよう、コイツらのプライドを保ったままさり気なく「お前らとは一生会いたくない!」って伝えるには……よし、これしかない。
「そこまで起こってないから大丈夫、それよりもし私に勝てるって算段がつくまで必死に強くなったら?その時はまたリベンジマッチに乗ってあげるから。じゃあね。」
「お、おう。絶対に強くなって勝ってやるからな!それまで待っとけよ。お前らもそれでいいよな?」
「「「押忍!!」」」
なんかフラグを立ててしまったような……まぁいっか。強くなったとて雑魚は雑魚、その時になってまた勝てばいいだけの話だしね。でも、意外と最後の連携は良かったんだよな。魔法使いの火球による目潰しと奇襲は確かにすごかった。まだこのゲームは始まったばっかだしこの先化けるかもな……って、そんなことよりも先に街の探索だ!こんだけ広いんっだから果たしてどんな建物とかが此処にあるんだろう??
期待に胸を膨らませながら門をくぐり抜けると、大きなスクリーンのようなものが目の前に広がった。え??呆然と立ち尽くしてしまったが周りを見るとほとんどの人がそのようにしている。
『Eclipse Horizon 始まりの街、城塞都市ヨルムンガルドにようこそ。今から探索者の皆様にこの世界とそのルールについて教えていきます。初めにこの星はガイア。ガイアにはたくさんのモンスターが蔓延っており探索者の真髄はモンスターを倒すことです。それこそがこの星を蝕む者への唯一の対抗策でもあるからです。この星には今みなさんが存在する唯一の大陸、中央大陸とその周りに点点と存在する島国によって構成されています。この大陸は統一国家アークによって支配されており、アークの最果ての地がここ城塞都市ヨルムンガルドです。ここで少しこの国の歴史についてご紹介させていただきます。
この国を治める王、その系譜を辿った先に存在する初代アーク国王 アーク・クロノスはこの星に古くから存在する蝕む者によって散り散りとなった人々をまとめ上げてこの国を作りました。全てはこの星に巣くう害悪を排除するため。しかし彼は多大な犠牲の下にその蝕む者を封印することに成功しました。彼が遺した英雄の血筋は今もアーク王家につながって、繁栄を築き上げているのです。
話を戻して、この都市ヨルムンガルドとは初めてこの星に来訪する探索者の皆様をサポートすることが主な目的となっております。そのため、アーク王国に存在する5つのギルドと職人たちが王都に並ぶほどの水準でこの都市に存在しております。ギルドとはその個々人に合わせた職につかせるための組合のことです。
騎士ギルド、商人ギルド、傭兵ギルド、冒険者ギルド、そして魔女ギルド。この5つがこの国に存在するギルドのすべてです。騎士ギルドは忠誠心が高い者、商人ギルドは冷静な判断ができる者、傭兵ギルドは自分の腕前を試したい物、冒険者ギルドは人々のためになりたい者、魔女ギルドはこの世の深淵を除きたい者が集っております。自身に合ったギルドに加入することが今後の探索に大いに役立つこととなるでしょう。
また、探索者にのみ与えられた特性もございます。1つ目は死なないということ。死んだとしても直前で眠った場所に復活しますが、1時間の間デスペナルティが下されます。2つ目は〈宣誓〉システムです。探索者同士での戦いをしたい時にこの〈宣誓〉を行った際、戦闘終了後に「死」も含めたすべての身体の状態の回復、デスペナルティの撤去が行われます。また、このときに探索者同士で殺し合ってもPK判定はつきません。以上が探索者にしか存在しない点です。それ以外の点につきましてはこの世界の住人と探索者に違いは全くございません。このことを忘れないようにしてください。
最後に覚えていただきたいことは探索者とはこの世を探索するもの。そして巨悪といつか戦う運命に存在するということです。どうか私達の希望となってくださることを祈っております。』
めっちゃ長い……ところどころ世界観を壊さないように配慮されていて分かりづらかったけど要はプレイヤーは死なないしプレイヤー同士の戦闘は許されているけれど、それ以外の点ではNPCと違いは存在しない。この街が大きいのはシステム的に初心者プレイヤーを保護するためのもの。最後にギルドが存在するって言うことか。ちょっとばかし長かったけどつまるところ今の現象はチュートリアルってことね。確かに何も知らないまま行こうとするプレイヤーも居るだろうし。
とりあえず目下の問題はどのギルドに入るかってことだよね。多分ギルドに入ることで職業につくことができそうだし。今のところ気になるのは騎士ギルドと傭兵、あと冒険者かな。ゲームでまで商業とかしたくないし、気分的に魔法を打つより剣とかを握っていたほうが良さそうだしね。となるとこの3つに絞られるわけなんだけどどれにしようかな?女騎士とかも憧れるけどオークとゴブリンに弱くなりそうだな。「くっころ騎士」にだけはなりたくないし。それに傭兵も気になるっちゃ気になるけど、どちらかというと冒険者ギルドに入りたいな。なんせラノベで見まくったからね!ここはファンタジーの定番の冒険者ギルドに入るしかないっしょ!
「ねぇミリィちゃん、私冒険者ギルドに入ることにする!」
『ぼ、ぼうけんしゃ??あの荒くれ者の集まりの冒険者になりたいの?個人的には清潔感あふれる騎士とか女性が多そうな魔女とかのほうがいい気がするけれど。』
「私は世のため人のためになることがしたいの!それに知ってる?多くの人はファンタジーの定番の冒険者になるんだよ。異世界転移とか転生とかでも全部そうなんだから。きっとこの選択は間違ってないはずだよ!」
『それはフィクションだからであって、本当の冒険者はもっと……まぁ、いいんじゃない?あなたの好きにすれば!でもなんかあっても助けないんだから!』
そう言うとミリィちゃんはぱっと消えてしまった。そんなに冒険者ギルドはだめなのかな?でもとりあえず入ってみて雰囲気を確かめることが大事だよね。それならひとまず冒険者ギルドに向かってみるしかないか。おそらく今いる大通りを真っすぐ進んでいった先にある、上に剣と盾のマークの大きな建物が多分冒険者ギルドだろう。てか、めっちゃデカくない?普通にちょっとでかめのデパートぐらいあるんだけど。どんだけ金かけてるんだろう。
「―――!!」
眼の前にあるドアなんかすごい重厚な雰囲気でかっこいいし、壁に掘られた彫刻とかは繊細で美しい、あそこにある旗は雄大さを感じさせるような意匠で――
「おい、嬢ちゃん!!!聞いてんのか?ここは冒険者ギルド、嬢ちゃんなんかが来るような場所じゃねぇぞ!」
うわっ、びっくりしたぁ。急に話しかけられてびっくりしたな。というかこの髭が少し生えたおじさん、誰?
「すいません、ちょっと見惚れちゃって。へへへ。そこであなたは一体誰なんですか?」
「一体誰って……俺はこの冒険者ギルドヨルムンガルド支部の支部長、アンドレだ。この街じゃ俺のこと知らないやつなんてそうそういないんだがな。嬢ちゃん、名前は?」
「あ、私はアインって言います。一応冒険者ギルドに入りに来たんですけど……」
「嬢ちゃんが!?おい、冗談もそこまでにしといたほうがいいぞ。ここ冒険者ギルドは建物自体は立派だがここにいる冒険者たちは荒くれ者だらけ、嬢ちゃんなんかは襲われちまうぞ。」
「大丈夫ですよ、私強いんで。」
「そんなふうには見えないんだけどなぁ…よし、わかった嬢ちゃん。俺が後ろから見守ってやるから冒険者ギルドに入っていいぞ。でも、もし危なくなったら俺が助けてやる。そしてもう冒険者ギルドには入るなよ。わかったか?」
「まぁ、わかりました。その時は頼みますよアンドレさん。」
どうやら私に声をかけたイケオジはここの冒険者ギルドの支部長だったらしい。かっこいいね!それで、どうやら弱そうに見える私を後ろから見守ってくれているらしい。その心遣いはありがたいんだけど私ってそんなに弱いかな?たしかに初めて直ぐだけど一応二つ名持ちを倒したこともあるわけだし。そんなに心配されるようには見えないと思うんだけど。
「アンドレさん、私ってそんなにか弱く見えますか?」
「そりゃ、もちろん。嬢ちゃんなんか風に吹かれただけで折れそうみたいだからな。ハッハッハ!」
そんなにか…よし、もし冒険者ギルドに入って舐められた真似をされても私は一向に引かないからな。冒険者ぐらい軽く倒せるんだぞってところを見せないとアンドレさんはきっと私を認めてくれないだろう。どうせ心のなかでは社会科見学の付き添いみたいな心持ちなのだろう。
私は、一体どのような冒険者たちが待ってるのだろう?と期待しながら扉を開けて――絶句した。
「ウェッ。」
なぜならそこには飲んだくれて酔っていたおじさんがいたからだ。確かに設備自体はきれいだし、内装も整ってる。普通の人もいるけれど隅っこにいるおじさんたちはニヤニヤしながら私の方を向いている。
「おい、お嬢ちゃん?ここがどういうところか知ってまちゅかー?」
「そうだぞ、ガキにはまだ早い。お母さんのところにでも行っときな!」
ハハハハと隅っこにいる集団が笑い声を上げる。これには流石に他の冒険者たちも顔をしかめたが厄介事に手を出したくないのか声はかけてこない。こんな状態の中、私は怒るでも悲しむでもなく「ここまで完璧に人を再現できるのすげー」と思っていた。
「おいおい、お嬢ちゃん?お話聞こえてますかー?もしかして冒険者になりたいのかい?まだ早いぜ!」
あからさまに隅にいる男たちのうち一人が私に向かって足を突き出して転ばせようとしてくる。後ろにいるアンドレさんが止めに行こうとするのがうかがえるが、こんなものにやすやすと引っかかるような私ではない。相手の足を思いっきり踏み付けてから股間に一蹴り。悶える相手の顔に向かって思いっきり膝蹴りを食らわせる。
「クッ、少々足グセの悪いお嬢さんのようだ…俺達に手を出したってことは何されても文句言えねぇからな??」
「上等だよ!かかってこい!」
私は拳に力を入れて思いっきり振りかぶろうとして――止められた。
「そこまでだ。」
顔を上げるとアンドレさんが私の腕を掴みながら、相手の男の頭を脇で締め上げていた。
「アンドレさん…」
「チッ、支部長……」
「ゴメンな嬢ちゃん、お前さんの実力を見くびっちゃってな。それにサジー、この嬢ちゃんはまだ冒険者じゃねぇ。堅気の存在に手を出すなってあんだけ言ったよな?再教育されたいか?」
「い、いえ…されたくありません。」
「それなら嬢ちゃんに誠心誠意謝ってからだな。」
「も、申し訳ございません!!」
「嬢ちゃんもこれでいいか?お嬢ちゃんだってコイツを殺したくはないだろ?」
「あぁ。」
「ヒッ、ありがとうございますぅぅ!!」
周りから驚く声と歓声が上がる。なんせまだ冒険者にもなっていない女の子が冒険者を相手に「殺せる」といったからだ。それに支部長アンドレの言葉もある。もしかしてこの女の子はとてつもない存在なんじゃないか?そういう疑念があたりに広がる。
「お嬢ちゃん、冒険者になりたいんだってな。いいぜ、俺が審査してやるから奥の執務室にきな。」
「いいのか?あんだけ荒らしてしまったのに。」
「いいんだ。あれはあっちが悪い。自業自得ってことであいつには一週間清掃を命じるしな。」
「ありがとう。そして、これからもよろしく。」
「いいってことよ!」
私のこのゲームでの冒険者生活が始まった気がした。
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