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Eclipse Horizon ―電脳世界で女子高生が「死の戦乙女」と呼ばれるに至るまで―  作者: 野兎
第一章 青天の霹靂

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第五十五話 四天六合 其の二(クロウ視点)

 武闘大会が終わる。まだこの胸の鼓動は止まるところを知らないようだ。


 僕にこのゲームでの楽しさを教えてくれたアイン。僕にこのゲームでの楽しさを、届きようがない頂点を見せてくれた彼女。


 彼女は武闘大会の賞品でこのゲームのNPCについて質問したようだがそんなことはどうでもいい。僕が賞品で得ることができた「世界樹の枝」は破格の性能を持っている。もしかしたらこの杖があれば⋯⋯いや、それはよそう。もし彼女と再び相まみえるとしたらそのときは完膚なきまでに叩き潰す。


 中途半端な状態で挑みに行くだなんて思考停止の有象無象どもと一緒だ。どうやら僕の職業も後少しで昇格しそうだし、もう一度レベリングをしなければ行けない。今の強さに自惚れずに今まで以上の強さを得る。そのためなら面倒くさい昇格条件を満たすことも、一向に上がらないレベリングを続けていくこともやぶさかではない。


 それにしてもアインのあの強さはどこから来ているのだろうか。レベルはきっと同じかそれよりも少し上。武器はあちらの方が高性能。だとしてもあんな動きが人間にできるのか?


 あぁそういえば同じクランのメンバーであれば相手のステータスを見ることができるという。流石にステータスの盗み見だなんてカンニングはしようと思わないがどうやってその強さを得たのかは気になる。


 気づけばその疑問を胸にアインに連絡を取っていた。


 衝動的な行動だったためつい憎まれ口を叩いてしまったがアインは気にしていないようだ。もう連絡を取ってしまっている以上「やっぱなんでもない」とは引き下がれない。


 「僕たちでチームを組まないか?このゲーム風に言うならクランだね」


 少し緊張しながら言う。今思えばこのゲームでこうして他のプレイヤーに積極的にコンタクトを取ったのは初めてかもしれない。それだからだろうか。それとも僕はアインの返答に何処か期待しているのだろうか。



 結論から言うと案の定アインは僕の提案を断った。たしかに一度落胆はしたが、アインは僕のことを「ライバル」だと思ってくれているらしい。先程の戦いは僕の完敗だったがアインもなにか思うところがあったのだろうか。


 はぁ。暇だ。これからどうしようか。レベリングをすると言っても今いる周りのモンスターたちは弱すぎる。倒してもレベルが1ミリたりとも増えやしない。僕が今いるエリアであるハインツは交易都市ジョーヌの次の地域だ。ハインツは巨大な自由都市で様々な種族が入り混じっている。街の大きさもヨルムンガルドやジョーヌと比べ物にもならない。それにハインツから行くことができる都市は5つあり、その道中のすべてが異なる地形なのだ。


 おかげでプレイしてからほぼずっとこのハインツという都市にいるのだがまだ探索しきることはできない。僕は序盤こそモンスターに倒されかけたりしたが強大な魔法を得てからは命の危機というものにまともに遭遇していない。


 今の僕の足を止めている要因はまごうことなきこの地形だ。


 5つある道中の内最も険しいと言われている道。NPCの話によれば巨大な「転送門」が存在するという中継都市テレポンスに至る道は活火山の内部を通るものとなっている。


 その場にいるだけでジリジリとHPを削るこの活火山はかつて鉱山として使われていてまだその坑道が残る。始めたての僕が意気揚々とこの道を選んで意気消沈した記憶が残っている。まぁ何日もこのエリアの攻略に時間を割いているためもうこの道も後少し。


 中継都市テレポンスは目と鼻の先だ。


 まだどのプレイヤーもたどり着いていないだろう街に一番最初に足を踏み入れる喜びで足が少し早まる。もしかしたら最初に着いたプレイヤーには特典が与えられるかもしれない。アインに勝つためにはこうやって少しでも差をつけなければいけない。


 


 やっとのことで活火山を抜ける。長い。長過ぎる。瞬殺するモンスターは置いといてただの移動に1週間近くかかるのはなにかのバグだろ。僕が気づいていない仕掛けがあったのかもしれないが⋯関係ない。今はひとまずテレポンスの中に入ることを目指そう。


 中継都市テレポンス。その実態は思いの外、大きかった。しかし滞在には適していない。まさに他の都市同士を中継するためだけのような都市だ。必要最低限の町民、宿、設備を除いては一つの機能にこの街は集約される。


 それは「転送門」だ。最初に見たときは心底驚いた。このゲームは中世ヨーロッパをモチーフにしているのだろうがそれに見合わない近未来的な外装をした巨大な門。それが何十個もテレポンスの中央広場に立ち並んでいるのだ。そして転送門から人が荷物を持って出てきたかと思えばすぐさま別の門に入っていく。


 このゲームで最大の不便さは移動の手間だったがいずれワープを実装すると思っていた。だが本当は違った。転送門を大量に配置した都市があってそれを経由することで実質的なワープを可能とするのだ。これなら世界観を壊さずにうまくワープを取り入れることができるしプレイヤーの要望にも答えられる。


 と、中継都市テレポンスの運営側の役割について考えている途中にピロリンと音が鳴る。メッセージが来たようだ。送り主はアイン。要件は⋯モンスターの襲撃!?


 アインが僕たち、正確には僕と彼女の準決勝の相手であるケインにメッセージを送ったようだ。そこに書かれた内容によると強いモンスターの配下が3つの地域に向かっているらしく僕たちで連携して対処をするのだという。


 は?アインが強いと言うモンスター?現時点でも人間離れしているのにそれよりも強いのか!そこまで彼女に言わせるほどの相手。それなら僕でもようやく満足できそうだ。生憎ここらへんの雑魚モンスターたちでは不満しか溜まっていなかったし。


 そしてそのモンスターたちはこのゲームで言う「神」の配下らしい。3体はそれぞれドワーフ、鬼人、龍人の自治区に向かっているらしくそのうちドワーフに向かうモンスターはアインが対処するようだ。


 それなら僕とケインは鬼人と龍人の自治区というものに行くべきだが、多くの転送門がある此処ならきっと行けるだろう。僕は自分の種族に関係もあるため「鬼人」の方に行きたい。すぐさま近くにいる街の住人に声をかけて鬼人の自治区への行き方を教えてもらう。


 「そこの人、鬼人の自治区への行き方は知らないか?」


 紫色の布を頭にかぶった14歳ほどの少女はすこしはにかんで答える。


 「んー、今はお客さんも少ないからいいかな。それで何がしたいの?」


 「鬼人の自治区に行きたくて⋯」


 「もう!この街がどこか知らないの?アーク王国の都市全てに行けるのが中継都市テレポンスなんだよ!鬼人の自治区って金剛郷のことでしょ?テレポンスの真ん中にある広場に行けばすぐ行けるよ!」


 「そ、そうなのか。ありがとう」


 「その様子なら初めてきた旅の人でしょ?しょうがないから連れてってあげる!」


 その少女は僕の手をパッと取ると元気に走り出していった。それにつられて僕も走る。流れ行く街の景色、行き交うNPCの顔、そして先をゆく少女の表情。


 クソッ、アインが変なことを大勢の前で聞いたから僕にも少し影響があるようだ。




 「とーうちゃく!ここにいるお兄さんにお金を払って転送門を使わせてもらうんだ!」


 少女に連れて来られた場所は確かに転送門が軒を連ねる広場だったようだ。直ぐ側にいる人に必要な分の金貨を渡して行き先を伝える。金剛郷と聞くと少し驚いた顔をするが話を聞くと「あまりあの地に行く人は少ないから」だそうだ。


 上に金剛郷行きと書かれた転送門の前まで行き恐る恐るその門に足を入れる。


 「いってらっしゃーい、お兄ちゃん!」


 もう日も暮れてきたようで夕日に照らされた少女の顔が見える。ここで気の利いたことを一つでも言えれば良いのだろうが僕にはそんな愛想は持ち合わせていない。ただ静かに手を上げるだけだった。


 アインから託されたこのモンスター。一体どんな化物なのかと期待しながら踏み入れてみる。


 転送門から完璧に僕の身体がはなれた瞬間眼の前が真っ暗になった。何も見えないし体全体が痛い。ステータスを確認すると急速に僕のHPが減っていく。何かの攻撃か?罠か?待ち伏せ?いろいろな考えが頭を巡り、そして消えていく。


 僕のHPがグングンと減っていきそしてゼロとなったその瞬間身体全体を蝕っていた痛みが消える。しかし本当に転送が完了できたのかと疑ってしまう。


 目を開けたその地は最早街とは到底言えないほど荒廃していたのだから。

 


 


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