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Eclipse Horizon ―電脳世界で女子高生が「死の戦乙女」と呼ばれるに至るまで―  作者: 野兎
第一章 青天の霹靂

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第五十二話 四天王襲来

 「南風のノトス?誰ですか、それ?」


 私と一緒にジョーヌで過ごしていないフレイヤが疑問そうに首を傾げる。


 「そいつは俺と嬢ちゃんがドワルニアに来る前、ジョーヌで戦った相手だな。ほら、この話ならおまえさんも知ってるだろう?」


 「あ!アイン様がジョーヌに来た怪物を撃退したという話の!」


 「そう、その相手が南風のノトスだったんだよね。そして「天帝」の配下、四天王の一人でもあるんだ」


 天帝、この言葉にドルヴェラクとフレイヤの顔が凍る。


 「おいおい、もしかして嬢ちゃんはその天帝っていうのを倒そうとか思ってんのか?」


 「そうだけど⋯不味いことなの?」


 「不味いってもんじゃねぇ!お嬢ちゃんが言ってんのは、神殺しをするってことだぞ!」


 確かにこの世界では確立存在が神だと認められているらしい。現にあの遺跡に残された資料でも最初は神のような存在だと認めていたとあった。だけど本当に確立存在は害を為さないと言い切れるのだろうか。ジョーヌを襲ってきたのには確実に天帝の思惑が絡んできている。


 それでもまだ彼らを神として盲目的に信じられるのか?


 「神って言うけれど、あなたたちは実際にその目で見たことがあるの?私は見たこともあるし、その強大な力も知っている。一度私たちに振りかざされたらもうひとたまりもないこともね。それでも行動に移さなくていいって言うの?」


 ドルヴェラクが私の言葉に目を伏せる。私とともに見たノトスの迫力。それでさえも配下に過ぎないとしたら天帝は一体⋯それでも宗教として信じてきた神の側面もある。それほどまでに宗教というのは心に深く根付くものなのだ。


 「私はドワルニア、いやアーク王国の国教である九世教の信者です⋯そう簡単に信じる神を裏切ることはできません」


 フレイヤがうつむきがちに言う。


 「でも、私はお父さんに言われました。私の身体がここドワルニアにあるダンジョンと反応したこと。そしてそのダンジョンで天帝、ジグルドの恐ろしさについて書かれた書物をアイン様が見つけたということも。なんで私の身体が反応したかはわかりません。だけどアイン様が私たちのことを思ってそうやって行動しているのは理解できます!」


 「⋯⋯⋯⋯」


 ドルヴェラクは黙ったままだ。


 そして永遠と思えるほど長い時間が過ぎて彼は口を開いた。


 「確かに嬢ちゃんが言うことにも一理あると思うぜ。ただ、まだ被害も出ていないのに決めつけて良いもんなのかって話だ。曲がりなりにも信じてきた神の1柱だぜ。そう簡単に捨てれるもんじゃねぇよ」


 「ドルヴェラクさん⋯」


 「それに俺だって王族だ。うちの親父だって、祖父だってなぁ、九世教の信者だったんだよ。それなのに今更敵でしただなんて信じきれねぇよ」


 神、か。ここまでの信頼を得ているとは⋯ 

 

 それに、どの街にも存在する教会が懸念点だ。全部が全部敵というわけではなさそうだが。


 「おい!アインはいるか!」


 ドンッと工房のドアが勢いよく開けられる。そして私たちの前に姿を表したのは右手を負傷し、なおも王の座を退かない気力を持った人であった。


 「たった今「天帝」ジグルドの配下による攻撃を受けたことが知らされた!」


 「何だって?」


 ドワルニアの国王が言うにはアーク王国全体、つまりドワルニアだけでなくありとあらゆる地域でも天帝の被害が出ているのだという。


 「襲われたのは我がドワルニア最北端の街グランツ。襲ったのは天帝の四天王の一人思われる「北風」だ!」

 

 王様が固く拳を握る。

 

 「なっ⋯⋯!」


 「グランツの住民はおよそ1000人。そのうち生存者はわずか100名。その他は消息不明だ。それでもなお被害が出ていないというのか!」


 「いえ、思いません⋯」


 「そして残る「東風」と「西風」も龍人族と鬼人族の自治区に来ているという」


 「もうこの地に被害が?対策を練らないといけねぇじゃねぇか!」


 「お父様、私達にできることはありますか?」


 「現状は武器を作って兵士の訓練を備えること程度だな⋯下手に手出しすれば逆効果かもしれん」


 ジグルドの野郎⋯もう本格的に攻めだしたのか!ノトスがやられて殺気立っているのか?ともかく今「北風」の対策をしないとドワルニアが壊滅するかもしれないな。


 チッ、動き出すのが速すぎる。とりあえずなにかできることは⋯⋯⋯あった!


 「王様、私たち探索者を使うのはどうですか?探索者は死にませんし」


 NPCは死んでしまう。ということはドワルニアの兵もまた有限であるということだ。だがプレイヤーならどうだ?私はいまだ死んだことがないけれど他のプレイヤーを見る限り少しの間調子が悪くなるぐらいで減ることはない。


 まさに無限の兵力だ。


 「探索者というのは一体何だね?」


 当然王様は私たちのことは知らないと。それはそうだ、なんせ私たちが姿を表したのは2週間前だ。


 「お父様、知らないのですか?おとぎ話に出てくるじゃないですか!勇猛果敢に立ち向かい、死をも恐れない不死の方々がいると」


 「それはおとぎ話の中だと⋯だが、アインの言う事を信じるなら本当にいるのだろう」


 ん?フレイヤも王様もおとぎ話で似たような話を聞いたことがあるのか。まぁ理解できるのなら話は早い。


 「我々探索者同士では一瞬で情報伝達が可能なんです。だから私の方で呼びかけたら死なない兵士が集まりますよ」


 「なんと!確かに死をも恐れない者たちが味方になることは心強いのだが⋯彼らの中にも神を信奉するものがいるのではないのか?」


 「確かにそうですね⋯⋯では、神のことは隠してしまいましょう。ただドワルニアに未曾有のモンスターが襲おうとしているとだけ情報を流せば誰も不審がりません」


 それに大会でトップを取った私が呼びかけたら誰も集まらないということはならないはずだしな。


 「やっぱりアイン様は賢いですね!これなら私も安心して兵士たちに渡す武器の製造に取りかかれます!」

 

 フレイヤの方を向くとすでにドルヴェラクとともにゴーグルを付け、右手には鉄を握っていた。


 「さっきは疑ったりして済まなかったな。だがもう安心してくれ。見たこともないやつと生まれ育ったこの国、どっちが大事かって言われたらドワルニアに決まってる」


 「というわけだ。正式にドワルニアの国王としてアインに依頼しよう。この国ドワルニアを襲う「北風」、ひいてはその親玉である「天帝」の討伐をな」


 【特殊任務(ユニークストーリー) 特異二つ名持ち(オリジンネームド)モンスター 『北風』の討伐を受注しました】


 【起源任務(オリジンストーリー) 確立存在(オーダー) 勇猛たる天空 ジグルドの討伐を受注しました】

 

 眼の前にシステム画面が出てくる。やはり四天王の襲来にはジグルドが手を引いていると考えて良さそうだ。


 「少し時間をくれますか?私は仲間たちにこの情報を伝えたいので」


 「許す。いや頼む。我々にどれだけ時間が残されているかわからぬが足掻こう。足掻き続けなければ運命は私たちを見放すからな」


 そう言って王様はフレイヤの工房を出ていく。工房に残っている二人は必死に兵士たちに配給する武器を打っているようだ。ここに居続けるのは彼らの邪魔になると考え、部屋を出る。


 信頼できる仲間に今得た情報を伝えていく。


 龍人族と鬼人族、そしてドワーフの自治区にそれぞれ確立存在と呼ばれる強いモンスターの配下が向かっていること。確立存在は神と呼ばれていて混乱を避けるためにこの情報は隠すこと。そして私はドワーフの自治区、ドワルニアの防衛をするため二人には他の自治区に行ってほしいということを。


 ケインとクロウは二つ返事で参加することを決め、行動に移してくれたようだ。私はもう遅いということもあり一度ピリカに戻った。


 ドルヴェラクの奥さんに挨拶をしつつ早々にベッドへと向かい横になる。


 瞼を閉じながらも、本格的な戦いの火蓋が切って落とされたのをひしひしと感じていた。





 そしてこの日、龍人族と鬼人族の街が一つ、地図から消えた。

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