第五十一話 決意
武闘大会も終わり、賞品の授与も完了した。アポちゃん、アポカリプスから聞き出した情報というのは「このゲームのNPCは自我を持ち、自身が人間だと感じている」ということだ。
このゲームの住人は少なくとも自分が作り出された存在だという考えを持っていない。それが開発側にそうプログラムされているのか、否かは関係ない。私のことを認め、褒めてくれるヒトがこのゲームにいるということが私の行動理念だからだ。
だってそうだろう?ヒトは認められることでしか自分を守れないんだから。
というわけで私のこれからの目標は「神」という存在に迫ることだ。おそらく「神」はこの世界の、NPC全体の敵である。このことはドワルニアの遺跡からもわかったことだ。
あの遺跡に残されていた確立存在、とりわけ「天帝」は遥か昔に何らかの調査隊の壊滅に関わっている。もし野放しにしていたら危ない。というか天帝の子分であろう南風のノトスがジョーヌを襲った時点で私のやることは決まったも当然だった。
私は天帝を倒す。
その決意はもう揺らぎやしない。
『どうしたの?アイン。難しい顔しているけど⋯』
ミリィが私の顔を不思議そうに見つめる。
「いや、なんでも無いよ。ただアポちゃんに言われた言葉を思い返していただけ。どうせアポちゃんも、ミリィもあまり多くは語らないだろうしね」
『いや、それは⋯』
ミリィが少し顔をしかめる。わかりきってはいることだけれどもミリィは私に何かを隠している。そしてそれがおいそれと言えないことも。だからいつかミリィの口から聞けるようになるまで、気長に待つとしよう。
プルルルルルルル
ふと音が鳴る。なにかと思って周りを見渡すと自分の視界の片隅に電話のアイコンが出ていることがわかった。十中八九連絡だろうが誰からなのかがわからない。恐る恐る電話に出てみる。
「やぁ、アイン。ついさっき試合が終わったばかりだけど調子はどうだい?」
声を聞く限りクロウかららしい。
「調子はって聞くまでもないでしょ?あのバトルフィールドから出たら傷も疲れも元通りなんだから」
「僕が聞きたいのはそっちじゃないんだ。君も感じただろ?全身全霊で戦いをすることの楽しさ、張り詰めた緊迫感、自分の一挙手一投足が相手を左右する感覚。僕はね感謝してるんだよ。今まで無為なものだと思ってたこのゲームに刺激を与えてくれた君にね」
「それで、結局何が言いたいの?」
クロウがただ感想を言うためだけに私に電話をかけてくるはずがない。あるとしたら他の目的が⋯
「僕たちでチームを組まないか?このゲーム風に言うならクランだね」
クラン⋯今までソロプレイをしてきて他者とあまり関わってきてない私には無関係だった言葉だ。ちなみにこのゲームでは一度会話したことのあるプレイヤーの頭上にはプレイヤーネームが現れるようになり、そして電話を通して連絡することができる。そして双方の同意のもとフレンドに成ることができ、フレンド同士でクランという一つのグループを作ることができる。
ただクランのデメリットと言うべきことはすべての情報が筒抜けに成ることだ。クランメンバーからは自分のステータスが閲覧可能になってしまう。だからこそ私は⋯
「その提案、断って良い?」
「え、なんでだ?僕たちで手を組んだら負けることなんて無いはずだ」
「でも私たちはライバルでしょ?相手の手札が筒抜けになるぐらいだったらクランに入る気はしないかな」
「⋯一理あるね。じゃあこうしよう。僕と君都で別のクランを作る。それで互いに競い合おう。」
「良いね」
「それにこんな序盤でプレイヤーの個人の大会があったんだ。クラン同士のグループ戦もきっとあるはずだ」
「その時まで勝負はお預けかな?」
「そうだ。一度言っておくけど僕は二度も君に敗北を喫する気はサラサラ無いから」
「それは楽しみだ。それじゃあ私はクランメンバーでも探すよ」
面白いことになった。クロウとは僅差、もしラグナロクがなければ負けていたであろう相手。そんな相手と仲間に成るぐらいなら常に競い合うライバルのほうが良い。それはきっと相手もそうだろう。
それにしてもクラン対抗か⋯めぼしいプレイヤーはまだ一人しかいないけれど、声をかけてみるとするか。
通話することを頭で考えると目の前にリストが出てくる。直近であったことのあるプレイヤーが上に来るらしく、お目当ては上から二番目にいた。
プルルルルル
「はいもしもし」
そう礼儀正しく電話に出たのは、ケインだった。
「ケイン、私とクランを組まない?そして一番を取ろう」
「えっ?」
素っ頓狂な声を出すケイン、だがその声には少しうれしさも滲んでいた。
「良いよね?」
「勿論。僕にできることがあるなら任せてくれよ。それに君から盗みたい技術もたくさんあるしね」
「そこは企業秘密ってことにしておいてよ。それはさておき面倒な諸々はケインがやってくれない?ちょっと今から私には用事があるからね」
「人づかいが荒いなぁ。まぁ安心しといて。変な名前のクランにはしないから」
「クランの名前に関しては意見があるんだけど良い?」
「何が良いの?」
「スピカディア」
「意味は?」
「直訳すればスピカの理想郷。だけど知ってる?スピカって2つの星が1つに見えてるんだよ?」
「それは良い名前だね。よし、僕たちはこれからスピカディアだ。」
それだけ話すとケインは電話を切った。真面目な彼のことだからきっともうクラン設立の準備に取り掛かってくれているところだろう。
これから用事があるのは嘘ではない。私にとって大事な用事があるのだ。
いそいそとニョントス城、ドワルニアの王都の中心に位置する城へと向かう。そこの一室にあるフレイヤの工房。扉を開けて中にはいってみると武器の制作の話し合いをしているドルヴェラクと私を慕ってくれているフレイヤがいた。
「っ!アイン様!身体は大丈夫ですか?」
「安心してよフレイヤ。見ての通り傷一つついていないよ」
「それで嬢ちゃん、前言ってた武闘大会とやらの結果はどうだったんだい?」
「アイン様、私も気になります!」
二人が期待しながら私を見つめてくる。
「当然、優勝だよ」
「流石ですね、アイン様!」
「まぁ俺達が鍛えた武器だからな。優勝するのも当然だぜ」
フンと鼻息を荒くしているドルヴェラク。しかしあながち彼の言葉も間違っていない。
「たしかにこの武器ってすごいよね。アダマンタートルだけとは思えない」
「「⋯⋯⋯」」
二人が少し黙って見つめ合っている。何かあるのだろうか。
「ドルヴェラクさん、どうしますか?流石に強すぎましたからね」
「確かにあれは手違いかと思ったんだが好奇心が抑えきれなくてな」
「でも!アイン様にこれ以上嘘はつきたくないです」
「言うしか無いな⋯」
二人が小声で話しているがバッチリ聞き取れている。二人は隠し事をしているらしい。
「二人して何隠しているの?」
「実はドルヴェラクさんが勝手に⋯」
「おい!フレイヤだって良いって言ったじゃねぇか」
パン!
手を叩いて二人の視線を向けさせる。
「怒らないから言ってみて?」
「先に謝っとくが嬢ちゃん自体に危害を与えるようなもんじゃねぇんだ」
ドルヴェラクがポツリ、ポツリと語りだす。
「最初は手違いだと思っていたんだが、いざ触ったことがない物があると使いたくなっちまってな」
「それで⋯私たちはアインさんから託されたアダマンタートルの甲羅たちの中に紛れ込んでいた材料を使っちゃったんです」
「その名前は⋯天空の破片だ。ほんとにすまねぇ」
「でもね、私たちにはそれが何なのかわからなかったの。アイン様はなにか知ってる?」
私の中で何かが結ばれたような気がした。異常なほどの性能。神々の黄昏という名前。そして南風のノトスも使用していた思考加速。今まで謎だった物事がようやく一つにつながった。
「これは天帝の配下、南風のノトスのドロップアイテムだよ」
今や私の持つ最強の武器となったラグナロク。天帝がかつて配下に分け与えたものを使って作られた武器で天帝を伐とうとするだなんてとんだ皮肉だ。
ラグナロクは天帝には向かうのが嫌なのか、それとも倒す気があるのか。どちらかはわからないが私に呼応するように鈍く光る。
今はただ、この武器に見合うように努力しようと思うばかりだ。




