第四十五話 好敵手
長かったこの武闘大会もとうとう大詰め。決勝戦は私とクロウの試合となった。
この武闘大会の会場にあるフィールドは特殊なもので、一度外に出るとスキルのクールタイムや魔力、体力まですべて元通りにしてくれる。それだけでなくシステムではどうこうすることができないはずの肉体の疲労でさえ治してくれる。流石に武器までは元通りにはならないようだが。
つまるところ決勝戦でもラグナロクの能力である「韋駄天回帰」を扱うことができるのだ。このスキルは細心の注意が必要で、少しでも無理をした動きをしても肉体が断裂し、逆に長時間使用すると今度は脳疲労で使えなくなる。
だからこそ先程の試合のように常に韋駄天回帰を使い続けてはいけない。
「今日!探索者の皆様の最強が決まります!予選で脱落してしまった方、あと一歩のところで決勝に進めなかった方などその心境は様々でしょう。でも、この仁義なき戦いを制するのは誰なのか?現時点での最強は誰なのか?目に焼き付けろ!!」
観客が沸く。中には私への応援やクロウへの黄色い歓声などが上がっていた。
「では決勝戦へ出場する切符を手にした方々の説明をさせていただきます!いかなる敵でも一撃で屠る。その正確無比な魔法を前には誰も彼もが為すすべなく倒れていく!最強の魔法使い、クロウ!!」
クロウが少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。意外と可愛いとこがあるじゃないか。
「三種類の武器を扱う猛者、圧倒的技量と卓越したスキルの組み合わせで数々の強敵を亡き者としてきた。決勝戦ではどんな戦いをするのか?最強の戦士、アイン!!」
こそばゆい、だが今はこの歓声が気持ちいい。今は二分されているこの歓声を私色に染め上げてやる。
「決勝戦よーい、始め!!」
アポちゃんの透き通るような声が試合の開始を知らせる。
その音を聞いた瞬間私は駆け出していた。ラグナロクを片手に持ち、天翔龍を発動させ、韋駄天回帰を発動していない今での最高速度で避けていく。私の場所を正確に追尾していく青白く光る稲妻たちを。
「雷神の崩御。これはお前を常に追い続ける。」
一秒に一回のペースで的確に私を狙ってくる攻撃。それを避けるために私は回避を余儀なくさせられる。だが天翔龍単体の発動だけで十分避けていられる。これだけならいいのだが、それよりも厄介なのは…
「雷神の舞踏」
クロウが光を集めたような剣を片手に急接近してくる。まるで光に乗ったかのような速さ、そして近づくだけで痺れる身体。咄嗟に韋駄天回帰を発動させなかったら私は身体を貫かれていたに違いない。
永遠のように感じる虚無の時間、その停滞した時の中でクロウは確かに目に見えて動いていた。驚きが隠せない。なんで動けるんだ?どんな速さで動いていたらこの空間で動いているように見えるのか?疑問は山々だがこれ以上の発動は身体への負担がかかると思い解除する。
「くそっ、避けられたか。」
クロウが再度私に向かって攻撃を仕掛ける。よく見て韋駄天回帰の発動に最適な時間を見る。いや考えてしまった。
「ぐっ、自動追尾を忘れちゃってたか…」
私の場所を常に自動追尾して落雷を落とす「雷神の崩御」が私の身体を貫く。あまりの痺れにラグナロクを地に落としてしまう。カランカランと手から滑り落ちたラグナロクの刀身に反射する自分の姿を見る。
狐をもしたお面とミスマッチするようなフリルの付いた黒を基調とした服。なぜかこの姿を見ているとミリィとフレイヤに応援されているような気がする。頑張ってね、こんなところで負けないでください、いるはずのない二人の声が私の鼓膜を揺らす。
そうだ、何のために戦っているかってわかっているだろ。強くなりたいしまだ見ぬプレイヤーに会いたいのもそうだ。だが本当に大事なのは大切な人に「頑張ったね」って褒めてもらいたいからだろ。ようやく来た決勝、窮地に陥った今だからこそ笑うんだ。笑って楽しんでいることを伝えるために。
「は、ははは…為すすべもなく倒れるだなんて私らしくないな。こんな時でも笑って勝ってあげるよ。よく聞けクロウ!お前を倒すのはこの私、アインだ!」
「そんなボロボロの擦り切れた雑巾みたいになっちゃってどの口が言えるのかな?」
「この口だよ!」
ガキィィン
クロウめがけて飛び上がる。そして空中を踏みしめる瞬間だけ韋駄天回帰を使用し加速。ダメ押しで傍若無人も使ってステータスを引き上げてラグナロクで思いっきりクロウを斬りつける。
だが効果がない。いやクロウの体に触れる直前でラグナロクが目に見えないナニカに受け止められ、そして青白い龍が私に襲いかかる。
私の身体を這ってきて、巻き付き爆発した龍。それでも私は驚かない。冷静に、それでいて落ち着いて。
なぜならもう見たことがある技だからだ。龍の体が膨張し内側からはぜていく、その爆発の瞬間とともに目の前が真っ白く光る。だがもう次の手は決まっている。なんで反撃を受けるってわかって攻撃をしたかって?それを利用するために決まっているじゃないか。
「累撃昇華!」
攻撃を受けとめて己の力とし、武器を振るうたびにその威力を増幅させていくスキルを使い、クロウの身体にラグナロクをめり込ませる。どうやら龍門外装は一度しか使えない技らしい、一か八かの賭けに勝ったことを実感しつつそれでも追撃の手を緩めない。
勝利の頂きを見るために。
始めて「アイン」という人物を見かけたのは予選から勝ち残ったプレイヤーが集められたときだった。自分が一番乗りだと確信していた自分の前にいた一人の可憐な少女。おおよそこんな少女に負けたとは思えないが相手もれっきとした一人のプレイヤーだ。たまたま運が良かっただけだろうと思った。
しかしそんな自分の楽観的な予想が崩れたのは次の試合だった。
予選を勝ち残った猛者たちによる本戦、その開幕戦に少女はいた。どうせ相手に瞬殺されるだろうと思っていた彼女は予想とは裏腹に相手を瞬殺した。強いと自負している自分が、あくまでも魔法使いであっても軒並みステータスが高い自分が彼女の動きを一つも捉えられない。
そして一つの考えに至った、「彼女なら自分と渡り合えるかもしれない」と。
彼女と戦うにはトーナメント的に見て決勝しかなかった。それでも互いが決勝まで上り詰めないことへの不安はない。なぜなら自分を含めて骨があると思ったプレイヤーは片手で数えられる程度だったからだ。
そして自分の思惑通り彼女は決勝に出場した。今までは相手が弱すぎるからと温存していた魔法も使い始めた。
持続的に攻撃を与え続ける雷神の崩御、雷を剣と成してまさに雷鳴の如き速さで攻撃を仕掛ける雷神の舞踏。そしてクールタイムが長い代わりに相手の攻撃を一度吸収して、その威力の倍だけのカウンターを行う龍門外装。どれもこれもが強い魔法達。
純粋に相手を叩き潰すには役不足なこれらを使う気にはなれなかったが彼女は違う。そう思っていた。
だが、蓋を開けてみたら他の有象無象と比べて少し骨がある程度だった。たしかに初手で雷神の舞踏を避けるのもすごいし雷神の崩御から逃げ続けるのも他のプレイヤーと比べたら別格だろう。だが言い換えればその程度だった。
僕はずっと不満だった。なんでこんなにも他の人は弱いのか、どんなプレイヤーもモンスターも苦しむことなく倒せるのがこんなにも退屈だったとは知らなかった。誰も僕と対等に戦ってくれやしない。使う魔法を一つに絞っても圧勝してしまう、これ以上自分を制限できるか?無理だろ?
そんな退屈だった僕に並ぶと思っていた彼女も僕の半歩後を歩くだけだった。これからもまた退屈な日々が始まるのだと鬱屈な気分になりながら彼女へ最後の攻撃を与える。
もう終わる、退屈だ。そう思っていたのに彼女は、アインは立ち上がる。絶対にお前に勝つだって?勝てるものなら勝ってみろよ!僕と対等な試合をしてくれ!
どうせ無理だろと立ち尽くす。彼女が最後の力で僕に攻撃を仕掛けるが意味がない、龍門外装はどんな攻撃も一度は防御する。そしてそのカウンターで誰も彼もが死んでしまう。
そのはずだった。
気がついたら僕はアリーナの橋まで吹き飛ばされていた。
やっと、やっとだ…
初めて戦いが楽しみだと感じ、胸の鼓動が高鳴った。




