第四十四話 因縁の決着
ケインの持つ南風の大剣、その性能は私が肌で感じている。エアバーストによる急加速を巧みに扱うことで高速移動だけでなく強力な一撃を放つことすら可能にする。
一方私が持つのは妖精大剣レーヴァテイン。様々な属性の妖精を集めることで強力な武器に様変わりする。そして何よりこれは切り札だ。一度ゲージを使い切るとその後長時間に渡って使用が不可となる超短期決戦用の一振り。その持続時間は最長で10分。それに加えてゲージを消費することで攻撃を放つためより一層持続時間は減少する。
それに加えて私には以前とは違う点がある。それは数々のモンスターと戦い、SPで強化することで妖精大剣術のレベルが上がったところ。現在のレベルは3、レベル2のときには連結が解放され、レベル3でも有用な効果が解放されたレーヴァテインは最早ノトスと戦った頃とは別物だ。
ケインはマナ不足、私は集中力の低下というディスアドバンテージを抱えているがそんなものなど感じさせないほど気丈に振る舞う。舐められてはいけない、この勝負で勝つために。かならず勝つ。まだ見ぬ強さと出会うために。
アインさんはやはりすごい。僕が見つけ、他人に真似されてもなお他の追随を許さない技。「コネクト」を淡々と、それでいて正確に無効化していく。悔しい、だがそれがいい。僕の憧れはこんなものではない。
コネクトとは僕のレベルが50に達した時に発現したユニークスキルだ。
どんなプレイヤーであってもレベル50となった時に現れるその人だけのスキル、ユニークスキル。その能力は一長一短。特に僕の「コネクト」は自分で決めた動きだけでなく他のスキル、インベントリからの出し入れまですべての動きを一連の動作として登録することができる。
そして「コネクト」は周りの環境に適応して最適な動きを加えてくれる。
このスキルがあればあの時何も手助けができなかった自分でも役に立つのではないか。いや、隣に立てるのではないか。あの強く、可愛く、時に冷酷な彼女に。
そう思っていたのだが現実はそう上手くはいかない。予選から通して今まで負けなしだったこのスキルを破ったのもまた憧れの彼女だった。事前に決められ最適化された攻撃を避けるだけでなく僕の動きを先読みしてくる。
肩を狙えば、体を半身にしてズラす事で避ける。首元を狙えばその軌道上に巨大な漆黒の鎌を置いて防御する。コネクトを使えば使うほど僕の魔力は減っていく。唯一の欠点がこの燃費だった。
しかし人には集中力の限界というものがある。いかに憧れの彼女であっても長時間こんな気の擦り切れるような戦闘を続けてはいれない。その行動は言うならば神業。だが必要最低限の行動で僕の攻撃を防いでいく彼女にも相応の代償が生じる。
アインさんの動きに精細さがかけていく。あと少し、あと少しで彼女を超えられそうだと言うのに。あの日夢見た場所に辿り着けるというのに!もうスキルを発動することができない。魔力が発動に必要な量に達していない。あと一息、そこから体が思うように動かない。
ふぅぅぅ、落ち着くんだ。ここからは短期決戦だ。インベントリから今まで使っていた双剣を戻しレイド報酬の南風の大剣を手にする。残り少ない魔力だがあと数発エアバーストを発動させる程度は残っている。そしてダメ押しであるスキルを発動する。超々短期決戦用のスキル。その持続時間はたったの1分。ここですべてを決める。
届かないと思っていた場所への階段を今一度踏みしめる。
「未来予知!」
最後に勝つのは僕だ。
「未来予知!」
ケインがそう叫ぶ。彼の目に時計のような文様の魔法陣が展開する。
それと同時に私は赤色のオーブを持ち手にはめ込む。
「紅蓮刃・朱雀!!」
ボォッと炎に包みこまれた剣身から真紅の翼を持った鳥が現れる。
頭の中で連結するのスキルを考える。今持っているスキルは居合・紅蓮抜刀、斬撃を飛ばす焔閃・紅羽、ステータスを強化する紅蓮・灰燼貫、敵の防御力を一部無視する炎熱・灼陽、そして残存HPに応じて強化される神速の居合である緋刀・暁ノ一閃。
初めに使うのは居合であることは決まっている、そうであるならば次に組み込むのは焔閃・紅羽と炎熱・灼陽。残りの2つは連続攻撃には向いていない。
ケインに向かって連結した攻撃を浴びせにかかる。動きと動きの間をなくし流れるような連撃を行う。だが意味がない。
私の居合が届くところにはもうケインはいない。飛剣も防御無視の横振りの一撃もケインにかすりもしない。先程の私のように高速で動いているわけでもないのにただ歩いているだけ、それなのに攻撃が届かない。
私のゲージは減るだけだ。焦りが私の判断を鈍らせる。フレイヤに「絶対勝つ」って言ったじゃないか。彼女の作ってくれた武器で必ず。ドルヴェラクも何度も手助けをしてくれた。それなのにこんなところで負ける?ふざけんじゃない。私があの子達に見せたいのは一等星の輝きだけだ。
次第にゲージが底をついてくる。残すは15%。もう後がない、いやまだ手札は残っている。慎重に慎重に場所とタイミングを見計らう。
ケインが未来予知を発動してから40秒ほどたった時、唐突にケインが攻めに転じた。今まで避けることのみに集中していた彼の背中に青白い光が浮かび上がる。
「エアバースト」
急加速するケインの体、すれ違いざまに振り抜かれる南風の大剣が何かに押し出されるかのように軌道を変える。身をかすめ、情けない声をあげてしまう。
脇腹をえぐられた私は足全体を使ってなんとか立ち上がり、力を振り絞って神速の居合を放つ。
「緋刀・暁ノ一閃」
HPが低いほど加速する居合――だがケインにはかすり傷一つすらつけれない。まるでもう来ることがわかっていたように防がれてしまう。
ケインが私の胴体めがけて南風の大剣を振るう。よく見るとエアバーストの光が私と南風の大剣のどちらの姿にも重なる。
どうやら私と南風の大剣を同時に逆方向に加速させダメージを増幅させようとしている。いわゆる対向車線の車との追突事故のほうがガードレールに突っ込むよりも破損が大きいのと同じだ。
「おつかれさま、僕の勝ちだ。」
ケインが勝ち誇ったかのように頬を緩める。もう逃げ場のないところでの絶命の一太刀。
その絶対に倒し切れるという油断が慢心を生む。
「剣戟再臨」
ダァンッと音が鳴り、今まで放った居合や飛剣の軌跡が浮かび上がる。
ケインは体を四方八方に切り刻まれて南風の大剣をその手から落とす。
剣戟再臨――紅蓮刃・朱雀の戦闘開始から発動に至るまでのすべての技をもう一度再現させる。そのダメージはすべてその業が行われた場所で可能となる。このスキルの対象となる技は選択が可能、選択された技を使うときはゲージ消費量が倍になる。
「天晴だよ、アイン。」
ケインが清々しそうな顔で消えていく。
「次会うときは一緒に挑もうな。」
私はそう言って戦友に笑いかける。この言葉を聞いた彼は泣きそうな目をしていた。
「準決勝第二試合の勝者はアインさんだー!これで決勝の選手が出揃ったぞ。決勝は果たしてどうなるのか?!」
試合が終わったため一度控え室に戻る。そしてクロウとすれ違う。クロウは私の耳元でぼそっと囁く。
「君じゃ僕に勝てない。」
悠々と立ち去っていく姿はどこか悲しそうで儚げで、勝利を確信しているはずなのに寂しそうだった。




