第四十三話 交錯する思い
クロウとサスケの試合が始まる。クロウは初手で雷魔法を放つことで何人ものプレイヤーを一発で仕留めてきた猛者。サスケの試合は見ていなかったがアポちゃんの解説によると軽戦士らしい。それに持っている武器はタガー。リーチが短い分取り扱いに長け、かつ移動するときの邪魔にもならないすぐれものだ。
「それでは、試合開始!」
試合開始の合図とともにサスケの姿が消える。よく目を凝らしていたのにもかかわらず一瞬でだ。この消え方…予選で使ってきたプレイヤーがちらほらいたような気がする。確か「隠密」だったかな。
「ケイン、隠密ってどういうものなの?」
「アインも知っているんだね。隠密っていうのは最近プレイヤーの有用スキルまとめサイトに投稿された自身の姿を相手から見えなくするっていうスキルだよ。でもさすがに音とか匂いは消せないし、一度発動したら三歩までしか動けないっていうデメリットもあるけどね。」
ふむふむ、ということは今サスケは開始位置から動いていないのか。でもそれだとすぐクロウに魔法で倒されてしまうのではないか?
そう思いクロウを見てみると顔をしかめていた。もしかして今の状態だとサスケを攻撃できないのか?つまり隠密が効いているということだ。っていうことは――
「あの魔法は相手を視認しないといけないのかも。」
だが、今の状態はどちらかと言うとクロウが有利だ。今の戦局を一言で言い表すならば膠着状態。サスケは隠密の制限のせいで迂闊にクロウに攻められない。一方クロウは確かに魔法を使ってサスケを一撃で仕留めることはできないが自由に攻撃できるという利点がある。これからどうするんだ?
ちっ、俺の相手が面倒くさすぎる!今は隠密を使ってるおかげで相手からの魔法は来てねぇけどこのスキル使い勝手がわりぃんだよな。何だよ?三歩歩いたら解除されるって。奇襲攻撃をメインとする奴ら以外の需要に答えてねぇじゃないか。
でも現状、生憎相手も攻撃はできない。なんでかはわからないがきっと隠密で姿を隠しているからだと思う。それなら俺の持つ最速のスキルで一瞬で間を詰めるだけだ。
「光陰矢が如し」
このスキルは極めて限定的な状況でしか使えねぇが代わりに目で捉えきれないほどの高速移動が可能になるやつだ。俺がここまで勝ち残れたのもこのスキルのおかげと言ってもいい。このスキルの制約は2つ。他人から視認されてはいけないこと、そしてクールタイムが5分もあるという点だ。このめっちゃ長いクールタイムのせいで長時間戦闘には向かない。ここで決める!
「はああぁぁぁぁ!!」
相手のすぐ近くまで移動してタガーをクロウの首筋めがけて斬りつける。同時にこのタガーの能力である魔力を使うと鋭くなるという力を使ってより攻撃力を高める。俺の全身全霊をかけた一撃、いとも簡単に相手の首を切り落とせるだろう。どっかの漫画のキャラも言ってたぜ、速さは重さってな。
タガーが相手のマントに触れる。その瞬間だった。眼の前が青く染まったのは。
防御魔法なのか?観客席から見ていても何が起こったのか見極めるのは難しかった。
先に動いたのはサスケ、隠密を使ってクロウの意識が少しそれた瞬間に目に止まらぬ早さでクロウのそばに移動した。これは俗に言う目に止まらぬではなく、おそらくプレイヤーの中でトップレベルの速さを誇る私でさえ残像すら見えなかった一撃。最強すぎる。
このままタガーがクロウの首に食い込んでしまうのかと思ったときだった。青色の光がクロウから放たれ、サスケの体を貫く。よく見てみると龍のような形をした光だった。
「龍門外装、この技は決勝戦まで隠しておきたかったんだけど。ここまで魔法の対策をされたらね、使わざるを得なかったよ。あぁごめん。もう聞こえてなかったか。」
サスケが膝から崩れ落ちそして塵となっていく。
「勝者クロウ!溢れんばかりの声援を!」
常人であれば目に収めることも難しい攻防。それでもナニカが起こり、ナニカをしたということはわかるのだろう。何やら観客席側からなら思考加速で試合の観戦が可能だったはずだし。
それに龍門外装なる技がなければ負けていたのはクロウだった。サスケが見せた高速移動スキルも間違いなく強い。これがベスト4に残っているプレイヤーの実力か。
「面白くなってきたじゃん…」
次の試合は私達の番だ。控え室に一人で帰ってきたクロウとすれ違いながらアリーナの真ん中へと向かう。
「負けたら許さないからね」
と聞こえたのは空耳だっただろうか。
「先程の試合はクロウさんの勝ちということで、次が準決勝最後となります。果たしてクロウさんと決勝で相まみえるのはどちらなのか?アインさんとケインさんです!」
ケイン。ジョーヌ防衛戦で見たときと同じく剣士だった。だがあの剣は…ミラーマッチは少々分が悪いかもしれない。不測の事態に備えて思考加速ができるラグナロクに持ち替える。
「準決勝最終試合、それでは開始!」
ケインに武器を向けながら立ち尽くす。先程のクロウとサスケの試合が初手で決まる試合だとしたら、今回は互いの動向を探る試合だ。ジリジリと詰め寄り攻撃をするフェイントを掛けて互いに牽制し合う。
この勝負、後手に回ると弱い、かといって万全の対策をしている相手に真っ向から仕掛けるのも弱い。相手の隙を探りながら攻撃のタイミングを見極める。
先に動いたのはケインだった。ケインが懐から投げた短剣をラグナロクで弾いた時、その一瞬が隙となる。ケインの猛攻が私を襲う。一息つく間に行われる5連撃、後ろに回り込んでの突き、懐に入り込めば蹴りと足に向けた攻撃の二段構え、そして私の首を正確に狙った袈裟斬り。
まるでナニカによって定まったかのような正確な動きがケインの体画から繰り広げられる。
「ちょっとこれは強すぎるんじゃないかな?」
そう言いながらラグナロクのスキル「韋駄天回帰」を使う。永遠と思えるほど引き伸ばされた一瞬の間でケインの攻撃を見切り、避ける。そしてラグナロクをケインの軌道上に置く。
「ぐっ、避けるだけじゃなくて攻撃まで仕掛ける人の言う言葉かな?」
「ハァハァ……疲れるんだよ、こっちは。」
疲れがたまる。何度もケインから放たれる一連の型。正確無比な一撃が着々と私の体力を奪っていく。韋駄天回帰のもう一つのデメリットが私の足を鈍らせる。数値として反映されない疲れ、それはもう見逃せないほどに膨れ上がっていく。
知恵熱、という言葉が一番しっくり来る。脳がオーバーヒートしているかのように正常な思考がうまくできない。だが、意味はあった。
「ちっ、もうマナが…」
ケインが嘆く。どうやらあの動きはマナを消費するもの、スキルだろうか。どちらにせよケインも私も今のペースで行動し続けることはできない。互いにまたもう一度見合う。
敵の攻撃、これからの行動の選定、そして最悪の事態の考慮。思考力が落とされながら必死にフルで頭を回転させる。
「こんなこと?って思われるかもしれないんだけど、僕は君に憧れていたんだ。あの大規模なレイドで君がボスを単独討伐したあの時から。」
「あの日から頑張ってきたの?」
「いや、僕だってプレイヤーの端くれ。誰だって強くなりたいだろう?僕もあの日まで必死に強くなっていたんだ、そんな気持ちになっていただけだとは知らずにね。上には上がいる、そう思い返された日だった。でも、あの日天高く、手の届かないところにいた君は僕と同じリングの上にいる。やっと手が届きそうなんだ。」
「……でも、負けるわけにはいかない。私の勝利を、あなたのお陰で他の人に勝てたんだよって伝えたい人がいるから。」
「大丈夫、僕が実力で勝つから。」
ケインが今一度剣を持ち替える。今まで使っていた双剣ではなく、初めに見せた南風の大剣に。
私はラグナロクを戻し使い慣れた大剣を手にする。
あの時のボスモンスターを屠った一振り、レーヴァテインを片手にして宣言する。
「完膚なきまでに叩き潰してあげる。」




