第四十二話 因縁
第二回戦の相手は正統派な剣士だった。間合いを詰められたら離れるということを徹底して距離感の管理に重きをおいていた。半歩踏み込むと下がり、決して私の剣のリーチに入らなかった。攻撃を防御するのではなく、まさに攻撃できない状況にする。
確かにその対策方法は賢い。だがそれも対処できる許容限界というものが存在する。天翔龍を使って死角から南風の大剣で一突き。相手の想像よりも早い速さで距離を詰めればこんな小細工などいらない。
第三回戦の相手は魔法使いだった。植物魔法という未知の魔法を自由自在に巧みに扱う非常に戦いづらい相手だった。アリーナのいたるところから大樹が生えてきて、視界と動きともに妨害してくる。それに加え細い樹木を使った拘束や目を重点的に狙った攻撃が来た。攻守ともに揃った相手をどう攻略するかを考えているうちに一つの弱点に気づいた。
それはこの植物魔法は地面や壁からしか生えてこないということ。それに加え操る樹木の長さも長くて6mほど。それならば空中を飛んで行けばうざったい攻撃を避けなくて済む。天翔龍で空中まで飛び跳ねていき、落下しながら体を真っ二つに一刀両断する。
ヒュッ
植物魔法の樹木が私の体を少しかすめた。おそらく自分自身を囮にして落ちてきた私を全方向から仕留めようとしたのだろう。あともう少し、コンマ数秒でも遅ければ倒れていたのは私かもしれなかった。
読み合いだけでは予測できない事があるから勝負はやめられない。
第四回戦の相手はタンクだった。防御職の人物がどうやって勝ってきたのだろうかと訝しげに思いながら南風の大剣で一刀両断――するつもりだった。エアバーストも併用したが刃が通らない。いやこれは攻撃自体がなかったことに…?
そう思ったところで鈍い衝撃が私の腹を襲う。相手は何も触れていないし攻撃も仕掛けていない。だが相手の持つ盾が音を立てている。もしかしてこの盾が悪さしているのか?
もう一度南風の大剣で攻撃する。また再び攻撃を受け止められ私のHPを削る。これは…反射だな。すべての攻撃を盾で必死に受けようとするところや盾以外の場所へ殴った素手の攻撃は反射されない。ということはこの攻撃を吸収して反射する機構はスキルではなく盾に付随するもの。
定石通りであれば盾を奪い取るか盾がないところを狙う。だがそんなもののどこが面白いんだ?相手の攻撃を封殺して完膚なきまでに倒すのが倒しいのに。
よって盾以外を狙って攻撃するのは却下。だとすれば残るのは盾のキャパシティを超えて攻撃するのみ。いかに強力な武器であってもそれ相応の対価というものは存在する。それは当然ラグナロクにも。特に「韋駄天回帰」は短時間使用するだけでも目に見えない疲労が蓄積する。それに少しでも加減を間違えれば倒れるのは相手ではなく、体の限界を超えた動きをして筋肉が断裂した私だ。
フレイヤとドルヴェラクが技術の粋を尽くして作ったラグナロクにもデメリットが存在する。それならばこの盾にもきっと弱点が存在するはず。それはきっと受けられる攻撃の上限が決まっているか一定以上の攻撃は無効化できないのどちらか。どちらにせよ強い攻撃を何度も食らわせれば大丈夫だろう。
思考する。どうやったら相手の上限を超えた攻撃をするのかを。思考する。反射に必要な条件とは何かを。考える。相手に勝つための必勝の手筋を。
ふと、天啓を受けたかのようにひらめきが脳裏をよぎる。南風の大剣はドリルのように使うことはできないのかと。
物は試し、という言葉があるように何事も挑戦が欠かせない。私はドリルのような強大な回転力を南風の大剣に与えようとエアバーストを剣の右端と左端にかすめるように置く。そして相手の攻撃を受けたタイミングでわざと南風の大剣を落とす。こうすることで隙ができたと思い込み、相手が私に向かってくる。
まんまと罠にハマり相手が馬鹿正直にこちらに向かってくる。盾を持ち押しつぶそうとしてくるのを尻目に私は南風の大剣を前に突き出す。
突き出した瞬間に剣のすぐ近くに配置していたエアバーストを起爆させる。
凄まじい轟音。指向性をもたせたエアバーストによって高速回転する南風の大剣。
それに対して必死に抑え込もうとする相手。だが無慈悲にもピキピキッと盾にヒビが入る。
「一心同体!」
相手がスキルを叫ぶと体と盾の両方が黄金に輝き出す。すると途端に南風の大剣が与えていたヒビ割れが収まり、少しずつ治っていく。このままだと押し切られてしまう。
高速回転する南風の大剣の回転が緩やかになっていく。私がここで負けてしまう?このまま押し切られてしまう?そんな事はあってはいけない!
「シールドバッシュ」
相手が私に向かって加速する。盾で押しつぶそうとする相手。それに伴いどんどん遅くなっていく南風の大剣。
「ッ、エアバースト!!」
南風の大剣の持ち手を真正面からエアバーストで叩き押す。急激に加速する剣の圧力に負けた盾がボロボロと崩れていく。
そして盾と一緒に倒れ、塵となっていく相手。
「グッドゲーム……」
相手の顔はとても晴れ晴れとしていた。
観客席に戻り一息つく。今この時点で私はベスト4に入っている。つまり次が準決勝だ。当然クロウも順調に勝ち上がっている。今までの彼の試合を見てみると「圧勝」という一言に尽きる。全て開始直後に放たれる雷の魔法で体を貫かれて負けてしまう。反射神経が良さそうな相手であっても避けることはできない。果たして私は彼を倒せるのだろうか。
「ではベスト4も出揃ったところですね!それではベスト4の皆さんにインタビューをしていきましょう。今回聞く内容は観客の皆さんから募集した質問の中からランダムに選んだものです!それでは一人目のアインさんに聞いてみましょう。アインさんへの質問は……なんでゴスロリの衣装を着ているんですか?です!たしかに私も気になっていました!」
アポちゃんからキラーパスが飛んでくる。驚きで飲み物を喉につまらせて咳をしてしまう。ちょっと待って、いつの間にか始まってたけどこの質問コーナーってどういうこと?
「それで、どうしてゴスロリを着ているんですかぁ?」
いや、これ言うの相当恥ずかしいぞ?このゲームのNPCから渡された服を悲しませたくないから着ているとは、それでもフレイヤの気持ちを無下にするのもな…
「えっと、この服は私の大事な人からもらったやつなんですけど。似合っていませんか?」
似合ってるぞ!と叫ぶ声が観客席から聞こえる。
「似合っているらしいですよ!それでは次の方に聞きましょう。それではケインさん、あなたのプレイスタイルは誰か真似ているんですか?」
ケイン?聞き覚えがある名前がある。これは確か、ジョーヌ防衛戦で一緒に戦ったプレイヤーだ。あのときはこの武闘大会でベスト4に入るほど強いとは感じなかったが、どれだけ強くなったのだろうか。
「そうですね、真似ているというより憧れの存在はいます。ね?アインさん。」
「おっとー?どうやらケインさんとアインさんの間には何やら関係があるようだぞー?それではその話を詳しくお願いします。」
「いいですよ。皆さんも知っていると思うんですが以前ジョーヌを襲ったレイドバトルがあったのをご存知でしょう。私はそこで戦ったのですが、彼女はなんと単騎でレイドのボスを倒してしまったのです。その勇猛果敢な姿をみてから彼女に憧れるようになったのです。」
「なんと!アインさんはそれほど強かったのですね。ということは今回はリベンジマッチとなりそうですね。」
「そういうことになりますね、頑張ります。」
淡々とそれでいて何かを決意したかのようにケインが頷く。
「それでは次の選手に参りましょう。神出鬼没の軽戦士、サスケさんです!あなたに届いている質問は…ないみたいですね!すいません!」
「えっ!まじで?ほんとにないの?」
質問がないだなんてことがあるのか?なんか可愛そうだな。
「はい、すいません。それでは次の選手に参りましょう。すべての試合を一撃で沈めてきたクロウさんです。あなたに届いている質問は…使っている魔法は何ですか?だそうです!」
キリッとクロウが周りを睨む。
「それ、言う必要ある?」
「義務ではないですけど…教えてくれたら盛り上がりますね!」
「はぁ…まあいいよ、誰も習得できないだろうし。僕が使っているのは『雷神の鉄槌』だよ。これでもういいかい?」
「はい、ありがとうございました!では、準決勝と参りましょう。準決勝一試合目は…クロウさんとサスケさんです!お二方アリーナに出てきてください!」
二人が控え室から出ていく。部屋に残っているのは私とケインだけとなった。
「絶対に、勝つから。」
ケインが手を私に突き出しながらそう言う。
「負けないから。」
ピリピリとしながら控え室の椅子に腰を掛ける。




