第四十一話 韋駄天回帰
あれよあれよと敵を倒しているうちにもう本戦に出場が決定した。たまたま私と戦った相手が貧相な防具をつけていたのか、それとも単純にステータスが低かったのかわからないがいとも簡単に1000人を倒すことができた。
どうやら私が1番目の予選通過者らしく再度転送されたアリーナの真ん中には私以外いなかった。そして予選で負けたプレイヤーたちはもともといた座席に戻っているようだ。
「あれは、あいつが一番最初か…」
「待って、あの子って前掲示板で言われてた…」
「あの子か。あの時よりも強くなっているのかな…」
一番最初に本戦に勝ち進んだ私の姿を見て急に観客席がどよめく。
本戦での戦い方、新たな武器の使い方などを考えていくうちに一人、二人と本選出場者が決定していく。そして私が予選を勝ち上がってから20分ほどしたタイミングで大会進行AI、アポちゃんが登場する。
「はいはーい、探索者の皆さん予選はどうでしたか?思っていたよりも自分が強かったり、逆に弱かったりなどあるでしょう!特にXブロックは凄まじかったですね。それでは本戦に移らせていただきます!第一回戦初戦の方は…イカゲソさんとアインさんです!それでは今呼ばれた二人以外はアリーナの控室に戻ってください。」
おおおおお!私が最初か、腕が鳴る。しかし曲がりなりにも予選を突破している相手、舐めていると足をすくわれてしまうかもしれない。ここは慎重に、それでいて大胆に行くとするか。
「今回戦う両方の探索者の簡単な解説をやらせていただきます!まず、イカゲソさんは筋骨隆々、たくましい体と己の拳で相手を粉砕する拳闘士!それに対してアインさんは大剣を扱う剣士だそうです。そして全体で予選1位通過でありグループXの方ならわかっている方もおられるでしょう。彼女が一瞬でグループ全体の過半数をキルしました!」
ざわっと観客が沸く。自分で言うのもあれだが普通は一人のプレイヤーが過半数も削らないだろう。それだけ私は少し異常なのだ。
眼の前に筋骨隆々の大男が仁王立ちする。口から覗く牙と全体的に赤みがかった肌。おそらく鬼人だろうか。その拳には篭手というより昔のヤンキーがつけていたようなメリケンサックが鈍い光を放っている。
「予選を一位で通過したからってそれはお前のグループが弱かっただけじゃないか?この俺のメリケンサックのサビにしてやるよ。」
見え透いた煽りだがここは乗ってあげよう。ソッチの方が観客も盛り上がるだろう。
「は?そっちこそあんま生意気なこと言っていたら首と胴体がお別れしれないよ?」
いいぞ!いけいけー!などの歓声が観客席から飛び交う。
「まあまあ煽り合いは試合が始まってからにしてね、それじゃあいざ尋常に。第一回戦スタート!」
開幕の火蓋が切って落とされた。インベントリから神々の黄昏を取り出し握る。自分の背丈ほどある巨大な鎌を手にしてスキルを発動する。
「韋駄天回帰」
刹那、世界の速度が格段に遅くなった。まるですべてが凍りついたかのように見える。相手、確かイカゲソといった名前だったか。イカゲソを注視すると拳を振りかぶったところからわずかに動き続けている。ということはやはりこれは脳の高速回転によるものだな。
体に負荷をかけないようにイカゲソに向かって歩き始める。そしてイカゲソの首にラグナロクのは先を当てて斬りつける。驚くほど感触がなく、まるで豆腐を切っているような感覚に陥る。
もう決着はついただろう。スキルを解除しその場に仁王立ちする。世界に速さが戻る。
「グッ、いつの間に……」
急所である首に攻撃を受け、塵となっていくイカゲソを見つめる。どうやって、どんな手段でと必死にこちらを見つめる顔を見て少し高揚する。
そして思いっきり息を吐く。スタミナとはまた違う疲労を体から吐き出す。
「しゅ、終了!!!!第一回戦、今大会の幕開けとなる勝負は一瞬にしてアインさんの勝利として決着がつきました!見えましたか?あの速さ!まるで私達を置き去りにするかのように放った一撃。これは波乱の幕開けとなりそうです!」
アポちゃんがそう言い切ったその時、溢れんばかりの歓声が耳を突き刺す。少し恥ずかしくなりながら選手控室へと戻る。しかし、韋駄天回帰とは凄まじい。力とは物体の加速度と質量をかけ合わせたもの。当然速くなればなるほどその威力も増大していく。今回は万全を期すために首を狙ったが、おそらく他の体の部位であっても倒すことはできたただろう。明らかにオーバーキルだった。
コンコンとノックをして控室に入る。この大会の控室は本選出場者が全員入っているらしい。もしかしたらここで他のプレイヤーと共謀を図るのもいいですよっていう運営の意図なのかもしれない。
恐る恐る、しかし舐められないように少し胸を張りながら空いている椅子に座る。
私が控室ノイスに座った瞬間空気が凍り、静寂が走る。なんせ目の前にいるのは先程目にも止まらぬ早さで相手を切り倒した小さな少女。得体のしれないその不気味さに気軽に声をかけられずにいるのだろう。
その後何試合か控え室から試合を見ていた。思っていたよりもレベルが低い、というか明らかに手を抜いているプレイヤーがちらほらいる。そりゃはじめから手の内を見せるのは悪手だしな。それを考えたら初めの「韋駄天回帰」もちょっとやりすぎちゃった感じがあるが関係ない。初めては華々しくがモットーだしね。
「君、意外と強いんだね?」
「あなた、誰?」
急に声をかけられて思わずキツく当たってしまう。声をかけてきたのはフードで顔を隠した自分と同じぐらいの背丈の男の子だった。私は同年代の友達とも比べても小柄な方なので彼も小さいのだろうか。
「いやいやただ称賛したいだけだよ。でも良かった、この大会に僕と張り合えそうな人がいてさ。」
自身に満ちた表情でクックと肩を震わせる彼。厨二病かな?
でも、これだけ大言壮語を並べるのだからきっとその実力も折り紙付きなのだろう。
「それでは第一回戦、続いての試合の選手をお呼びしましょう!クロウさんと仏恥義理さんです!」
「おっと、呼び出しを食らっちゃったみたいだ。君とは勝ち上がったら決勝で当たるみたいだね。僕と戦うまで上に上がってきてね。」
その自信は一体どこから来るんだろうか。私みたいに強い武器を持っているのかそれとも…
そこで試合が始まった。アポちゃんの司会によると先程の少年はクロウという名前らしい。良かった、仏恥義理っていういかにもな名前だったら痛すぎて見ていられない。
クロウは先程と同じフード付きのローブ、右手には杖を持っている。対する仏恥義理はサングラスに金髪リーゼント、手にはムチを握りブンブンと振り回している。
「それではいざ尋常に…勝負!」
試合が始まる。
「てやっ!」
仏恥義理がおおきく振りかぶって靭やかなムチをクロウに当てようとする。ムチをよく見ると細かなトゲが付いていて確実に相手を痛めつけるだろう造りとなっている。しかしクロウは逃げようとも避けようともせずにただ立っている。何かを待っているかのように。
そしてムチが当たる寸前、彼がぼそっと呟く。
「雷神の鉄槌」
辺りに巨大な雷が落ち仏恥義理の体に命中する、余波でアリーナの地面がえぐれ土埃が舞う。
「勝負あり!勝者はクロウさんです!さすがとしか言いようがない一撃、まさに生殺与奪を握っているとはこのこと。ここで一回戦最終試合が終わりました。第二回戦に勝ち進んだのは26人、果たして誰が優勝するのでしょうか?!」
えげつない、なんだ?あの威力。地面がえぐれ敵を一発で仕留める。このさき私は彼を倒すのか…楽しみだな。
この大会の楽しみが一つ増えた瞬間だった。




