第四十話 武闘大会予選
フレイヤとドルヴェラクから語られた神々の黄昏の能力とは「思考加速」だった。
思考加速といえば明日行われる武闘大会にも使われるらしいが一体どのような効果があるのだろうか。
「フレイヤ、このラグナロクの能力「思考加速」ってどういう効果なの?」
「わかりました、このラグナロクの制作者に私に任せてください!このラグナロクの装備スキル、実は3つ存在していてそのうちの一つが「韋駄天回帰」です!」
「ここからは姫様に変わって俺が解説してやる。なんせココのシステムは俺が設計したからな。このスキル「韋駄天回帰」は文字通り体感的に韋駄天の如き早さになることができる。正確には脳の処理速度を限界を超えて加速させ、視覚情報までも遅くするという仕組みだ。そしてこのスキルの真骨頂とも言うべきなのは体の連動だ。」
「体の連動、というとどういうことなんですか?」
「そうだな、お嬢ちゃんも経験したことがあるだろうが俊敏さが上がると周りの物のスピードが遅く感じるっていう経験はないか?」
「ありますけど…それとこれの関係とは?」
「この現象は一般的に出せる速さが上がったから脳の視覚処理の早くなると思われているんだが本当は逆だ。だってこの理論なら戦闘時以外もずっと遅く感じるだろ?でも本当は違う。どうだ?戦闘中に見る渡り鳥の速さと今見る渡り鳥の速さは違うだろう?つまりこれは、脳の処理速度が戦闘中にのみ引き上げられるから出せるリミッターが違うっていうことなんだ。」
「ということは脳の処理速度を上げたら…」
「当然体の速さも引き上げられるっていうことだ。」
「ちょっと、そこ私がアイン様に教えたかった場所なんですけど。でもアイン様、気をつけてください。このスキルは意図的に脳と身体のスピードを引き上げるものなのであまりにも激しい動きをすると筋肉が断裂して最悪死にますからね?」
「まぁ、ホントは自身の速度を調整できるならそんなことにはならないんだがな。」
「万が一アイン様に傷がついたらどうするんですか!」
「はいはい、お姫様は本当にお嬢ちゃんにご執心だな。」
「バッ、コホン。そしてですね、他の2つのスキルは私が作ったんですよ?楽しみにしててください!」
「うん、それで一体どんな能力なの?」
「それは…………」
それから数十分に及ぶフレイヤとドルヴェラクの能力解説が始まった。残る後2つの能力もとても興味深かった。何より伝説とも言えるアダマンタートルの甲羅を使って実際に武器を作れてふたりとも大変満足しているようだ。
「これからよろしくね、神々の黄昏。」
これでもう準備は整った。ラグナロクの試し切りをしてみたいがココは堪えておこう。初戦は武闘大会の本戦でいいだろう。なんせ切り札はここぞというところで使ってみたいし。
もう武闘大会に向けてやることがなくなったため、フレイヤ達からラグナロクを受け取ったあとは久しぶりにゴロゴロした。最近はずっと戦いっぱなしだったこともあり精神的な疲れも溜まっていただろうしな。
そこでこのゲームの特徴とも言えるリアルを超えた美味しさのグルメを何個も堪能した。一番記憶に残っているのはフワッフワのオムライスだ。半熟のオムライスに煮詰めて旨味が凝縮されたデミグラスソースを浸るほどかけ、チキンライスとともに口に入れる。ほのかなケチャップの酸味がデミグラスソースを引き立て、卵が全体を包み込む。
正直に言うと断然リアルよりも美味しい。
そうして明日の武闘大会への英気を充分に養い、ぐっすりと寝る。明日相まみえるであろう強敵の姿を想像しながらベッドに入る。焦ることはない、もう準備はやり尽くしたのだから。
そして次の日の朝、つまり武闘大会当日だ。ベッドから起き、昨日貰っていたというかフレイヤから押し付けられたゴスロリの衣装を着る。なんでも「アイン様の白い体を引き立てるには黒が必須なんです!」と言っていた。
でもこのゴスロリの服を着るためには四風の守護を脱がなければいけない。でも着ないとフレイヤに悪いしな…どうしようと迷っているとミリィが横から助言をしてくれる。
『多分だけどこの鎧って、着ると外見を見えなくするチカラがあったはずだよ?』
すっご、この鎧ちょっと高性能だな。さすがレイドバトルの賞品であり私だけの装備なだけある。早速四風の守護を着てから「姿をなくして」と念じると綺麗サッパリ消えた。その上からフレイヤからもらったゴスロリの衣装を身にまとい、右手にラグナロクを握る。
なかなかかっこいじゃないか。
「よし、準備は整った!あとは他のプレイヤーを倒すだけ、絶対に優勝してやるからな!」
そう言い切った瞬間、九時となり一斉に転送が始まる。足元に魔法陣が浮かび全身が光に吸い込まれていく。この感じは以前ミリィの転移を試したときと似ている、というか同じだな。
光りに包まれている間は目を思わず閉じてしまい、光が収まった後に目を開けるとそこは巨大なアリーナだった。
「デカすぎだろ…」
何万ものプレイヤーがこの場に一斉に存在していた。ざわめく声があたりに響く。
「探索者のみなさーん!イベント進行AIのアポちゃんです!今回は初めてのイベント、探索者のトップを探す大規模な勝ち抜きトーナメントである武闘大会の司会進行を務めさせていただきます!」
突然アリーナの中心に巨大なホログラムが投影され青色のポニーテールをした美少女が映し出される。突然現れたホログラムに驚く声があちこちから上がる。
「みなさんも気になっているであろう豪華プレゼント、その正体は……勝ってからのおっ楽しみー!探索者の皆さんは戦って戦って、戦いまくって自分の力を見せつけちゃおう!」
「「「「「おおおおおおー!!!!!!」」」」」
アポちゃんの呼びかけにプレイヤーが一斉に声を上げる。
「それじゃあ予選を今から始めていくよ。事前告知したように予選はバトルロワイヤル。上位2名になるまで戦ってもらうよ。そしてその予選は26個、A〜Zまでに分けられます!今大会に参加してくれた探索者の総数はおおよそ5万程度だから各ブロック大体2000人ぐらいだね。それじゃあ倍率1000倍の命がけのバトルロワイヤル、スタート!!」
ボンッ
また光りに包まれ景色が変わる。
「いてて、此処はどこだ?」
見渡す限りの平原、木々一つない。手の甲を見てみるとXと書かれている。
「私はグループXのようだね。そしてステージは平原…見晴らしもいいから気軽に動けない。これからどうやって動こうかな。」
そう言いながら南風の大剣を手にして後ろに振りかぶる。
「エアバースト!」
「グッ、なんでバレて…隠密はもう使っているのに!」
「足音までは隠せないのって、意味なくない?」
南風の大剣に体を真っ二つにされた男を見下ろしながら言う。
「他の奴らも、私にかかってきなよ!全員まとめて相手してあげる。」
誰もいない平原、いや多くの参加者が身を潜めているであろう方向に向かって剣を突き立てながらそう言う。
ガサゴソと音がして次第に参加者が姿を表し始める。
「おい、こいつ相手に隠密を使った奇襲は効かねぇみたいだ。とりあえずこの口先だけの奴を先に全員で叩き潰すとしよう。」
「「「「「了解」」」」」」
あっという間に多くのプレイヤーに周りを囲まれる。どうせプライドだけが高いマセている奴だと思っているのだろう。腹が立つ。まだ相手と剣も交えていないのに力量を測るだなんて冗談甚だしい。
ジリジリと寄ってくる他のプレイヤーたち。一人がやるならば私も、というような感じで私を取り囲むプレイヤーの数は増えている。全く日和見主義な奴らめ。だが今から私がすることを鑑みれば今の状況はとても良い。うまく出来すぎているぐらいだ。
慎重に機会を見定めてボソッと虐殺の合図を口にする。
「エアバースト×10」
南風の大剣の切っ先、そこだけを対象とした風の加速が一点集中する。重ねがけされることで次々と加速していく南風の大剣、その動きに身を任せながら天翔龍を発動して回りにいるプレイヤーを巻き込む。高速回転をし続ける私と、巻き込まれて死んでいくプレイヤー。
こんな少女に負けてたまるかと徒党を組んで立ち向かうも意味をなさずに切り刻まれていく。弓、魔法、時には拳。そのどれもが圧倒的な力と速さの前には手も足も出ない。
ワイルドボア狩りの時とは比べほどにならない威力に巻き込まれて大勢のプレイヤーが認知すらされずに死んでいく。
ごく少数の認知されたプレイヤーの誰もが恐怖と悔しみで顔が歪んでいてた。
【予選Xブロック通過のお知らせ】
プレイヤー名:アイン様による過半数のプレイヤーのキルを確認、本線への出場権利を獲得します。
知らぬ間に予選を突破していたようだった。辺りにはもう誰もいない。




