第四話 それはいわば神のようなもの
ゴオォォォォォォッッッ!!という音を聞き、上を見上げると美しい純白の羽を持ち、悠々と宙に留まる鷲の姿があった。
【確立存在雄猛たる天空―ジグルド―に遭遇しました】
何だ、何だ?あの存在は??神々しさだけでなく気高さすら感じられるあの姿。先程まで命の取り合いをしていたベルセルクでさえ目を離さずにはいられなくなっている。突然の登場、相手と生物としての格が違うということを肌全体で感じさせるほどの威圧感。あれは本当に生物なのか?私が本当に相手にできるのか?もしやあの存在は―――
『矮小たる存在どもよ。久しく感じる仇敵どもの波動を感じて来てみればこの有り様は一体何だ?』
しゃ、喋ったーーー??!!え、喋れるの?ガチで言ってます?まだ、こんな始めてちょっとの私が出会えるような存在じゃない感がプンプンするんだけど。ちょっと出てくるの早くね?こういうのって、もっとさぁ、ねぇなんか、遺跡を探索した先に待ってる守護者だったり、最果ての地で待つ最強の敵とかじゃないの?こんなプレイ初日に出会えるものなのかな?
『聞いているのか?お主ら下等生物共が気軽に我と出会えることなどないのだぞ。よく見ればまだ我の権能をまだ知らぬような顔をしておるな。よく見ておけ。』
ギュリュルルルゥゥゥゥッッ!!ボンッッッッ!!!!!!
刹那―――私の後方にある森一体が消し飛んだ。ビームが飛んだわけでも、隕石が落ちてきたわけでもない。ただあの鷲が、ジグルドが力を行使しただけで森がえぐり取られたのだ。あまりの衝撃に言葉が出ない。ジグルドからすれば私たちなど道端にいる蟻とそう大差無い。生物としての格があまりにも離れすぎているのだ。
「ギャァァァァァァ、グルゥゥッォォォォォ!!!」
ベルセルクがジグルドに恐れをなしている。いや、あれは恭順しようとしているのか?圧倒的力を持つものに存在ごと消されないように必死にひれ伏しているのかもしれない。
『まだ、赤子共か……興冷めした。もし我と再び相まみえたければ眼前の敵を屠るが良い。』
ボオオオオォォォ!!
突風が吹き目を思わず閉じてしまう。再び目を開けたときにはもうジグルドはいなかった。
「ねぇミリィちゃん、あれは何なの?」
『あれは確立存在、あいつらは《第一級秘匿事項》で特にあの個体は《第二級秘匿事項》だったはず。チッ、あれによって……とりあえず今は勝てそうにない存在ってことだけ覚えといて。忘れないでね。あなた達の超えなければいけない壁、それがあいつらよ』
「ちょっと、肝心なところが聞き取れなかったんだけど?詳しく教えて!!」
『そんなことより眼の前の敵でしょ??あいつに比べればこの二つ名持ちなんか雑魚だけどあなたじゃ太刀打ちできないもしれないんだから。ま、せいぜい頑張れば??』
チッ、一言余計だな。確かにもう過ぎ去ったジグルドのことより眼の前のベルセルクのほうが100倍大事。ありがたいことにジグルドによってベルセルクのお供をしていたゴブリンスカウトは消し飛んだ。
うん、改めてあいつバケモンだろ。一撃で、それもスキルすら使う素振りなかったぞ。あんなのミジンコがライオンには向かおうとしてるぐらいの差があったはず。
「ギャオォォォォォーーーーン!!!」
ジグルドの登場のお陰で麻痺毒はもう抜けた。それに天翔龍のクールタイムももう終わった。あとは持てるものをすべて使ってベルセルクをぶちのめすのみ!
天翔龍発動。スキルの補正で素早くなった私は一息にベルセルクとの距離を詰める。突然いなくなった獲物にベルセルクは思わず動きが止まる。先程までで片目と片足のアキレス腱は削ぎ落とした。奴は思うように動けないし、自分よりも早い存在を捉えることはできない。ベルセルクの後ろに回り込んだ私は跳躍しながら背中に刃を突き立てる。
「グルァァァァァァァァァァァァァッァァ!!!」
ベルセルクがあまりの痛みに身を捻る――が、思うように足を動かせずに地面に倒れ込む。先程までの罠をかけるほどの知能があれば理解できていたのかもしれないが、ちょこまかと動く私に頭に血が上り短絡的に行動をしてしまったのだろう。アキレス腱が動かないことを忘れてしまったのだなんて。
地にひれ伏したベルセルクの首に狙いを定める。思い切り腕を振り首を落とそうとした。
ガキンッッッ
私の剣はベルセルクの首を落とせていなかった。何が起こったんだ?先程までの攻撃は確かに効いていた。急所である首だけ肌の硬度が違う?それなら心臓がある胸が柔らかい理由に矛盾する。一体どうして、どういう理屈なんだ?
「グラァァァァ!!」
ベルセルクの巨体が赤みがかる。緑色の肌が次第に赤くなり、全身から黒いオーラを立ち上らせる。
「もしかして、強化状態か?」
強化状態への移行、おそらくそれは残存HPの低下に伴うもの。つまり、ベルセルクの命の灯火はもう消える寸前であるっていうことだ。この強化状態であいつに致命の一撃を与えることができれば……
並大抵の攻撃じゃ強化されたベルセルクの強固な肌を突き破れない。まだレベルが低い私じゃ全身全霊で剣を振り下ろしても傷一つつかないだろう。ならば、このリアルなまで再現された物理エンジンを使うまで。私がゲームの世界で本物と同様に動けるのはひとえに現実に忠実な物理エンジンを使用しているから。それなら、高所から飛び降りて落下のエネルギーを利用してベルセルクの首を落とせるんじゃないか?
天翔龍の効果時間はあと7秒。この7秒でできるだけ上まで登って空中で下向きに跳躍するしかない。まだベルセルクは思うように動けていない。この状況下なら的確に首を落とせるッ。大地を踏みしめて高く跳躍!更にできるだけ上に行こうと跳躍。最後に体の向きを反転させ、ベルセルクの急所の位置をしっかりと見定めて――跳躍!!
「いっっけぇぇぇぇ!!!」
物理エンジンの加護を得た私は、落下のエネルギーを用いたこの技でベルセルクの首に無名の鉄剣を当てる。
「グギャャァァァァァァァ!!!」
ベルセルクの首が落ちる。ベルセルクの全身から力が抜けたようになり、そしてアナウンスが響く。
【プレイヤーネーム:アイン によって二つ名持ちモンスター、破刃のベルセルクが討伐されました】
「よっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
森に私の勝鬨をあげる声が響き渡った。
面白かったと思っていただければ高評価をしていただけると幸いです。




