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Eclipse Horizon ―電脳世界で女子高生が「死の戦乙女」と呼ばれるに至るまで―  作者: 野兎
第一章 青天の霹靂

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第三十六話 共鳴する心

 「……………ミリィ、あの人達って。」


 『大昔の人たちだよ。偉大で、尊敬され、そして忘れ去られた人たち。そしてアインたちの…』


 「そっか、そんなにすごい人たちが束になっても勝てないのが()なんだね。」


 『うん…』


 仲間との別れ、神への復讐心、そして後の時代に残そうとする気迫。そのどれもが私の心を揺さぶり、突き動かし、涙を流させる。ここがゲームの世界だからそれも作り物?いや、リアルさを追求し尽くしたこの世界はNPCと人間の違いなど微塵も感じられない。確かに生きていて、悲しければ泣き、嬉しければ笑い、致命傷を受ければ例外なく死んでしまう。

 昔の人間だってきっとそうだ。話から察するに大昔の調査隊は神を発見し、その後返り討ちにあった。その過程で感じる感情はきっと本物だ。じゃないとこんなにも心動かされるわけがない。


 神。私がおそらくであったことがあるのはジグルドだ。確立存在(オーダー)、雄猛たる天空、純白の羽、鷲。これだけ情報が集まれば馬鹿でもわかる。ジグルドが天帝だ。レポートを残してくれた調査隊を全滅させたのもジグルドだ。


 先日ジョーヌを襲ったノトスのドロップアイテムたちにも天帝という言葉があった。おそらくノトスの親玉はジグルドなのであろう。

 初めて二つ名持ち(ネームド)モンスターを倒したときに出会ったのもジグルド。何やら私との縁を感じてならない。いや、調査隊の決死の覚悟で残されたレポートを見てしまったのならもう戦う他ないだろう。残されていく悲しみ、ジグルドへの恨み。迫力あるレポートに感化されたのか、それとも隊長がジグルドを倒してほしいと私に働きかけているのかわからないが、心のなかでふつふつとジグルドを倒さなければという使命感が溢れてくる。


 私はNPCが好きだ。頭ではわかってもなおまるで本物の人間のように接してしまう。そして今まで悪いところを見たことがない。パン屋の店主が値段を釣り上げたり、子供に罵声を浴びせるNPCだったり、そんなものはいない。現実の人間はもっと泥臭く、狡猾で、口にも出せないようなことをやってくる。それと比べたらやっぱりNPCを好きに、守りたくなるのは当然だ。

 このままジグルドを放っておいたら多くのNPCが死ぬだろう。なんせ武装している調査隊すら半数以上を壊滅させた化物だ。武装していない一般NPCは大量に死んでしまう。それにNPCには蘇生機能がない。一度きりの存在でやり直しがきかない。それならジグルドの本意など知ったこっちゃない。私は私が好きな存在を守るためだけにジグルドを倒す。


 私のこのゲームでの目的が一つ決まった。NPCを害す存在を倒すことだ。手始めに神やら天帝やら言われて崇められているジグルドを叩きのめす。それこそが無惨に散っていった調査隊への手向けなのだから。



 『だ、大丈夫?アイン。なんか難しい顔して固まってるけど。』


 「…ううん、大丈夫。これからどうしていくか、この情報を知ったからにはどんな事を考えていただけだから。そして決めたよ、私は天帝ジグルドを討伐する。このレポートを読んだ責務として、そして探索者以外の儚い命を守るためにね。」


 『アイン…アインならそう言うと思ってたよ!それなら早くニョントス城に戻って武器を作ってもらわないとね。』


 「あ、忘れてた。そんな事もあったね。そういえばドワルニアの王様の腕をなくしたモンスターの討伐だったけど…あれってきっとガルガンチュアのことだよね?」


 『多分…そしてガルガンチュアもこの遺跡の停止に伴って活動を停止するはずだよ。アインがこの遺跡の最奥にたどり着いたからプロテクトが全部解除されたんだ。大昔から続くね。』


 ミリィがわざとらしくウィンクする。どうやらこの遺跡の守護者ガルガンチュアは大昔の調査隊の拠点として使われていたときからずっと守り続けていたらしい。追ってきた天帝を撃退するために置かれた存在。調査隊が決死の覚悟で天帝、ジグルドと外で戦ったあとに遺跡を残すために起動されたプロテクト。それでもジグルドにとって足止め程度にしかならないとレポートには書かれていた。


 討伐するのに1時間もかかったガルガンチュアを簡単に倒してしまうジグルド。今のままだと立ち向かえない。より強力な武器が必要だ。ステータスは現状足止め、スキル作成に必要なSPも枯渇している。今わかっている他に強くなる手段はないのだろうか?


 これからどう強くなろうと考えながらダンジョンの長い長い階段を駆け上がる。行きとは違ってシステムが復旧したのか光がついていて明るくなっている。夢中で駆け上がること5分ほど、何故か行きと同じ道を通ってきたのに外に出た。


 『くぅーっ、久しぶりのシャバの空気は美味しいね!』


 「そこまで言うほど長い時間入ってないでしょ。まぁ色々とあったしね。ガルガンチュアと戦って、昔の記録を見て…そしてこの世界の謎にちょっと触れた気がするよ。」


 そう、さっき見たレポートにはこの世界の、ゲームの謎が詰まっていた。今はまだ点として断片的な情報だがこれから先点と点がつながるように謎も解明していくはずだ。


 『そうだねー。この邪魔なプロテクトさえなければアインに全部言えるんだけどねぇ。まぁそうは問屋がおろさないって感じ?』


 「そうかもね。」


 空を見上げる。空にはいつもと変わらない星たちが煌めいていて、天高くには3つの月があった。なんで3つも月が?と思う気持ちを堪えながら満天の星空を眺める。


 『もう夜だねぇ。どうする?ここで野宿するか王都に戻るか。』


 「うーん、あ!確かミリィってテレポートできなかったっけ?」


 『それだ!できるよ、今すぐに王都まで戻れるよ!じゃ、じゃあ私と一緒に手を掴んで?』


 「こう?」


 ミリィの小さな手に触れる。いつも仮面にいる相棒は思っていた以上に小さく、力を込めたら折れてしまいそうな小枝のようだった。


 『イチ、ニ、サンでテレポートするからね?行くよ、1,2,3!!』


 足元に魔法陣が展開され光の柱が私の体に降り注ぐ。痛みなどは全く感じないが眩しさで目をやられてしまったのだろうか。目をうまく開けられない。


 「うぉっ!何もないところから人が!」


 「あれは手品なんじゃないか?手品師のねぇちゃん、手を降ってくれー!!」


 周りの喧騒がうるさい。目を開けてみるとそこはきれいな夜景に包まれた夜の王都だった。


 『おぉ、おぉぉぉ!!テレポートせいこ』


 「はい、それ以上はいっちゃいけないからねぇー。お口にチャックしてねー!」


 危うくテレポートと言いそうになったミリィの口を必死に抑える。周りにプレイヤーがいるかも知れないというのに不用心がすぎる。


 「前も言ったでしょ?他の人の前で軽々しく言っちゃいけないからね?」


 「はーい、わかったよアイン!」


 そこまで反省していなさそうなミリィを無理やり仮面に戻してピリカへと向かう。明日は朝早くに起きて王様に会って、その後武器も作ってもらって…大忙しだなぁ。


 だけどそうやって忙しさを楽しむのも良いものなのかもしれない。そう思ってピリカがある裏路地へと入っていく。

 



 


 

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