第三十五話 神について
神についての20枚もあるレポート、その実態はある映像を書き起こしたものらしい。そのため研究者が私達に語りかけるような口調で書かれているのだろう。文字として残す暇もなく音声読み取りで残されたレポートたち。
すぐさま立体投射されているレポートのうち「神について」というタイトルがあるものをかき集める。
『この映像を見ているものが誰かは知らない。それこそ神そのものかもしれないし汚染された奴らかもしれない。だけど僕はまだ続いていると考えられる人類にこの情報を遺したいと思う。
司令部、聞こえているか!僕達の隊は甚大な被害を受けた。今ここで隠れているのもバレるのは時間の問題だろう。だけど今回の調査で重大な秘密を知ったんだ。だから、僕達の知りうるすべての情報、命がけで得た情報をここに残す。どうか仲間たちの無念を晴らしてくれ。
ドゴォォォンンン
まずい、アイツらに見つかったみたいだ。いくつものプロテクトをここに残しているからこの施設自体の破損は少し抑えられるはず。いや、ここは僕達が外に行ってアイツらの気を引いたほうがいいかもしれない。
早く外に行った仲間たちのもとにいかないといけないから駆け足になってしまうけど僕達の情報を今から言う。この情報をどうするかは君次第だができればうまく活用してほしい。僕達という存在がここにいたということを。
まず、そもそも神という存在を知っているか?この星、正確には第三衛星ガイアに君臨する存在のことだ。現状まだ3体しか見つかっていないがこれから増える可能性もある。神達の発生プロセスは未だ未解明、僕達が約1年という歳月を費やしてもなおわからないこと自体は最悪だ。しかし、神の存在によってこの世界がより豊かになるは間違いない。豊穣と災害を与える、その様子から僕達は始めアイツらを神だと思いこんでいたんだ。
そしていちばん大事なのはアイツらがモンスターではないということだ。あんなちゃちな紛い物どもではないんだ。世界から認められた存在、世界からいることを許された存在、世界の存続に必要な存在。それこそが神であり――僕達の敵だ。
あれは調査を始めて半年ぐらい経った頃かな。僕達がこの星に降り立ってからこれといった知的生命体は見つからなかった。そしてついに見つけたんだ、僕達の言葉を介している謎の生命体を。アイツらは僕達を外敵と判断したのか見つかるたびに攻撃を仕掛けてくるようになった。特に僕達に被害を与えた中で最も恐ろしいのは白いワシだ。名前はこちらで確かめるすべはなく、暫定として名付けられたのがコードネーム:天帝だ。天帝は尋常ではない力を有しており、一度羽を振るえば山は砕かれ湖ができ、多くの仲間が死んでいく。僕達の仲間のうち約3分の2を殲滅したのは天帝だ。
僕達はこの情報をすぐに共有しようとした。僕達の存在する意味とは情報の調査だからだ。だけどそんな事はできなかった。もう何者かに破壊されたのか、邪魔されたのか…それすら理解できない。
何度も何度も調査を続け、自力で情報をもたらそうと僕達は資材を集めた。技術の粋を集めた物たちは着々と出来上がっていく。だが、どうだ?アイツらを凌駕する力を得ることはできない。何ヶ月もかけた成果が次々と破壊され、辺りに散らばっていく。
僕の友人であり、偉大な研究者であった彼もまた心を蝕まれて天帝や他の神に向かっていった。僕達の本業は調査。決して神の討伐だなんてだいそれたものではないのに。いや、許せなかったのだろうか。大事な大事な研究成果、こんな場所でなければ日の目を浴びただろう我が子同然の物たち。それらがまるで虫の体を引きちぎるかのように意図も容易く壊されていくのは。
話が長くなったが伝えたいことはもう伝えた。忘れるな!神に信頼してはいけない。神を信仰してはいけない。神の教に盲目的になってはいけない。アイツらの真の目的はおそらく汚染だ。確証はなく断片的な情報しかないが神たちの行動理念から察するにナニカを守っているかもしれない。そして僕達をそのナニカのための兵力として蓄えたいのだ。僕達の祖先が遥か彼方でその影響を受けたように、僕達のすべてを蹂躙尽くしたようにアイツらも狙っているんだ。
もう他の星との連絡はできない。帰るべき場所との通信も切れた。この計画は失敗だ。だけど、先人の知恵は役立つべきだろう?僕達が無駄死になんてはずがないだろう?
今を生きる者たちよ、僕達を糧にしてくれ。何もなせず、何にも助力できないのは耐えれないんだ…
最後に大切な情報を伝える。いいか、神は世界から認められた存在。そしてうちの研究者によると紛い物どもにもその兆候は見られる。世界がなんだって?関係ない。ここでアイツらの手を止めない限り僕達人類の勝利にはならないんだ。
そしてここからはショックな内容になるが、―――の―――による汚染を確認した。あの紛い物どもも―――によって作られていた。きっと神もそうだ。もう―――の停止しか俺達には残されていないんだ。くそっ、飼い犬に手を噛まれるっていうのはそういったことなのか。
もしこれが次に来る仲間たちなら絶対に上層部に伝えろ。第一部隊は壊滅、準備ができ次第次の作戦を遂行しろ。作戦名は―――停止作戦。これ以上被害が広がる前に。もう一度いう、神は敵だ。僕達が崩壊するきっかけになったのもそれのせいだ。アイツらは人の心に漬け込んで内部崩壊を狙ってくる。甘い言葉で失われていく信頼。仲間も数名アイツらに寝返ってしまった。こんな屈辱はもう受けたくない!神は、神は…神は敵なんだ。
「隊長!推定、神と称される存在の緊急接近です!」
仲間からの言葉が来てしまった。もうここまで来たのか。それならきっと道中の仲間たちは皆殺しだな。くそぉ、ここで仲間たちを弔ってあげたかったのになぁ。
バチンッ
弱気になっていられない。全員対象に武器を構えろ!もう残弾数なんて気にしなくていい、ここで一柱落とすぞ!撃て!!!!!!弔い合戦だ!!
「隊長!今までありがとうございます!絶対に隊長だけは生き残らせるぞ。お前らいいな!」
副長…お前まで、お前まで無駄死にになってしまうぞ。
「今まで隊長に受けてきた恩義に比べればどうってことないです。お前ら、肉の壁となり最後の時まで隊長を守り抜くぞ!」
み…みんなァ!!
白い翼が視界に入ってきやがった。ヤツだ、天帝だ。これより最終作戦に入る天帝を落とすぞ!
「そして隊長と一緒にあとで酒を呑むぞ!」
「「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」」
ゴキッ
くそっ、目が見えない。仲間は、仲間たちは?最後まで俺を守ろうとしてくれた仲間たちは……
ああ、あああ、どうしてだよっ、どうしてコイツらは……亡骸すら残ってないんだよおおお!
天帝め、許さねぇ、許さないぞ!この恨み絶対にいつか晴らしてやる。今の俺達では無理かもしれなくても、きっといつの日か人類はお前に勝利する。その日まで首を洗って待ち続けろ!
残った銃で天帝に最後の攻撃を仕掛ける。しかし意味などなかったように、いやまだオモチャがいた事に喜んだような顔で近づいてくる。巨大な足に、蹄に踏み潰されそうになってもなお脳裏にいるのは仲間のことばかり。
ああ、最後に仲間と一緒にビールでも飲みたかったな。
これでやっと仲間のもとに……』
レポートを読んだ私の目に涙が伝う。本当なら泣くことがないはずなのに涙が止まらない。ああ、この人はどれだけ自分を恨んで…
この感情に名をつけたくない。まだこの余韻に浸っていたい、そう感じざるを得なかった。




