第三十一話 頭上危険
白い髪を持った女のこと出会ってニョントス城を出た後、私はミリィからダンジョンの場所を教えてもらった。ミリィが言うには任務の行き先を大まかに知ることができるらしい。これも案内妖精であるがゆえあかと思う。
ミリィの言う通りニョントス城を出て北東にある森へと向かう。ドワルニアはほぼ円形の島国であり、真ん中に首都であり最大の都市であるドワルニア国王都、ドラルーンの周りに複数の地形が存在する。広大な湖であったり火山など、特に北東にはドワルニアの国土の約5分の1を占める巨大な森が広がっている。
森はところどころ手入れがされているのか入口部分のみきれいに整えられている。だが奥深くに行けば行くほど巨大な大木が行く手を阻んだりツタが複雑に絡まっていたりする。頭上に葉が生い茂り、暗くなったかのように錯覚する。
視界が悪くなって周囲の警戒が少し緩まる。ツタを南風の大剣で切りながら前に進む。ノトスの討伐報酬である南風の大剣はレーヴァテインと違って使用時間に限りがない。普段使いにぴったりな上装備としての能力もなかなか。ということで急を要する戦い以外は南風の大剣を使っていこうと思う。このゲームには武器の耐久力も存在するため慎重に使っていかないといけない。
『ねぇアイン、まだダンジョンにはつかないのー?』
「それはこっちのセリフ!ミリィがここらへんにあるからってきたのにっ全然ないじゃん。」
『それは具体的なダンジョンの場所も言わずに放って行かせた王様に言ってよ!』
「無理だって、現実でも早々あんな威厳のある人いないし。もしかしてダンジョンの位置ぐらい冒険者ギルドでわかったのかも?」
『それじゃん!なんでいかなかったんだよぅ?』
「なんかミリィがわかりますアピールしてきたからじゃん。」
『だって、だって最近出番少なかったんだもん――って上!』
ミリィの言葉に上を見上げる。フォレストモンキーが頭上から3体降ってくる。
以前の私なら慌てていただろう。だが、レベルアップを果たしている私ならこんな雑魚どもスキルを使うまでもない。南風の大剣を握りしめて力いっぱいに横に切り裂く。鋭さが自慢の大剣が2匹のフォレストモンキーを倒す。しかしすんでのところで上にジャンプして避けた1匹のフォレストモンキーがミリィを掴む。
「み、ミリィ!」
私は星祓いの妖面にミリィを戻そうとする。だが、
【対象者:ミリィの強制転送に失敗】
無慈悲なログが目の前に出てくる。
『ア…アイン……』
「その汚らしい手を離せ!!」
怒りで眼の前が真っ赤になる。スキル「傍若無人」、「天翔龍」を発動する。
グ、グルワァァ!
フォレストモンキーが右手に持っているナイフでミリィを突き刺そうとする。妖精であるミリィは精霊嵌合の影響で実体を持ってしまっている。肉体にダメージを負えばミリィに影響が出かねない。
一瞬隙を見せたのが間違いだったか、フォレストモンキーが尻尾で私に攻撃をしてくる。ゴツッとした音からして相当な威力だったのだろうが私は何も感じない。そうか、これが傍若無人の効果か。
ミリィが不安そうな顔をする。怒りと焦りで南風の大剣を手放し、拳を振り抜く。傍若無人の効果で破壊属性を得た右ストレートがフォレストモンキーの右手を破壊し尽くす。
右腕があり得ない方向に曲がり、骨が飛び出る。あまりに苦痛にフォレストモンキーの顔が歪む。
これ以上は身の危険と思ったのかミリィを掴む左腕で首を絞めようとする。
『た…助けて』
左腕を狙おうとするがうまく狙いが定まらない。クソッ!テキストメッセージにはなかったが傍若無人のデメリットは狙いが定まらなくなることだったのか。もしかしたらミリィに当たるかも…懸念が脳裏をかすめる。
「な、なにか…打開策は。」
首を絞められ苦しそうにするミリィ。狡猾なことをするフォレストミンキーに怒りが抑えられない。でもこれ以上我を忘れて粗雑な動きになることを避けないと。早く、早くミリィを助け出す!
落ちている大剣を見て1つの案を思いつく。迷っている時間などない、もう一度南風の大剣を握りしめ投擲する。
ギシャァァ
突然投げられた大剣に恐れをなし、ミリィで防ごうとする。だが、眼の前で南風の大剣が消える。ほんの一瞬の間でフォレストモンキーの後ろを取った私が手刀で横腹にぶつける。強化されたステータスの暴力がフォレストモンキーの体を消滅させる。ボキボキッと骨が折れ、砕ける音が聞こえてくる。
『ア、アイン…!!』
私の胸の中に飛び込んだミリィが大声で泣き始める。
『怖かった…怖かったよぉ!もしこのまま死んじゃったらどうなるんだろうって、もうアインと会えなくなっちゃうのかなぁって、そう思ったら悲しくて、虚しくて…』
「大丈夫だよミリィ。何があっても私が助け出してあげるから。たとえそれが地獄だろうとね。」
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁんんんん』
森の中にミリィの泣き声だけが響く。よしよし、と頭を撫でていくとミリィの機嫌が良くなっていく。3分ほど撫でていくうちにミリィは泣き止み、私に言う。
『じ、じゃあダンジョンのとこに行こっか!』
赤く腫れた目をこすりながら笑顔でそう言う。そんな意地っ張りで可愛いところが好きだ。
「そうだね、早く行こっか。」
自然と駆け足になる。油断しないように周りに気をつけながら前を行くミリィを追いかけ、ダンジョンへと向かう。
『というかアイン、あの眼の前で消えた大剣ってなんだったの?私本当に当たっちゃうんじゃないかって怖かったんだから。』
「ん?あれはねインベントリを使ったんだよ。」
『インベントリって言ったらあの探索者だけしか使えない無限の容量が入るやつ?』
「そう、実はインベントリに仕舞えるものって自分が触れていないものでも大丈夫なんだよ。多分最後に触れてから3秒ぐらい?その間はインベントリにしまうことができるから投げて、当たる寸前で消せるってわけ。」
『すっご!アイン頭いいね!』
「でしょ。あれ、あの先の建物ってもしかして…」
『うん間違いない!あれがダンジョンだよ!」
眼の前には白を基調とした神々しい、まるでパルテノン神殿のような建物があった。出入り口は一つの扉に閉ざされていて、開けると下に続く階段があった。
階段を降りると天井まで続く巨大な一つの絵画が描かれていた。
そこには竜巻と思わしきものと炎、そして津波が描かれていた。一方、その反対に描かれているのは何万もの武装した人々。自然現象を相手に武器を持って何がしたかったのだろうか。絵画にはひときわ大きく描かれている星の他にも4つ星があり、そこから離れたところに大きな船があった。帆を持っていてカリブ海にあるような船、まさしく宇宙船というべき船が宇宙に描かれていた。
そんな絵画に見とれているうちに何やら不穏な声が聞こえてきた。
『…………データベース上に記録されていない種を確認―――排除します。』
その音を皮切りに機械音がいたるところから聞こえてくる。歯車のチクタクチクタクといった音。音が急に止まったかと思ったら急に足場が消えた。
「ミリィ、戻って!」
『うん!』
もうさっきみたいなことにはさせない。ミリィを星祓いの妖面に戻し、膝で衝撃を吸収する。
「っと…これはちょっと規格外かも?」
下の地面に着地した私が見たのは、推定20mにも及ぶ超巨大なゴーレムだった。
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