第二十五話 守ったのは何気ない日常
【モンスター急襲 交易都市ジョーヌ防衛戦が終了しました】
このアナウンスは先程まで戦っていた敵の死を意味するものだった。今まで戦ってきた中でトップレベルの強さを誇るノトス(ほぼチートみたいなアダマンタートルを除いて)は私含め総勢300名のプレイヤーによって討伐された。主に私が戦っていたが、他のプレイヤーによる超過理力結界の破壊やノトスの分身体の足止めがなかったら今回の急襲でジョーヌの被害0%を達成することはできなかっただろう。
【モンスター急襲 成功報酬について】
探索者の皆様のお陰で亜神の力を持つ南風のノトスの撃退に成功しました。これにつきまして、探索者の皆様に成功報酬の分配を行わせていただきます。成功報酬は以下の5つです。
・急襲参加報酬
『参加者全員に40BP並びに40SPの配布』
・特異二つ名持ちモンスター 南風のノトス撃破報酬
『参加者全員に武器「南風シリーズ」より一つランダムで配布。譲渡可能』
・特異二つ名持ちモンスター 南風のノトス最終撃破報酬
『プレイヤー名「アイン」に南風及び難風のノトスのスキルルビー、天空の破片を配布。』
・特異二つ名持ちモンスター 南風のノトス戦 MVP報酬
『プレイヤー名「アイン」に防具「四風の守護」の配布。譲渡不可』
・交易都市ジョーヌ破損率0%達成報酬
『参加者全員に60BP並びに60SPの配布』
今回のレイドにおける成功報酬の分配を告げるアナウンスが来た。そのうち2つが私あての物なので疎まれないか心配したが、幸いにも周りのプレイヤーたちは温かい目で見守ってくれていた。
「すごいね、アインは。思っていた以上の活躍をしてくれてありがとう。」
ケインが私に向かって礼をする。その姿を見て少し誇らしかったが思いとどまる。確かに私は今回のMVPであり今ここにいるプレイヤーよりも強いのは間違いない。だがそれは偶然の結果でありもし一番最初に破刃のベルセルクに遭遇していなければあり得なかった世界線でもある。そのため私は今の現状を見て威張る気にはなれない。
「ううん、きっとケインたちももっと強くなれるよ。だからまたいつか一緒に戦おう!」
「うん。そうだね。僕達ももっともっと強くならないと…あっ!」
ふと周りを見ると好奇心に目を輝かせたプレイヤーが私を取り囲んでいる。きっと「どうやってここまで強くなったんですか?」や「一緒にプレイしませんか」と聞かれるであろう。生憎私に多くの人をさばく力はないため天翔龍を発動して一足先にジョーヌへと帰還する。
『すごいよ、アイン!まさか特異二つ名持ちを倒しちゃうだなんて!』
「まあね、やっぱりドルヴェラクさんにもらったレーヴァテインの力もあるけどね。というか特異二つ名持ちって何なの?」
私は戦闘中ずっと気になっていたことを聞いてみた。特異二つ名持ちは他の二つ名持ちとは何が違うのか、どのような点で特異だと言われているのか。もともと案内妖精であったミリィならわかるであろう。
『特異二つ名持ちの正体か…それは私達の忌々しい歴史を語らないといけないんだけど、今言えるのは彼らは《第一級秘匿事項》によって存在が認められつつあり《第一級秘匿事項》に近づくことで《第二級秘匿事項》を授かりつつあるもののことだね。でも、南風のノトスが《第二級秘匿事項》を使わなかったことから彼はまだ生まれて間もないんじゃないのかな?』
「ふーん、そうなんだぁ…」
多分ミリィは無意識なのだろうがシステム側からの干渉を受けていちばん大事なところが聞き取れなかった。言うなれば一瞬ノイズが走るような、世界がブレるようなそんな感じのもので…
まぁ今の私じゃ理解できない話だからノイズが走るのだろう。もしかしたら昔の言語で作られた言葉でプレイヤーがいまだ理解できていない言語だからっていう内容は大いにある。謎をとき始めるのはそこからで遅くはないだろう。
「おい、嬢ちゃん!!」
ドルヴェラクさんが私を見つけると一目散に走ってきてくれる。話を聞くと突然轟音が響いたかと思ったら怪しい光に森が包まれていて大量の人間が一気にジョーヌから現れたため私がいないか探してくれたらしい。探しても探してもいなくてやっと今帰ってきたため思わず駆け寄ったらしい。
「ドルヴェラクさん、あなたの剣はナマクラなんかじゃなくてどんな硬いものも切り裂ける名刀です。何度助けられたことかわかりません。」
「いつまでも工房の隅で誇りをかぶってたこいつがよぅ。これは俺が作った中でも一、二を争うぐらい尖ってるから使い手が長いこと現れなかったんだ。こいつもやっと自分を振るに足るご主人を見つけたってことで喜んでるぞ。」
ドルヴェラクは私にそう言いながら剣を託す。剣が光を放ち始め、まるで何かと呼応するかのように点滅を繰り返す。
「こいつは…やっとこいつも、妖精大剣レーヴァテインもお前さんを認めたみたいだな。この光は共鳴光って言って使用者を選別する武器が相手を認めたときに放つ光なんだ。これで嬢ちゃんも真の意味でのレーヴァテインの相棒だな。」
『ちーっがーう!!アインの相棒は私なんだから!こんなどこぞの馬の骨かわからないやつを相棒だなんて100年は早いね!』
ミリィが仮面から出てきて抗議をする。久しぶりに見たミリィの姿にドルヴェラクが少し驚愕の顔をしながらもコソコソと話し出す。
「妖精さんならわかると思うがこいつは妖精核をはめ込んで使うんだ。今のお前さんじゃまだレーヴァテインの力を引き出せないがこれから先もっと存在を高めていけばいつかレーヴァテインを変形させることもできるようになるぞ。」
『え?マジ!じゃあ私も早く強くならないと。』
ボクシングの構えをしているミリィとちらっと目線で会話をしてくるドルヴェラク。「うまいように話を合わせたぜ」っていう雰囲気だな。ちょっとムカつくがすねたときのミリィのご機嫌を取るのはなかなか大変だ。
「それより!あんな事はあったけど明日のドワルニア行きはどーなったの?」
「ああ、お嬢ちゃんたちのお陰でジョーヌへの被害はなかったしな。予定通りドワルニアに行けるみたいだ。ほら見てみろ、これがチケットだぞ。」
ドルヴェラクが見せてきたのは飛行船とドワーフのマークが描かれた二枚のチケット、これがどうやら飛行船のチケットらしい。これらの代金はすべてドルヴェラクに出してもらっているがアダマンタートルの甲羅を一つ上げているのだから関係ないだろう。
「じゃあ明日に備えて今日はもう宿に泊まろっか。」
『さんせー!!』
「ドルヴェラクさん、私達の宿はどこですか?」
「お嬢ちゃんたちの宿はな一応安全なところを選んだぜ。というか急に人が増えたからな。早めに取っておいて正解だったぜ。」
気の利いたドルヴェラクが取ってくれていた宿に向かって走り出す。
ふと周りを見ると元気そうに喋る子供やその子供を見守る母親、元気そうに商品を売る男性とその手伝いをする子供などが多くいた。たとえゲームの世界だったとしてもこの温かな光景を守ることが本当に良かったと思う。これでもしノトスの攻撃がジョーヌに当たっていたら…そんな事を考えながら宿に入る。
フッカフカのベッドにうずくまりながら目を閉じる。改めて今回の戦いでこのゲームの異常な作り込みを感じた。ひとりひとりに意思があるかのようなNPCでプレイヤーの情を集めたうえでたった一つの判断で全てを無に帰す可能性も孕んでいる攻撃。ここまでリアリティを追求する必要があるのか?それとも他の意図が…
そこまで考えて私の意識は途絶え、泥のように眠った。




