第二十四話 ジョーヌ防衛戦 其の四
ドォォォォォォォンンン!!!
私達が超過理力結界を破壊した瞬間壊れた核が膨大なエネルギーを抑えきれずに暴発していく。流石にジョーヌに撃ち込もうとしていたほどの火力ではないにしろ至近距離で受けるのはまずい。
あぁ、死んだなぁ。意外とまだ死んでいないこと誇りだったんだけどなぁ。
眼の前に紫色の光が迫っていく。先に光に飲み込まれていったプレイヤーたちの姿はもう見えない。10分間もの間蓄えられていたエネルギーに飲み込まれようとしたその時だった。
「早く逃げろ!!アイン!」
全身装備の男が私を後ろに突き飛ばす。あの姿はくず鉄さん?タンクとしての役割で私を守ろうとしてくれたのか。でも、この程度じゃ助かる見込みなんて…
「みんな、アインを後ろに運んでくれ!こいつがいないとこの戦い負けるぞ!!」
「任せてくれ!」
「ここまで見せ場なんてなかったしな、ここいらで目立つとしますか!」
「おう!」
次々とプレイヤーたちに担がれて後ろに投げられていく。もともと通常の人間よりも圧倒的なステータスを持つプレイヤーはすごい速さで迫りくるエネルギーの奔流よりも早く私を後ろにしていく。
「いっけぇぇ!!」
一人の大柄な男が私を思いっきり後ろに投げる。そして私も光に包まれダメージを受ける。が、他のプレイヤーたちのお陰で体力が8割ほど削られるだけで大丈夫だった。いや、これを無事と言っていいのかわからないが初めにいた中心部分からおよそ150mほど離れたここであってもこれだけのダメージを受けるのだ。きっと中心部分にいた人たちの多くは死んでいることだろう。
「みんなー!生きてるやつはいるか?」
他に生存したプレイヤーがいないか声をかけてみる。まばらだったが少し声が聞こえた。でも誰一人として立ち上がらないことからまともに継戦するのは困難だろう。
『お前らの、お前らのせいで!!!我の崇高な目的、主様からの勅命に答えられなかったではないか!!これは万死に値する!先程の暴走で我も少なからずダメージを負ったが全身全霊をかけてお前らを肉の髄まで破壊し尽くしてやる!!』
ノトスに纏っていた風の防護は消え去り、元あった気風のある純白の姿はもうない。怒りに身を任せ暴虐の限りをし尽くさんとばかりする漆黒の一匹の獅子がそこにいた。
【特異二つ名持ちモンスター 難風のノトス と遭遇しました】
ノトスの名前が少し変わっている。南風から難風、存在ごと変わっているに違いない。そして何より注目するべきは特異二つ名持ちモンスターであるということ。一番最初に遭遇したときも書かれていたがノトスは二つ名持ちであるということ。
最初のときはその事に気づかなかったが今ならわかる。執行人の職業スキルが使えるということ。また存在自体が変わっているためおそらく断罪執行の条件である戦闘開始時のみ発動可能ということも達成できる。
もしかしたら他のプレイヤーたちが戦線に帰ってくるまで持ちこたえることができるかもしれない。
「断罪執行!!」
ズンッ
このスキルを掛ける相手が強大であるからだろう。私のステータスをありえないほど上昇しそしてノトスの動きは目に見えて遅くなった。
『この力は…我の能力を封じ込めるなどあってはならない!このまま闇に葬り去ってやろう!』
ノトスが前足で私を切り裂こうとする。今まで魔法ばかり使っていたノトスからは想像できないほどのスピード。やはり始まる前にステータスを上げていて良かったな。
「居合・紅蓮抜刀!」
私の居合が的確にノトスの体を狙う。確実に当たるであろうと考えていたがノトスが寸前で体をずらす。
『思考加速』
目に見えてノトスの動きの精度が良くなる。今まで細かな攻撃を受けていたノトスが完璧に攻撃を避けるようになる。右足を狙えば左足で弾き飛ばし、目を狙えば高く跳躍する。先程呟いた思考加速の恩恵だろうか。
残りゲージは30%、ここいらで決めにかかる。
「紅蓮・灰燼貫!」
今まで一度も鞘に戻していない紅蓮刃・朱雀を鞘に納める。鞘から不死鳥を思わせるような形の炎が出てきて私の体を纏う。全身の血が沸騰するように熱い、だが血の巡りが格段に良くなり今まで以上の動きができそうだ。
『更に早くなるのか!!』
天翔龍を発動、紅蓮刃・朱雀を握りノトスの頭まで高く跳躍する。紅蓮・灰燼貫に加えて今まで温存していた天翔龍の発動、これによって圧倒的な機動力を得る。
「まるで彗星みたい…」
「やべぇ、一本の光にしか見えねぇ!」
天翔龍の利点というのはなんといっても空中に擬似的な足場を再現できる点だろう。それによってただ早いだけじゃない微細な動きも可能となり、翻弄することができる。
灰燼貫によって強化されたSTRを持ってしてもゲージ技以外ではかすり傷程度しか効果がない。しかし、残るゲージは25%、そうやすやすと使えるようなものではない。
『舐め腐ったお主を殺してやる!屈折迷彩。』
徐々にノトスの体が見えなくなり、完全に背景と一体化してしまった。名前からして透明になるものなのだろうがいかんせん相手も圧倒的なスピードを持つため死角からの攻撃を受けやすくなるこれはマズイ。
グシュッ!!
後ろから現れたノトスの攻撃を間一髪で避ける。あと少しでも遅れていたらあの巨大な口に噛み潰されていただろう。早く手を打たなくては。
「誰か!水魔法を使える方はいませんか!今ノトスの姿が見えなくなっているのでここ一帯に雨を降らしてください!」
あたりにいるまだ生きているプレイヤーに助けを求める。雨で濡れているなら少しは姿が見やすくなるに違いない。
私の言葉を聞いて残り少ないマナを使って水を生成していくプレイヤーたち。そしてついに雨を降らすことに成功した。
『クソッ、クソォォォォ!!』
姿を視認されたノトスに向かって焔閃・紅羽を放つ。幾重にも重ねられたバフによって攻撃力を増した飛剣はノトスの足の一つを切り裂いた。
『神の御業』
くそっ、まだ回復魔法を使えたのか。これまでの戦闘で私のHPは残り1割を切っている。しかしここにいる誰も回復魔法を使うことはできない。やはりここは一撃で仕留めなければ。
一か八か、このスキルを使うしかないか。
「処刑宣告!」
STR・MP・VIT・AGIのうちどれかが2倍になるこのスキル、博打要素が強いがこのスキルの本質は今までのバフ込みのステータスで倍にするという点だ。つまり、ここでSTRかAGIのどちらかを引くことができればこの勝負で勝てる。
少しはねてみても違いはない、だが道端に落ちている石を握ってみるとグシャッと潰れた。ビンゴ!STRを引き当てたらしい。このスキルを使った以上残された時間はそう長くない。
ノトスの動きをよーく観察しながら最後の一太刀を入れる隙を狙う。倍になったSTRのお陰で装備スキルを用いなくても攻撃が通るようになった。
『何なんだ、この力は!』
ノトスが足を曲げ私に全速力で向かっていく。口を大きく開け、獰猛な牙がうかがえる。今までと比じゃない速度で向かうノトスに対し、
「星の位相」
当たり判定を一瞬なくすスキルを使用した。
『何っ!』
渾身の一撃が通用しなかったノトスが驚きの声を上げる。ようやく隙を見せてくれたな。
紅蓮刃・朱雀の装備スキルのうち最も消費するゲージが多く、正に奥義というにふさわしい攻撃。それは発動時のHPを参照して少なければ少ないほど速度がさらに加算されていくもの。そして今の私のHPは残りわずか。
紅蓮刃・朱雀を握りノトスの首を睨みつける。絶対に外さないように的確に急所を狙う。
「緋刀・暁ノ一閃!!!!」
神速の居合が過剰とも思えるバフを乗っけて光速に至る。首を完璧に切り落とされたノトスが呟く。
『つ、つ………お、お前ら……いで。』
ノトスの体が塵となっていく。そして戦場全体にアナウンスが響き渡る。
【特異二つ名持ちモンスター 南風及び難風のノトスが撃破されました】
【モンスター急襲 交易都市ジョーヌ防衛戦が終了しました。
今回の急襲におけるジョーヌの被害は0%でした。】
「「「「よっしゃぁぁぁ!!!!」」」」
こうして初めてのモンスター急襲の幕が閉じた。




