第二十一話 ジョーヌ防衛戦 其の一
突如としてソルジェ樹海から現れた純白の獅子、南風のノトスの情報をできる限り集めてみる。全長15mにも及ぶ巨体からしてSTRは高いはず。なんせ巨体というのはその分のおもりをつけていることと同じであるため動くためにはSTRとAGIが必要。
おそらく南風のノトスという名前からしてこいつと同じ格の存在がこいつ含めて4体はいるはずだ。つまり、こいつは確立存在であるジグルドに比べて少し劣る強さを持つはずだ。ゲーム的に言えば四天王みたいな感じか?
『ここに我らの主が警戒すべきといった個体がいるらしいが、知るものはいないか?』
急に頭に声が響きはじめる。まるで脳に直で情報を入れられているような、音声として聞こえてはいないはずなのにくっきりと意味がわかる謎の状態だ。
「お、お前らの主とは一体何なんだ!」
先程までリーダーをしていたケインがそう問う。ちなみにケイン率いるプレイヤー集団は彼を含めて6人いて、純魔法使いの「髭爺」、回復職の「アリア」、タンクの「くず鉄さん」、弓矢使いの「たくみ」、AGI重視アタッカーの「goki」、そしてパワー系アタッカーの「ケイン」となっているらしい。随分とバランスが取れたチームとなっているが彼ら自身の強さをまだ見ていないのでなんとも言えない状態だ。幸いにも私はこの中で最もレベルが高いのでダメージディーラーの要となっている。
『我らの主か、ハンッ、お前ら矮小なものどもに語る名など存在しない。我を退けることができ力を示すことができれば謁見することもできるかもしれないが……ここにいる者の中でそんな事ができそうなものは一人ぐらいしかおらぬな。』
「くそっ、アインさんしか適正レベルに達していないということか。この急襲は少し難度が高いのかもしれない。」
なるほど、この言い方に納得がいった。確かにゲームの中のモンスターがいちいち適正レベルに達しているかなどを直接は伝えてこない。というか伝えてしまったらゲームとしての没入感が台無しとなってしまう。そういうことで一部モンスターの会話にそれとなく情報を隠しているのであろう。たまに妙な言い回しをするなと思ったのは世界観を崩さないためか。
とにかくこの中で攻撃が届きうる可能性があるのが私だということには変わりない。みんなの前に立って一本の剣をノトスに向ける。
「ご指名いただいた通り私アインがこの獅子に攻撃を仕掛けます。皆さんは私に続いて援護などをお願いします!」
そう言うと私は手のひらの中にある一本の剣を握る。
実はこのモンスター急襲が始まる前に一本の剣をドルヴェラクに渡されたのだ。
「これからお嬢ちゃんはモンスター急襲ってんのに行くんだろ?それなら今まで以上にいい武器が必要になるはずだ。そんじょそこらにあるような鋼鉄の剣じゃやっこさんの体を切り裂くには至らないだろう。だから、この剣をお前にやる。こいつは俺の手で作ってみたはいいがうまく使いこなせるやつがいねぇってことでホコリをかぶってたもんだ。だけどよぉ、お嬢ちゃんの顔を見てるとお前ならこの剣を使いこなせると思ったんだよ。だから、お嬢ちゃんはこの剣でやっこさんを倒してくれやしないか?」
そう手渡されたのは一本の大剣。闇をも飲み込んでしまうんじゃないかと感じるほどの黒色の刀身。持ちてのところには一つのくぼみがあり大剣全体からオーラが立ち上っている。
名前は「妖精大剣レーヴァテイン」といい使用条件はただ一つ。妖精と意思疎通ができるかというものだった。試しに使おうとしてみると素の状態ではナマクラも同然でゴブリンすらも切ることができないが、妖精自身を圧縮し核として持ちてのくぼみのところにはめることで特殊効果を得られるらしい。
私は称号の効果で妖精などとの意思疎通が可能となっているため使いこなせるはずだ。今はミリィに核となってもらっているがミリィだとレーヴァテインに付随する特殊効果を得ることはできない。なにやらミリィたち案内妖精と呼ばれる存在は一般的な妖精とは違うらしい。
「なんだ?あの大剣は?」
「あんな華奢な体なのに軽々と持ってるぞ?」
「あれなら攻撃も通りそうだねぇ。」
「すごっ。」
「アインさん!気をつけてください、敵は強大です!」
後ろでケインたちが私のことを話している。周りから尊敬されるのも悪くないかもな。
『塵芥どもがいくら武器を持とうと無駄…我の防護を敗れるものなどいないッ!風纏。』
その瞬間どこからともなく風が吹きノトスの体の周りに集まる。あの技は文字通り風を纏い防具とする技らしい。この技でわかったことは2つ。1つ目は風に阻まれて攻撃が通りづらくなったということ。ノトスの巨体の近くに行けば行くほど風の強さは強くなるためまともに動くことが難しくなりそうだ。
2つ目は私が使っている防具「風纏の獅子」の説明にあった存在がノトスであるということだ。ヨルムンガルド周辺にのみ現れるという獅子、風を纏う姿から見てこれは間違いがない。
『恐れをなしたか!ならばこちらからいかせてもらうぞ、まずは小手調べに『風弾』。」
不可視の魔法がこちらに向かう。当たる寸前で真上に飛んだが、避けた先にある木が折れた。おそらく私に直撃すればHPが7割ほど削られてしまうはずだ。
「それならこちらも!我求めるは炎、ファイアーアロー。」
髭爺がノトスに向かって炎の玉の10連撃を繰り出す。だが、
「き、消えた?」
『そんなちゃちなものなど我には効かぬわ。』
「お、おかしいぞ。風魔法への有効打は炎魔法のはずなのに。なのになぜいとも容易く抵抗されるんだ?」
思うように攻撃が決まらず髭爺が混乱する。あの様子を見るに中身は年頃の男の子なのだろうか。
「いったん物理で殴ってみよう!gokiさん、連携だ!」
「おう、ケイン!お前は右から回れよ?」
ケインとgokiが両側から攻撃を仕掛ける。
「「はぁぁぁぁ!!!」」
ガキンッ!
しかし風の鎧によって簡単に防がれてしまう。体の近くなどは暴風が吹き荒れているようで狙いが定まらないどころか斬りつけるこちらの剣がダメージを受けるほどだ。
「かってぇぇなこいつ!」
「これは物理も効かないのかもしれない!」
ケインたちの攻撃が防がれたのを見た限り物理無効などという理不尽なものではないと思う。そのことを確認して妖精大剣レーヴァテインを頭上に掲げる。
たしか風に相性がいいのは炎だったけ。
「炎の妖精よ、我が大剣レーヴァテインに集まり力を行使せよ!」
そう叫ぶと周囲から温かい気のようなものが集まっていき一つの核となった。
「これが妖精核……これをここにはめるのか。」
妖精核をレーヴァテインにはめると闇よりも深いと思っていた刀身がみるみる明るく、紅色に色づいていく。それに加えて刀身の形自体も変形していき細長く片側にしか刃がない日本刀に変貌した。
「これがレーヴァテインの特殊形態…いうならば紅蓮刃・朱雀ってかんじかな?」
日本刀の形をした炎の剣。我ながらいいネーミングセンスだと思う。
「なんだ?急に剣の形が変わったぞ!」
「炎の剣、いやあれは日本刀か。」
「かっこいいなぁ。」
口々に感想を言い始めるケインたち。まったく戦闘中なんだからもう少し集中してほしいと思いつつ誇らしかった。
紅蓮刃・朱雀を装備したときに増えた新しい装備スキルを確認。ノトスの方向を向きながら深くしゃがむ。
「居合・紅蓮抜刀」
刹那、ノトスの前足、その片方がポトリと落ちた。




