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Eclipse Horizon ―電脳世界で女子高生が「死の戦乙女」と呼ばれるに至るまで―  作者: 野兎
第一章 青天の霹靂

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第十九話 お荷物な者でも大切にすべし

 『いやぁ大漁大漁。まさか30体もワイルドボアを倒せるとはね。アインも強くなったんじゃない?』


 「そうなのかも。なんというか体が動きやすくなった感じかな?」


 体感としては細かな動きができたり、脳の中で並列思考が少しできるようになったりとVRゲームならではのことが以前よりもやりやすくなった気がする。今までVRゲーム、ことフルダイブのゲームに至っては全くと言っていいほど触れてこなかった。つまるところこの短時間のうちに私の脳のなかでのフルダイブをする分野が発達してきているのかもしれない。

 まぁ、今までも剣道というある意味命の取り合いのようなものを続けていたということも要因かもしれないけど。


 『合わせてスキルルビー30個にSPが30もゲット!これなら良いスキルも作れるんじゃない?』


 「まぁまぁ、スキルのことはまた後でのお楽しみってことにしとこうよ。それより聞きたいことがあってさ。私がもっと強くなってもゴブリンから1SPもらえるのかな?」


 『うーん、個体にもよるけどね。例えばレベル1のゴブリンをレベル15のアインが倒したら当然SPはほんの少ししかもらえない。画面上には記載されないくらい少しのね。だからゴブリン1000体でようやく1SPとかで効率はめちゃ悪いよ。だけど他のモンスター、たとえばスキルとかが強力でレベルが低いモンスターならSPはもらえるよ。』


 「っていうことは、倒すのが難しいモンスターならSPがもらえるってこと?」


 『そういうこと!世の中ステータスだけじゃ測れないことばっかだしね。だからアインもレベルを過信しないこと!』


 「はーい、わかってるよん。」


 雑談をしているうちに日が暮れていく。そしてヨルムンガルドの城壁が見えてくる。ゲーム開始から3日間、いわゆる初心者プレイヤーとはかけ離れた生活をしていた私はついに明日この街を出る。最序盤の街としてふさわしい光景を眺めながら黄金の三日月へと向かう。実は黄金の三日月はヨルムンガルドのメインストリートのそばにある大きな宿である。宿自体は高価だがその価格に見合った便利性と清潔感、そして防犯性。本来はプレイヤー以外のNPCたちが利用する宿なのだ。

 そんな黄金の三日月のカウンターに向かう。


 「女将さん、話したいことがあるんだけど。」


 「ん、なんだい?そういえばお嬢ちゃんは4日前からウチの宿を使い続けてくれたねぇ。もう立派な常連さんだね。」


 「そうですね。なんですけど、私明日からまた旅に出ることにするんです。今まで本当にありがとうございました。」


 「ううん、いいのよ。またもしヨルムンガルドに戻ってきたらまたウチに、黄金の三日月に来てね。」


 「はいっ、そうします!」


 女将さんとの会話が終わると私はすぐにベッドへと向かう。流石に6時間も戦いっぱなしなのは体が疲れる。いやフルダイブしている状態なのだから脳が疲弊しているのか?

 どちらにせよ休息が必要なのは変わりないのでベッドにダイブする。


 「うーんっ、気持ちいいなぁ。これから長旅でこんな良いベッドないんだろうな。」


 『ねぇー!安心安全でふかふかのベッドってだけですごいよね。でもこれから行くドワルニアも楽しみだなぁ。』


 「それより先にジョーヌだよ。さすがにヨルムンガルドほどの大きさはないだろうけどなんせ次の街だもん。明日が楽しみだよ。」


 ミリィとベッドに寝転びながら次に行く街に期待しながら話をする。友達と喋りながら眠る、まるで修学旅行みたいだなと感じながら眠りにつく。

 明日は早めに起きて食材を買って、その後ドルヴェラクさんと会ってジョーヌまで行って……

 


 朝目が覚めて時間を確認すると朝10時。ドルヴェラクとの集合時間が朝10時であるあることを考えると寝坊だ。


 「やばいやばい、寝過ごしちゃった。ほらミリィも起きて!」


 『うん?むにゃむにゃ、こんなにはいっぱい食べれないよぅ…』


 「ミリィ!早く起きなさい。もう遅刻だよ。」


 『うーん、え!?もう朝10時?間に合わないじゃん!』

 

 「だから急ぐんだよ!」


 ミリィをおいて急いで宿を出る。大通りにはもう店が開店しており道すがら旅のための食料を買う。獣肉に野菜、塩コショウなど様々なものを。ちなみにこのゲームでは調理システムというものが使われていて最新の味覚エンジンを搭載したこのゲームならではのもので、ゲーム内で調理した食べ物を本当に食べているかのように感じることができるのだ。しかし、そのままだと現実の方で実際に食事を摂る人が少なくなってしまうためゲームのログアウト時に調理システムを利用したかのログが参照され、利用した人には食欲を増幅させるナニカが施されるらしい(他プレイヤーから聞いた)。また、調理システムに付随して空腹度という隠しステータスもあるようで、長時間何も食事を取らないと飢餓状態になってしまい全ステータス低下と20秒に1HP減ってしまうようになるらしい。

 つまりこのゲームでは食事というものが思いの外大事になっているということだ。


 『あれ?見ない間にすごい量の食材買ってない?大丈夫、持てそう?』


 後ろから追いかけていたミリィが合流したようだ。息を切らせながらこちらを見てつぶやく。


 「インベントリに突っ込めるしね。それよりドルヴェラクさんのもとに行こう。」


 町中を走り続けて早10分、どうにかこうにかドルヴェラクさんと合流ができた。しかし合流したときのドルヴェラクさんはこころなしか少し不機嫌になっておりなだめるのが大変だった。そのためドワルニアに連れて行ってくれるお礼としてアダマンタートルの甲羅を一つあげることでようやく機嫌を直してくれた。


 「よし、これから1日でジョーヌに向かう。とりあえずアルメリア平原を西に突っ切ってモス湖を超え、ソルジェの樹海を超えた先がジョーヌだ。道中の戦闘はお嬢ちゃんに任せる。それでいいか?」


 【個人任務(ユア・ストーリー) 鍛冶師ドルヴェラクのドワルニアへの帰還 を受注しました】


 「うん、了解!」


 知らぬ間にユア・ストーリーを初めて受けることとなっていたが元から成り行きに身を任せるタイプだしなんとかなるだろう。それよりユア・ストーリーが開始するほどドルヴェラクトの中も深まっていたことに驚きだった。

 

 はじめにドルヴェラクの指示に従ってモス湖に向かうことにした。モス湖とはあの忌々しきアダマンタートルの群生地であり直径早く5kmにもなる巨大な湖だ。大昔の火山活動によって作られたものとも巨大なドラゴンの戦闘の痕跡とも呼ばれるようだ。戦闘のあとだとしたら大きすぎだけどね。

 このモス湖に至るまでの道中のアルメリア平原には主にワイルドボアとシルバーウルフが出るらしい。見るからに弱そうなドルヴェラクを狙ってくるモンスターをドルヴェラクに影響が出ないように慎重に切り刻んでいく。右や左、時には集団で囲ってくるモンスターたち、まるでNPCにつられているかのように襲っているようで舌打ちをつきたくなる。

 

 このゲームではNPCは一度死んだらそれっきり、リスポーン機能など搭載されているわけがない。まだ私は死んだことがないのでわからないがおそらくプレイヤーは死んだとしても何事もなかったように生き返るに違いない。ということで死なせてはならないNPCのみを執拗に狙ってくるモンスターたちに苛立ちが募るのも必然。

 なにより後ろにドルヴェラクがいることで攻撃範囲が狭くなることがとても大変だ。これは一人でやるもんじゃないな。少なくとも後ろに目が付いてるやつじゃないとまともにできないだろう。

 改めて護衛任務の難しさを知った日だった。

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