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Eclipse Horizon ―電脳世界で女子高生が「死の戦乙女」と呼ばれるに至るまで―  作者: 野兎
第一章 青天の霹靂

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第十二話 相対する黄金の狼 其の二

 急所に攻撃を与えられたイプシオンがその痛みに耐えきれられずに思わずうめき声を出す。やはり、イプシオンにとってもお腹が急所であることは変わりないようだ。おそらくお腹の毛のみイプシオンの二つ名である「剛」と「柔」の要素を引き継いでおらず、物理攻撃が効く場所なのだろう。攻略の手かがりがわかった以上お腹を狙って攻撃をする他ない。


 イプシオンは先程のようにお腹を狙われることを嫌がって前足をキュッと締めて警戒している。さすがに鋼鉄以上の硬さを誇り、すべての攻撃を受け流すイプシオンの体毛を前にしては足を切り落とすなんてことは不可能。どうにかしてあの防御を壊さなければ…ちょっと待てよ、必ずしも足を切ったりする必要はない。目的が相手を転ばせることであるならば、剣を使わずしても可能なんじゃないか?

 

 私は鉄剣をインベントリに仕舞い、素手でイプシオンに挑みかかる。イプシオンは未だ警戒態勢、先程のように氷で攻撃してこないということは魔法は先程の黄金の毛並みのときにしか使えないのではないか。つまり、今の状態ではイプシオンに取れる攻撃はない。チャンスだな。私はイプシオンの背後に忍び寄り足をイプシオンの後ろ足に掛け、思いっきり手前に引いた。それと同時に身体全体を使ってイプシオンの体に掴みかかり体勢を崩させる。つまり私はイプシオン相手に柔道を仕掛けたのだ。日本で培われた相手の体勢を崩すことに特化した技術でイプシオンの急所を狙う。しかし相手はびくともしない。ここで気づく、イプシオンが四足歩行の狼であるということを。柔道とは二足歩行の人類に向けて作られた技術、それであるがゆえに一本の足を崩すことで全体のバランスを崩すことができる。しかし四足歩行ならどうだ?転ばないに決まっている。なぜなら他の3本の足がぎっしりと地面を踏みしめているからだ。


 ボンッッ


 イプシオンの尻尾が真横から迫り、私の体を弾き飛ばす。


 「その尻尾、飾りじゃなかったのね…」


 そう簡単に急所は見せないし、隙も与えないということか。急所を突くためには体勢を崩すか足をちょん切るしかない。しかし今までの試行でどちらも難しいということに気づかされた。もう打つ手無しか。いや、柔道のように足を掛けて引いたときには力が受け流されるような感覚は感じなかった。つまり、銀色の毛は範囲攻撃や打撃を受け流すことはできないのだろうか?


 インベントリから以前拾ったゴブリンの手斧を持ち出す。最低品質であってもまだ耐久力はそこそこあるということを確認し、イプシオンの前足を斧で打ち付ける。何度も何度も何度も何度も打ち付けるとついにゴブリンの手斧が完璧に破損し消失していく。しかし、確実にイプシオンの前足はダメージを受けている。そのまま私は拳を握りしめて打撃を与えていく。一応STRは50を超えているためダメージを与えることはできているようだ。途中、尻尾で私のことを迎撃しようとしてきたが剣を持ち出して受け流す。そして数十回は殴ったときであろうか、不意にイプシオンの前足の半分が塵となって崩れていく。


 「ギャ、ギャオォォォォォォォンンンン!!!」


 あまりの痛みにイプシオンも声を上げるが、痛いのはこっちも同じで右腕はもう血だらけだ。しかし、こうなったらあとはお腹の急所を的確に攻撃していくだけ。今まで右前足があったであろう場所から剣でお腹を突き、剣を握り締めて真上に振り上げる。5回ほど繰り返したあたりでイプシオンのお腹から血が溢れ出てきた。やっと倒すことができるのかこの怪物を。そう思っていたときイプシオンの体が黒に染まっていく。まるで闇を凝縮したかのような漆黒、ところどころから滲み出る紫色のオーラがとても禍々しい。


 「グルゥゥゥガオォォォォンンン!!」


 イプシオンが今までにない速さで私に迫る。は、はやっ。もしかしたら今の私と同じぐらいの速さかもしれない。でも急所を攻撃していたためHPは大幅に削っているはず。だとしたらここで攻めに行くしかない。処刑宣告(ネメシス)を発動。ここでSTRかAGIを引くことができたら一気に有利になる。その代わりにMPとVITを引いたときは最悪だけどね。とくにVITなんか1から2に増えるだけ、本当に使う余地がない。と思いつつ処刑宣告のスキルによるステータスアップを確認。近くにある石を握ってみると跡形もなく砕けていく。ビンゴ!STRを引いたらしい。今のステータスならもしかしてイプシオンに攻撃を与えることができるかもしれない。


 ガキィィィィィン!!


 イプシオンの体と私の剣がせめぎ合う。徐々に剣にもヒビが入っていくがイプシオンの体も少しずつ崩れていく。このままでは埒が明かない、体をねじりその反動でイプシオンの体に真横から一気に叩きつける。

 

 ガキッ、グシャァァァ!


 力を思いっきし込めた一撃でイプシオンの体にヒビが入る。しかし、強化状態に入って上がったAGIを駆使して空中で体勢を整えてから私に向かって走り出す。急所のことなんか考えずに向かってくるイプシオンが前足の爪を突き立ててひっかく。避けたつもりであったが唐突にイプシオンが進路を変えたため爪が私の肌に触れる。HPが削れる音がする。


 残りHPはわずか5、しかし相手も瀕死の状態。次の一撃で勝負が決まるという緊張感が私の感覚を研ぎ澄ましていく。処刑宣告(ネメシス)の効果は残り30秒、イプシオンが斜めに飛び跳ねながら私に向かってくる。次に相手が取る行動を予測しながらイプシオンの攻撃を避けていく。ちょこまかと逃げ回る私に向かって大振りな一撃をしてくるイプシオン、その隙を狙ってお腹から首にかけて逆手に剣を持ちながら斬りかかる。


 「ギャオォォォォン………」


 ダメージを多く受けたイプシオンが力尽きていく。そして、


 【プレイヤーネーム:アインが二つ名持ち(ネームド)モンスター 剛柔のイプシオンを討伐しました】


 イプシオンを倒したことを証明するアナウンスが鳴る。


 「よ、よ、よっしゃぁぁ……」


 それと同時に処刑宣告の効果が切れてHPが1に固定される。激闘が終わったという達成感が胸いっぱいに広がる。


 『す、すごい。すごいよ!アイン!』


 ミリィちゃんが私にそう声をかけてくるが彼女の体はもう消えそうだ。残り時間がわからない以上今すぐに帰らなければ。イプシオンのドロップアイテムを拾って私はすぐヨルムンガルドへと引き返していく。あとどれだけの時間が残されているのか?もうミリィちゃんは限界なのか?そのような不安ばかりが募っていく。天翔龍のスキルをフルで使って街へと向かう。草原を超え、木々の間を走り抜けやがて城壁が見える。


 やっとのことでドルヴェラクの工房についたときにはもうミリィちゃんは消えそうだった。


 「ドルヴェラクさん!!私です、剛柔のイプシオンを倒してきました!!早く、早く精霊嵌合をやってくれませんか?」


 「お、嬢ちゃんじゃねぇか。本当に2時間ちょっとで帰ってくるとは…よし、任せとけ。嬢ちゃんの妖精を助けてやる。」


 「ほ、ほんとですか?これです。この仮面に精霊嵌合してください。」


 「ちとばかし待っとけよ。それで妖精ってのはどこにいるんだ?」


 「ミリィちゃん出てこれる?」


 『う……うん、だ、大丈夫……』


「こんな弱ってる妖精は初めて見た。早く直さないと時間が来ちまうぞ。」


 焦って工房へと走り出すドルヴェラク。破邪の仮面に火を入れながら謎の呪文を唱えていく。


 「……全能を司る星よ、かの者の存在を引き出させたらんことを望む。今ここに為されたのは……」


 おおよそ2分ほど唱えた呪文は一部分しか聞き取ることができなかった。しかし一言ごとにミリィちゃんの輝きが増していく。


 「嬢ちゃん、最後にこの妖精に確認を取ってくれないか?」


 「うん、わかった。ミリィちゃん、私と一緒に冒険してくれますか?」


 『も、もちろんじゃない…』


 パッと光が輝き始める。ミリィちゃんの体が破邪の仮面に吸い込まれていき、光がおさまる。よく見てみると破邪の仮面の一部が変化していた。


 「どうなったの……?」


 『もう大丈夫、私はもう消えないから!』


 そこには満開の笑顔をする可愛らしい妖精が、ミリィちゃんがいた。


 【隠し任務(ハイドストーリー) 案内妖精の救出をクリアしました】

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