第十一話 相対する黄金の狼 其の一
私は天翔龍を発動させながら南西にある平原、アルメリア平原を目指していた。称号「ネームドハンター」のお陰で二つ名持ちモンスターは見つかりやすい。それなら高速でアルメリア平原へと向かい、そのあたりを散策していれば自ずと剛柔のイプシオンに出会えるはず。
『本当に二つ名持ちと戦うの?危ないし何より2時間で倒せるわけ無いじゃん。なんであたしのことなんか心配するの?』
「その話はさっきさんざんしたじゃん。私はあんたと一緒に旅がしたいの。それ以外あるかって話だよ。なにより私の職業なにか知ってる?唯一職業の執行人だよ。つまり私は二つ名持ちに対する特効があるっていうこと!わかったなら私の勝利を後ろから祈ってなさい。」
『う、うん。頑張ってね!!』
これからこいつと話していくためにもひとまずは剛柔のイプシオンを倒さなくては。あのドワーフ、てか名前きき忘れたな。あいつの話によると剛柔のイプシオンはゴールデンウルフが基となっているらしい。おそらく破刃のベルセルクはゴブリンがもととなっている。二つ名持ちって一体何なんだ?あのドワーフ、多分ドルヴェラクだろう、によると星から認められつつある存在って言ってたけど。そもそも他のモンスターとの違いは?明確な違いがそもそもあるのか?
ワオーーーーン!!
遠くで鳴き声が聞こえた。剛柔のイプシオンはゴールデンウルフが素体、であるならば狼のような遠吠えをする可能性も大いに存在する。この遠吠えの主を確認することもやぶさかではない。
私は鳴き声の方に向かって走り出した。走ること数十秒、今の私の速さからすれば500mほど離れたところにそいつはいた。
【二つ名持ちモンスター 剛柔のイプシオンに遭遇しました】
目が眩むほどに光り輝く黄金の毛並みをもつ一際大きい狼がそこに存在していた。
「ワオォォォォォォォォォンンンンン!!!!!」
イプシオンが私を見つけて遠吠えを上げる。まるで今日の餌が来たことを仲間に知らせるような。しかし今の私は執行人、二つ名持ちとの戦いに特化したジョブである。開幕早々、断罪執行を使用。イプシオンのステータスを上げるとともに私自身のステータスを上げる。
「ワフルゥゥゥゥ???」
突然重くなった自身の身体に違和感を覚えたらしい。そこで私は自分の体を動かしてみることにした。軽くジャンプするだけで自分の体一つ分は飛べる。この感覚は天翔龍に準ずるほどの補正が入っているみたいだ。もしこれが他のステータス、例えばSTRにも同じだけかかっているとしたら……試す価値はある。
イプシオンの体に思いっきり剣で斬りかかる。断罪執行で強化されたAGIとSTRを用いて推定3mはあるイプシオンの巨体に3連撃を食らわせた――が、
ガキィィィィィィン
鈍い音が辺りに一面に響き渡る。そう、強化されたSTRを持ってしても体に傷一つ負わせることもできないのだ。これ以外STRを強化するスキルを私は持っていない。つまりイプシオンへの有効手段は残っていないということだ。
「ワオォォォン!」
眼の前の何も無い空間から氷が集まっていき槍が形成されていく。1本、2本…7本。計7本の氷の槍がイプシオンから私に向かって放たれる。追尾性能があるのか避けても軌道を修正してくる7本の氷の槍たち。これ以上逃げ続けてもただイプシオンに隙を見せるだけ。それならこの槍たちを迎撃する他ない。
迫りくる槍を剣で切り捨てる。時に上から、横から、後ろからくる氷の槍を一本一本両断していく。残すところあと2本。このまま両断していってもいいけどこのまま有効打を与えられないのはまずい。なんせ猶予は2時間。ダラダラ引き伸ばす気は毛頭ない!氷の槍の位置を見ながら天翔龍を発動。そのままイプシオンの背後に移動する。天翔龍と断罪執行の重ねがけ、あまりの速さにイプシオンも目を離してしまったらしい。
ザシュッッ!!
「ヷ、ワォォォォォォォンンンンンンンン!!」
「自分の技で傷つけられるのはどんな気持ち?」
そう、私は追尾してくるという氷の槍の特性を使って、氷の槍の軌道上にイプシオンが来るように調整したのだ。あんだけ硬かった体毛も魔法への耐性はないらしい。自分自身が作ったやりに貫かれたイプシオンが悔しそうに顔を歪ませる。
「グルルルル……ワッフ、ワッフ、ワォォォォォォォン!」
イプシオンが遠吠えをした瞬間やつの体毛がなびき始め、色も黄金色から銀色へと変わった。これはもしや形態変化?HPを大きく削ったのか?いや、そうでもなさそう。流石に1撃で体力を半分以上も削ることはできないだろう。だとしたらあれは任意で行えるもの…どこが変わった?とりあえず変更点を知るためにも一撃入れてみるか。剣で切りかかってみる。
ヌルッ
剣が抵抗なく体の上を滑っていく。どれだけ突き立てても剣がいなされていきダメージを与えることができない。これは先程までのダメージが通らないと別種であり、先程までのが超硬い物質に攻撃をしている感覚だとしたら今のは水に攻撃をしている感覚だ。すべてが無効化されているような感覚…面白い。
もしこれが際限なく行えるとしたら物理主体の私はお手上げだがそうでないとしたらまだ希望はある。何度も何度も繰り返し同じ場所を執拗に狙ってみると徐々に毛先が変わってきた。最初はまるで月かと思うほど輝いていた銀色の毛並みが徐々に黒ずんでいく。よし!このまま行けばきっとダメージを与えられるようになるはず―――そんな淡い期待は一瞬で踏み潰された。
「グルグルゥゥゥ、グルアォォォォォォォオオオオンンン!!!」
刹那、私の体は弾き飛ばされた。目に見えない衝撃波が私の体を襲ったのだ。
これは何なんだ?きっかけは?予備動作などは何もなかった。つまり私の行動がトリガーとなっている。直前までやっていたことは同じ場所を執拗に狙った攻撃。何度も攻撃……もしや、あの衝撃波は自身の受けた攻撃回数で発動される?私はあの衝撃波に襲われるまで100回ほど攻撃を繰り返していた。ということは自身が受けた攻撃の回数が100回になるごとにあんな超火力で攻撃をしてくるってことか?アホすぎる、無理ゲーだろ。
金色の毛並みの形態のときは圧倒的硬度の体毛に物理攻撃は阻まれ、銀色の毛並みの形態のときは物理攻撃がいなされ、定期的に超火力の衝撃波が飛んでくる。つまりイプシオンは物理職が相手にする存在ではなかったということか。これは流石に物理メタすぎる。剣だけじゃ詰んでしまうっていうことだな。
ところがどっこい、こんなものは私が諦める理由にはならない。私が勝つことを祈ってくれているか弱き妖精を助けるためにここでイプシオンに勝たないといけない。そのためには危険だって犯そう。
どうすればあそこまで物理攻撃が効かない相手を倒すことができるだろうか。厄介なのはあの体毛、生物が外敵から身を守るために発達したであろうあの毛をどうにかできれば…うん、待てよ?大概の生物、特に4足歩行の動物の弱点と言ったら?そんなものはただ一つ、お腹だ。なら、イプシオンも同じようにお腹にはもしかしたら物理攻撃が通るのかもしれない。
私はイプシオンに向かって走り出す。ちょこまかと動く私に向かってイプシオンが前足を使って攻撃してくる。その隙を狙ってイプシオンの懐に入り込む。突然のことに慌てるイプシオン、そのお腹に向かって剣を思いっきり刺す。
「ギャオォォォォォォォォォォンンン!!!」
無事私はイプシオンの弱点に攻撃することができたらしい。




