第十話 妖精からの救援要請
「むにゃぁ、あれ、もう朝?」
窓から漏れる朝日で私は目を覚ました。ここは黄金の三日月か…ってことは本当に1日ゲームの中で過ごしたってこと?スマートリングでゲームをするときは普通、脳の酷使を防ぐために連続使用が12時間までになるようにすることが製品に義務付けられているのに。治療のために私のスマートリングに医療パッチを入れたのは本当だったんだ。てっきりあれ嘘だと…私がそこまで要注意人物だと思われていたとは思わなかったし。
そう考えながら私はベットから飛び降り黄金の三日月を出た。町中にはもう早速活動しているNPCとプレイヤーで溢れかえっている。あ、アンドレさんから借りたお金返さないと。なんだかんだ言って20万サリーくれたから今日の分の宿代は大丈夫なんだけど、ずっと借りっぱなしってのもなぁ。よし、今日から早速冒険者として活動していくか。
ってあれ?昨日結局、執行人のジョブスキルを確認せずに眠ったような…今確認するか。こういうのは積極的に活用していかないと。
《アイン:人族》
レベル:10
職業:執行人
状態:案内妖精の衰弱
保有SP:25
保有BP:0
HP:30
MP:17
STR:51
AGI:11(41)
VIT:1
装備品
・破邪の仮面
【スキル】
・天翔龍
〈職業スキル〉
・断罪執行
『戦闘開始時にのみ使用可能なスキル。相手の全ステータスを下げ、自分の全ステータスを上げる。下降、上昇幅ともにスキルレベルと相手に依存する。戦闘対象が二つ名持ちであった場合特殊職業スキルが解放される。
この星にいるモンスターはすべて害である。であるならば執行人が彼らを裁く他ない。執行人の目はモンスターの罪を看破し、罪に応じてモンスターに枷を自身に恩恵を与える。全てはこの星を滞りなくするため。それこそが執行人の存在意義なのだから。』
・処刑宣告
『戦闘対象が二つ名持ちであった場合にのみ使える特殊職業スキル。スキル使用後から180秒間にかけてSTR、MP、AGI、VITのいずれか一つを倍にする。スキルの効果時間が終わった時点から300秒間、最大HPを1に固定する。
自分の命をかけてまでモンスターを倒そうとする気概、それを持つものこそが執行人にふさわしい。裁くべき敵を前にして易易と見過ごすことは執行人には許されない。執行人の名を賜ったのなら自身の命をかけてでも敵を屠ることが義務である。』
・月下葬送
『パッシブ効果のスキル。二つ名持ちモンスターを討伐した際にもらえるSPを15から30、BPを20獲得することができるようになる。
執行人は星から認められつつあるモンスターを狩ることが宿命。その宿命を果たしたときにこそ執行人は褒美を得られるのかもしれない。』
【称号】
「謁見者」「神託を受けしもの」「名札刈り」「ネームドハンター」
〈追記〉
・「執行人」
唯一職業の一つ。称号「ネームドハンター」を保有時にのみ与えられる職業。
・「案内妖精の衰弱」
特定の種族の探索者に与えられる案内妖精の顕現可能時間が5時間を切っているときにのみ与えられる状態。顕現可能時間をすぎると自動的にスキル「鑑定」を得ることができる。
色々増えてるー!?色々執行人関連で知りたい内容のスキルとかがあるんだけど一番の問題はミリィちゃんだ。この情報が正しければあと5時間でミリィちゃんは消えてしまうってことだ。それは嫌だな…
「ミリィちゃん?本当にあなたは消えてしまうの?」
『えぇ、私達に与えられた役目はここ、ヨルムンガルドに探索者を連れてくることだもの。わたしたちはせいぜい探索者の力を借りても24時間しか顕現できないような存在。貴女が気に病むようなことではないってこと。それより職業を得たんだって?すごいじゃない?あたしなんか放っておいてモンスターでも狩ってなさいよ。大丈夫、私はここでお別れかもしれないけどあなたの旅は続くんだから――』
ペシン!
あたりに打音が響き渡る。私がミリィちゃんの顔をひっぱたいたのだ。
「ふざけないでよ!私はあなたと旅がしたいの!!初めて二つ名持ちモンスターと戦った後もあたしと喋ってくれたあなたと、もっと、もっと旅がしたいのよ……」
『で、でも!あたしはもう5時間後には消える存在…必要最低限な情報と街までの行き方を探索者に教えることが私の存在意義。どんなに望んでもあなたと一緒にはいられない!』
「そんなこと誰が決めたの?私はあなた自身の気持ちを聞いてるんだよ?」
『あ、あたしだって……あたしだって、あなたともっと一緒にいたい!』
「それが聞きたかったんだよ。ミリィちゃん、あなたはあとどれぐらい保つの?」
『詳しい時間はわからないけど、多分4時間ってところかな?』
あと4時間でミリィちゃんを救う…難しいかもしれない。おそらく大多数の人たちは案内妖精のことなんか忘れて「鑑定」のスキルを得るのかもしれない。だけど私は、この口がちょっと悪くて人のことを馬鹿にして、それでもたまに可愛いところがあるミリィちゃんと一緒に冒険がしたい。諦めてたまるか。
『案内妖精をそのままにしておこうだなんて馬鹿なことをするのはアンタだけよ…ありがとう。』
「そんな感謝は後にしてとりあえずあなたの存在を保つ方法を探すよ?ミリィちゃんはなにか知ってる?」
『うーん、多分だけど私が存在を保てないのはこの星での依代がなくて自分自身のエネルギーを消費してるからだと思うんだよね。ってことは――』
「ミリィちゃんの依代を作れれば大丈夫ってこと?」
『そういうこと!』
そうと分かれば話は早い、私が知る中で一番案内妖精のことを知ってそうな人のもとに行くしかない。そう思い私は冒険者ギルドの前まで走ってきた。
「アンドレさん、支部長はいる?」
扉を乱暴に開け私は中に向かって叫ぶ。
「支部長は俺だが…おっ、アインの嬢ちゃんじゃねえか。どうしたんだ?」
「あなた案内妖精っていう存在を知ってる?」
期待を胸にしながらアンドレさんに質問を問いかける。冒険者ギルドの支部長である彼ならば案内妖精の存在を知っているかもしれない。
「案内妖精って言うのは知らねぇけど、妖精ならしってるぞ。」
「本当っすか?」
「ああ、だがここで立ち話っていうのもあれだしな。応接室で話すか。」
気を利かせてくれたアンドレさんの後ろを歩きながら応接室に向かう。意外とこのギルドにある応接室は多く、ざっと見ただけでも10個はあった。
「そこに腰を掛けてくれ。それで話を戻すが、妖精っていうのはこの世界に満ちるエネルギーであるマナによって構成されている存在だ。だが、マナは存在が不安定で妖精も一定期間顕現すると存在が消失してしまうらしい。」
「そ、そんな……妖精の存在をもたせる方法はないんですか?」
「お、何だお嬢ちゃん。妖精の友達でもできたのか?」
「うん。私のことをはじめから見守ってくれていたんだ。」
「それで、意思疎通は可能か?」
「もちろん。喋ることだってできるよ。」
「良し、それなら1つ手段がある。それは、ドワーフに頼むことだ。」
「ドワーフ?どこにいるんですか?」
「ドワーフは別名『鉄魔の子孫』と呼ばれていて鍛冶技術とマナの扱いが上手いんだ。彼らの秘伝の中の一つに妖精を武器やアクセサリーに封じ込める技術があるらしい。ここヨルムンガルドにもドワーフの工房があるから行ってみたらどうだ?」
「ドワーフの工房…名前は?」
「ドルヴェラクの工房って名前だ。アンドレの紹介できたって言ったら悪いようには扱わないだろう。確か工房は職人街の端っこにあったはずだ。」
「アンドレさん…ありがとう。」
「困ったときはお互い様だ。恩を返したければいろいろな依頼をすることだな。それが巡り巡って支部長である俺の助けとなる。あまり気にすんなよ。」
冒険者ギルドをあとにした私はアンドレさんの情報をもとにドルヴェラクの工房へと向かった。意外と職人街というのはきれいであたり一面に工房が広がっている。その中でもひときわ大きい建物がおそらくドルヴェラクの工房だろう。
コンコンコン
「すいませーん、ここの工房に用があるんですけど開いてますかー?アンドレさんの紹介できました。」
ガチャッとドアが開かれる。ドアから顔を出したのは髭で顔の半分が覆われている少し低いドワーフだった。
「あんた誰だ?名乗ってみぃ。」
「あ、私はアインと言って冒険者ギルドに所属しています。ここの工房なら妖精を武器とかに封じ込める事ができるとアンドレさんに聞いて来ました。」
「ほう、あの若造がねぇ。それに『精霊嵌合』のことをおいそれと漏らしやがって…次あったらゲンコツでも落としてやるか。それで、アインって言ったか?嬢ちゃんは俺に精霊嵌合をしてほしいってことで合ってるか?お嬢ちゃんにはちーっとばかし思い代償となるがいいのか?」
「代償?それは一体…」
「なんの代償も払わずに頼めると思わないほうがいいぜ。まぁそれに結局必要になるものだしな。お嬢ちゃんにはこれからこの世界に存在を認められつつある存在を討伐しその残滓をもらってきてほしい。」
「というと?」
「お前らは最近二つ名持ちとでも言うんだっけか?妖精や精霊っていうのはいわば不完全な状態なわけだ。そいつらの存在を固めるためにはこの世界、いや星に存在を認められつつある二つ名持ちの影響を色濃く受けた残滓、ドロップアイテムが必要ってわけだ。俺はお前さんに2体の二つ名持ちを狩ってもらいたい。そのうち一体の残滓を俺にくれれば無料で精霊嵌合をやってやるよ。それでいいか?」
「ちょっと考えさせてくれ。」
話をまとめると精霊嵌合に必要な残滓に加えてプラスアルファでこのドワーフが求める存在の残滓、ドロップアイテムを取ってくればいいってことか…よし、それで行こう。
「わかった。何を狩ってくればいい?」
「おお、気概があんな嬢ちゃん。俺が欲しいのは『剛柔のイプシオン』っていうやつだ。倒せるか?」
「ああ、了解。」
「わかった。それともう一体適当な二つ名持ちを倒してくれればいい。」
「それはもう倒したやつでもいいの?」
「というと?」
私は頭の右斜め上にかけている破邪の仮面を外してみせる。
「これは破刃のベルセルクの残滓、破邪の仮面。これを下に精霊嵌合することはできる?」
「これは…通常破刃のベルセルクからは短刀が残滓として現れるんだがな。これはレアなものだ。本当にこれを使っていいのか?精霊嵌合とは素材を元に精霊や妖精を強化するもの。もしかしたら性能が落ちるかもしれないが。」
「そんなことはどうでもいいよ。それより剛柔のイプシオンはどこにいるの?」
「剛柔のイプシオン、そいつはシルバーウルフの強化個体ゴールデンウルフの成れの果てだ。そいつはこの街からみて南西のアルメリア平原に生息しているらしい。いけるか?」
「大丈夫、任せて。それで精霊嵌合にはどれぐらい作業が必要?」
「ざっとみて30分で終わるはずだ。」
「わかった。3時間以内に帰ってくるよ。それじゃあまた。」
「気をつけろよー。」
ミリィちゃんが消えるまであと3時間半程度。つまり最長でも3時間、余裕をもたせるとしたら2時間で剛柔のイプシオン倒して帰ってこないといけない。普通で考えたら無理かもしれないが私はこのミッションを必ず遂行する!ミリィちゃんを助けるために。
決意を胸に私は城門に向かって駆け出していた。
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