第四十話 再会
カイ視点です。
ソルレアに転移してもらい、聖都の目の前に着いた。イゼルは姿を変え、冒険者のゼルにも戻る。俺はこっちの方が安心するなと、密かに思った。
「カイ。聖都に行って見つかったら捕まってしまう。それにエイラがどこに囚われているのかもわからない。だから、私のアジトでヨアたちを待たないか?」
「アジトですか?」
「ああ、私はアジトが聖都の近くにあるんだ。詳しくは歩きながら話そうか」
「はい。わかりました」
アジトに向かう道中、ゼルが妹たちのことを知るために冒険者になって、今から教会を改革しようとしていることを知った。
「……私は、何もかもが遅すぎたんだ……」
最後に一人ごとのように呟いたゼルの言葉に、何も言えない自分を歯がゆく思った。
丁度目的地についたようで、立ち止まる。
「ここなんだ」
「えっ?家なんてないですよ」
辺りを見ても、木があるだけで家なんてないので、俺が不思議そうな顔をしていると、いたずらが成功した子どものように笑っている。
「私の魔法で隠してあるんだ」
そう言って、ゼルは木の方に歩いて行き、そのまま木の中に入っていった。驚きのあまり、その場に立ち尽くしてしまう。すると、またゼルが木から顔を出した。
「大丈夫だ。こっちだよ。すぐ階段があるから気をつけてくれ」
覚悟を決めて俺は木に手を伸ばすと、手が木の中に入っていく。息を呑みそのまま入って行くとそこには本当に階段があった。壁には淡い光が照らし出されていて、ゼルの後ろをついて降りていき、扉を開ける。
「イゼルー。会いたかったよー」
俺より少し小さい少年が、ゼルに向かって飛び込んできた。それを受け止め、ゼルは少年を地面に降ろして頭を撫でる。その頭には狐のような耳がついていた。それにお尻の方で、ふわふわの尻尾が勢いよく振られている。
「ライト、大きくなったな。元気だったか?」
「元気じゃなかったよ!イゼルにめったに会えないし、周りは狐使いが荒いしで、慰めて〜」
蚊帳の外の俺は、甘えているライトと呼ばれた少年と、微笑んでいるゼルを眺めていた。
「すまないな。いつも助かってるよ、ライト」
「ううん。イゼルの為なら頑張れる!」
「ありがとう」
お礼を言ったゼルはもう一度、ライトの頭を撫でた。ライトは嬉しそうに、イゼルにまた抱きついた瞬間、部屋の奥から大声が聞こえてきた。
「やっと帰って来るか!イゼル!」
驚いて目を向けると、部屋の奥に二人の男が立っていた。ライトは渋々イゼルから離れ、声をかけてきた白髪混じりの大男を睨む。その男を見た途端、ゼルは弾んだ声を出した。
「クラヴィス!久しいな。まさか君がいるなんて思わなかったよ」
「メルナが知らせてくれてな。急いで来て待っていたんじゃ」
ゼルは年上の男に歩み寄り、握手をかわす。その隣でメガネをかけた、賢そうな若い男が口を開いた。
「イゼル様。ご無事で何よりです」
「ヘルトも、ありがとう」
「いえ、国のためですから……」
口調が冷たそうに聞こえるが、ゼルは嬉しそうに笑っている。ヘルトと呼ばれた男とも握手をかわすと、ゼルはこちらを向いた。
「カイ、紹介するよ。この大男は、クラヴィス・アストレイ。こっちは、ヘルト・カルヴィアン。で、この子は狐の獣人のライト。みんな私の仲間だ」
三人ともゼルから、信頼されている人物みたいだ。
「なんだ。この小僧は?」
クラヴィスが俺のことを、怪しむように見始める。ゼルは俺の横に立ち、みんなに紹介してくれた。
「彼は、私の弟子のカイだよ。旅の途中で出会ったんだ」
「はあ?イゼルに弟子なんて聞いてないよ!イゼルは俺のなのに……」
そのことに一番に反応したのは、ライトだった。ライトは、俺とは反対側のゼルの腕を取って、俺に向かって睨んでいる。しかし、耳があるせいなのか、可愛らしいライトに睨まれても怖くはない。でも、それを言うと、怒られそうなので黙っている。
次にクラヴィスが、自分のことのように嬉しそうに反応した。
「おお!お前も弟子を取ったんだな。こいつがわしの孫弟子になるのか……」
「……孫弟子?」
不思議そうにしていたら、ゼルが説明してくれた。
「カイ。クラヴィスは、私の師匠なんだ」
「孫弟子よ!一度手合わせするぞ。外にでろ!」
唐突なクラヴィスに、戸惑っているとヘルトが淡々と止めに入る。
「クラヴィス様。今はそんなことをしているときでは、ありません」
「そんなこと……とな。お前にはわかるまい剣士の本能が」
「わかりたくもありません」
なんとなくこの会話で二人の相性が悪いのが、想像できた。冷静なヘルトは、怒っているクラヴィスを無視して、ゼルに声をかける。
「イゼル様。私たちが来たのは、あなた様に確認する為です。ここに戻って来たってことは、もう決心がついたということで、よろしいんですよね?」
「……ああ、決心がついたよ。いままで、私のわがままに付き合わせて……悪かった」
「いいえ。あなた様の考えが国の考えですので。それと……私たちは教会の改革には参加できませんが、私たちの副官をこちらにこさせます」
「わかった。ありがとう」
感情なく話を進めるヘルトを見ていると、胸の中がもやもやしてくる。それが顔にでていたのか、ヘルトがこちらを向いて俺に話しかけた。
「君は何か言いたそうな顔をしているな?」
そのヘルトの圧に戸惑ってしまうが、思っていたことを聞いてみる。
「いえ、すいません……でも、どうして自分たちが、手伝わないんですか?」
その質問に答えたのは、隣にいたゼルだった。
「すまない、カイ。私の説明不足だ……彼らは二人ともヘリオス・シンクなんだ」
「あっ!?……それじゃあ、ソルレア様と同じで……」
そこまで言うと、ゼルが深く頷いた。ヘリオス・シンクは神の力を使えるから、教会のことには介入できない。ソルレアから教えてもらったことを思い出す。
その名前を聞いて気分をよくしたのか、クラヴィスが口を開く。
「なんと、ソルレアにもあったのか。じゃあ、お前はヘリオス・シンク全員に会っているのだな」
「えっ?ヘリオス・シンクは五人ですよね。俺は、四人しか会っていないですよ」
俺の素朴な疑問に、ゼルが答えてくれる。
「カイは会っているよ。私が五人目だからね。聖王と兼任してるんだ」
「へっ!?」
「はは、無理もない。それはあまり知られてない真実だからな」
クラヴィスの言葉に、目が点になってしまう。聖王が五人目とは思わなかった。
平民の間では、ヘリオス・シンク自体が、幻の存在だとまで言われるほど、一生会わないのが普通なのに、この短期間で全員と会うなんて想像できるわけがない。
(でも、俺の師匠……聖王なんだよな)
知り合う人たちが、すごすぎて自分の感覚が、少しずつズレてきているように思える。
その和気あいあいとしている雰囲気の中を、止めるようにヘルトが話し出した。
「イゼル様。私たちは仕事があるので、ここで失礼します。ライトは置いていきますね。クラヴィス様、いきますよ」
「……嫌じゃ。お前だけ帰れ」
「そんなことを言っていると、騎士団の予算を減らしますけど、いいんですか?ほら、動いてください」
「おい、年寄りは丁寧に扱わんかい」
「そのお年で剣を振り回せるなら、大丈夫ですよ」
そんな会話を続けながらヘルトは、無理やりクラヴィスを引き連れて、部屋の奥にある転移の魔法陣から帰っていった。
二人が消えるのを見届けると、さっそくゼルはライトを使いに出すことにした。
「ライト、私がアジトにいることをシエルに伝えて来てもらえるか。それと、シエルが護衛している冒険者も連れて来てほしい」
「えーせっかく会えたのに……わかったよ。いってくる」
嫌々返事をしたライトは扉をでようとして、止まった。振り向かずに、ゼルに問いかける。
「これが終われば、イゼルはもうどこにも行かないよね?」
ゼルは困ったような顔をした。
「ああ……教会に戻るよ」
悲しみを含んだ返事を聞くと、ライトは複雑そうな顔をして出ていった。
◇◇◇
「カイ!!よかった無事で!!」
泣きそうなヨアの満面の笑みが、アジトの扉を開いた瞬間向けられ抱きしめられた。
ライトが連れて来てくれたヨアは、どこか疲れているようにも見える。こっちが心配になるぐらいだ。
「ああ、ヨアたちも無事でよかった!」
再会を喜び落ち着くと、不服そうにティアナが俺に聞いてくる。
「なんでカイたちの方が早いのよ」
「途中でソルレア様に会ってね。聖都の近くに転移してもらって、みんなより一日前についていたんだ」
「えーなにそれ、羨ましい。で、エイラの居場所は掴めたの?」
すぐにエイラのことを聞いてきたティアナの顔は、思っているよりも切羽詰まっているようだった。でも、本人はそのことに気がついていないみたいだ。ヨアとアッシュを見ると、二人とも苦笑いをしている。
「今、エイラは聖都にはいないんだ」
「じゃあ、あの子はどこにいるの?」
「落ち着いて、ティアナ。エイラは無事だから。今朝、ここからそう遠くないデュランの別荘にいることがわかった。そこを見張っている、ゼルさんの部下が言うには……そこにいるのは大司教ではなく、理術研究室の主任らしいんだ」
「そう……とりあえずは無事なのね」
エイラが無事なことがわかり、落ち着いたティアナは気が抜けて、椅子に座り込んだ。それをアッシュが横で支えながら、口を開く。
「そうか……犯人はあいつだったのか」
考え込む俺たちに、ゼルは一つの提案をする。
「着いてそうそうすまないが、君たちに教会の改革にも手伝ってもらいたい」
その提案にヨアが強く反発した。
「どういうことですか?俺たちはエイラを助け出したいだけなんです。それは聖王であるあなたの仕事ですよね」
「……知っているんだな。騙していてすまない」
そう言うと頭を下げる。その姿に俺たちは驚いてしまう。一国の王が、冒険者に頭を下げるとは思わないからだ。ゼルは頭を上げ、俺たちを見据えてから、ゆっくりと言葉を吐く。
「――私は、教会の闇を断罪して、一掃する。だから力を貸してほしい」
部屋に沈黙が広がる中、それを壊したのはヨアだった。
「それは、俺たちにとってメリットがあるのですか?」
それを俺は、慌てて止めた。
「ヨア!お前……」
「いいんだ、カイ。ヨアの言うとおりだ……それはちゃんとある。君たちがエイラを助けるのと同じタイミングで、私たちは聖都にいるデュランを筆頭とした、悪事に加担している教会関係者を捕まえる」
説明をするゼルに、ヨアは少し考えた後、口を開いた。
「……なるほど。こちらはこれ以上敵は増えないということですね」
「ああ、だから君たちには、エイラを助けるのと同時に、イオを捕まえてほしいんだ。彼は重要な情報を持っているはずだから」
考えがまとまったヨアは、了承の返事をした。
「わかりました」
「ありがとう」
正面を向き直したゼルの気迫に、部屋の空気が張り詰める。
「――決行は二日後の夜とする」
俺たちはみんな決意の顔で、頷いた。




