表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼穹の方舟 〜落ちこぼれ冒険者と記憶を失った少女〜  作者: 蒼月 りんね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/43

第三十九話 聖都手前の遭遇

ヨア視点です。

 塔を離れて俺たちは、聖都を目指して急いだ。


 時折見せるティアナの異常な程の焦りを、アッシュと二人で宥めながら進み、辿り着いたのは聖都の一つ前の町だった。聖都の手前で賑わっているから、逆に俺たちを隠してくれている。俺たちは食堂に入り、店の端で昼食を取った。


「おい、ヨア。これからどうするんだ?」


 聖都が近づいたからか、これからのことをアッシュが聞いてきた。俺は小声で周りに聞こえないように話す。


「ここから先は、もっと慎重にならないといけない。ダリオが言っていたんだろ?追ってきてはいけないと」

「そうよ!あいつ……あっ!」


 大きな声で返事をしたティアナは、はっとして小声で話し始めた。


「……そう、追ってきたらずっと寝てもらう。と、言っていたわ」

「それって、追ってきたら殺す。っていう意味だよな」


 アッシュの言葉に、俺は深く頷いた。教会は俺たちを今度は殺すつもりだろう。そうすると俺たちが取れることは、一つになる。


「ああ、だから俺たちは、なるべく気づかれずに教会に行って、メルナ様に会わないといけない」

「そう、だよね……私たちだけじゃ、どうにもならないよね……」

「ああ、悔しいが……俺たちはただの冒険者だからな」


 すぐにでも助けにいけないのがわかるから、みんなの顔が曇る。でも、みんなで生きるために、やれることを、今はやるしかないんだ。

 

 食事を終わらせた俺たちは、必要なものを買うために町を歩いていた。

 賑わっている商店の通りを歩いていると、前から見たことがある少女がいることに気づく。


「おい。こっちだ」

 

 急いで二人を路地に連れていき、隠れて通りを覗き込む。

 そこにはミレナ・アクア遺跡の後、雫を奪いに教団の使いとして来ていたノエルが、メイドの姿で通りを歩いていた。

 ノエルの横には、貴族の装いをした黒髪の美少女が、おしゃれな傘を差して歩いている。反対側には、ノエルと同じくメイドの姿をした背の高い女性が、荷物を持って歩いていた。黒髪の少女を中心に、三人は楽しそうに歩いている。


(なんで、こんなところに……)


 考えていると後ろから覗いたアッシュが、呟いた。


「あれは、教団の――」

「ああ、あの時のノエルだ……中心にいるのが、教団の総督の娘なのかもしれない」

「あ……ああ、そうかもな」


 しばらく見ていると、ティアナが俺の胸元を指した。


「ねえ……ヨアの胸元にいるのは何?」

「きゅう」


 何かが鳴く声がして、目を向けると胸元から、小さな赤い龍(レッドドラゴン)が首を出していた。ずっと姿を見せなかったのに、目を覚ましたのだろうか。俺は慌てて路地に顔を引っ込めて、赤龍を隠そうとした。でも、嫌がって隠れてはくれない。

 可愛いもの好きのティアナが、瞳をきらきらさせて近づいてくる。


「なに、その可愛い生き物?」

「きゅ」


 覗き込むティアナに興味があるのか、赤龍はそちらに顔を向ける。

 諦めて本当のことを口に出す。


「ああ、フレイガルドだよ」

「「えっ!?」」


 俺の言葉に、二人は驚いて距離を取る。あの戦いの時に手こずった”フレイガルド”と聞けば、その反応も仕方ないと思う。でも、それを見て赤龍は、見るからにすごく落ち込んでいる。その姿に少し可哀想になった俺は、ちゃんと説明をした。


「大丈夫。俺の従魔になったから」


 その言葉にティアナは、すぐに順応する。


「そうなの!?じゃあ、触っても大丈夫?」

「ああ」


 ほっとして近寄って来たティアナが、手を出して頭を撫でると赤龍はすごく喜んだ。


「きゅ、きゅ」

「ほんとー可愛い。あのフレイガルドとは思えないわ……アッシュも触って見れば」


 遠巻きに見ているアッシュに、声をかけた。だが、アッシュは引きつった笑みを浮かべて断った。たぶんまだ怖いんだろうな。気持ちはわかる。


「……ああ、今はいい……」

「可愛いのに、ねえ。ヨア、この子の名前、何?」

「ガルだよ」


 名前を言うと、ティアナが撫でている手を止めて俺を見た。


「……一応聞くけど、それってフレイ()()ドのガルだったり、する?」

「ああ」

「そう……なのね……ヨアのそういうところ、好きよ」


 好きと言う割に、呆れたような顔をするティアナ。その後ろで残念そうな顔をするアッシュを、不思議に思うが放っておくことにする。


「ほら、ガル。石に戻るんだ」

「きゅう」


 構われて満足したのか、素直に石の中に戻る。

 そんなことをしているうちに、彼女たちの姿は見えなくなっていた。俺たちは必要なものを買い、急いで町を出ることにした。


◇◇◇



 聖都との間にある森の中に入ると、道の端にかごを持った少女がしゃがみこんでいた。


「あの子、気分が悪いのかしら……」


 それに気づいたティアナが、心配して近づいていく。


「大丈夫ですかー?」


 声をかけ、少女が顔を上げた。その瞬間、俺はその少女に違和感を感じて、とっさに叫ぶ。


「ティアナ!離れろ!」

「えっ?なに!?」


 その声に驚いたティアナがこちらを振り向くと、少女はティアナを背後から引き寄せ、首にナイフを突きつけた。

 俺とアッシュは、息を呑む。

 可愛らしい少女は外見と違いこちらを見て、淡々と冷たい感じで口を開いた。


「動かないでね」


 ティアナを人質にとられて動けない俺たちは、その少女を睨みつけ質問をする。


「……何が狙いだ?」

「あなたたち、教会に狙われているんでしょ。一緒について来てもらえるかしら?」


 不機嫌そうに言う少女は、正体がわからなかった。


「教会の者か?」


 そう言うと首を振り、なぜか苛つきながら話をする。


「違うわ。いいから黙ってついて来なさい」


 だんだん不機嫌になる少女と睨み合いが続いていると、森の中から人の影が飛び出してきた。その人影は少女の手からナイフを叩き落とす。その隙に、ティアナがこちらへと駆け寄ってくる。

 少女の前に立ったのは、一人の大人の男だった。


 ――そして、男は少女の頭を叩いた。


「お前は何をやっているんだ!!」


 怒鳴り声が、森に響いた。



 目の前にはさっきまで、不機嫌な顔をした少女を怒っていた男が話を終えて、俺たちに謝っている。だが無理やり頭を抑え込まれている少女は、嫌々謝っているのがわかるくらい、態度に出していた。


「ほら、きちんと謝れ……本当にすまなかった」

「すいませんでした……」


 後から出てきた真面目な感じの男の方が、気の毒になるほど、横の少女は機嫌が悪くそっぽを向いている。


「いえ……」


 なんとも返事がしにくい。気まずい雰囲気が流れる中、アッシュの後ろに隠れていたティアナが、口を開いた。


「ねえ、ヨア。その人のこと知っているの?」

「ゼルさんの知り合いだと思う……ですよね?」


 ティアナに答えた後、確かめるように男に聞くと、男は頷いた。


「ああ。改めて自己紹介をする。私はシエル。君たちがゼルと呼ぶ者の部下にあたる。こっちはライトだ」


 その言い方に、不思議に思ったアッシュは、俺に尋ねた。


「ゼルさんと呼ぶ者?……ゼルさんは、一体何者なんだ?」

「ゼルさんは……」


 俺は一呼吸をしてから、答える。


「――聖王イゼル・ルミナリアだ」

「「はあ?」」


 二人の大きな声がハモった。シエルは俺の言葉に、目を見開いてから感心したように言う。


「驚いたな……君は気づいていたんだね」

「あなたのことは、ゼルさんと旅をしている途中で気がついてはいたんです。初めはどっかの貴族なのだと思っていました……聖王とわかったのは、塔を出た後ですね」

「じゃあ、話が早くて助かるよ。こいつがこんなことをしたのも、イゼル様が先にアジトについたからなんだ。私が目を離した隙に……本当にすまない」


 困った顔をしたシエルに、どう返事をするか迷っていると、アッシュが間に入ってきた。


「ちょっと待て、ゼルさんが聖王なのはわかったが……でも、まずはちゃんと謝るべきじゃないか?こいつはティアナにナイフを向けたんだぞ!」


 アッシュが会話を止める。ライトをしたことが許せないのか、本人にちゃんと謝らせたいらしい。それは俺も思うから、しばらく見守ることにする。シエルに返事するのをためらったのも、そこだった。

 けれど、ライトは悪気なく話し出す。


「だってしょうがないじゃん。こいつらをアジトまで連れてこいなんて言うから」


 さっきまで女らしい喋り方だったのに、急に口調が変わったのに気がついた。だが、怒っているアッシュは気付かない。


「はあ?だからナイフで脅すなんて、おかしいぞ!」

「そんなの知らねーし」


 口調がだんだんと崩れて行くライトを、シエルがもう一度叩く。


「お前が悪い。これはイゼル様に報告するからな」

「えー嫌だよー怒られる」


 すごく嫌そうなライトに、ずっと感じている違和感を確かめたかったので話に入る。


「あの……その前に本当の姿みせてもらってもいいですか?」

「……それもわかるのか」

「だから、妖精族は嫌いだ」


 そのライトの言葉に身体が固まった。自然と警戒心が生まれ、睨んでしまう。

 だが、それをどうして知っているのか疑問が生まれる。

 俺が妖精族なのは、ゼルの近くにいたシエルは知っているかも知れないと思っていた。しかしこのライトまで聞いているとなると、ゼルとの距離も考えなければならないのかも知れない。


(誰にでも話しているなら、信用できないな……)

「……それは、聞いたのか?」


 空気が張り詰める中、俺の質問に答えない。こちらを睨むライトは、次の瞬間――信じられないことに、姿が変わり始めた。カイよりも、少し小さい少年が現れる。

 その少年の淡いオレンジ色の頭には、狐のような耳が生え、お尻にはふさふさとした尻尾が生えている。声までも、女から男に変わった。


「ふん、俺の鼻を舐めないでくれる」


 緑色の瞳が自慢げに物語っているライトの横で、呆れたようにシエルが補足してくれた。


「こいつは獣人の狐族なんだ」


 初めて見る獣人に驚いていると、ティアナが声を上げる。


「か、かわいいー!」


 目の前の獣耳がある可愛い系男子を見て、感激しているティアナにアッシュは戸惑った。


「おい、ティアナ。そいつはお前にナイフを向けたんだぞ」

「わかってるけど……でもゼルさんの部下なのでしょ。それに逃げようと思ったら逃げられたし……もういいじゃない」


 気にしてないティアナに、呆れながらアッシュはため息をつく。


「はあ〜お前がいいならいいけど……」

「そうだな。被害者本人がいいって言うなら、この件はもういいですよ。シエルさん」


 そう言うとシエルは安心した表情を見せた。


「ありがとう……じゃあ、イゼル様の元に案内するよ」

「はい。お願いします」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ