第三十七話 重なる因縁
カイ視点です。
「――黎光よ、我が剣にあれ《ルクス・エッジ》!」
横から聞いた覚えがある声が響いた。
俺の目の前で金と銀の斬撃がぶつかり、相殺される。
レイバンは嬉しそうに、斬撃が来た方に向かって叫んだ。
「もう来たのか。久しいなイゼル!」
知らない名前をレイバンが呼んだので振り向くと、そこにはゼルが立っていた。
(……イゼル?聞き間違いか?)
少し違和感を感じたが、二人が会話しだしたので、その違和感はすぐに消えていった。
雰囲気からして、二人は古くからの知り合いみたいだ。
「ああ、相変わらずだな。レイバン」
「あいつはどうした?」
「そこに、寝かせてあるよ」
ゼルは、目線を少し右に向けると、そこには気絶しているレオの姿があった。レイバンはこうなることがわかっていたかのように、肩をすくめた。
「そうか」
「それで君は、私の弟子に何をしているんだ?」
怒っているゼルとは、反対に嬉しそうな声を上げるレイバン。
「やっぱりお前の弟子だったか。一生懸命追いかけて来てたもんな」
そんなことに気づいていなかった俺は、驚いた。
(追いかけてくれていたんだ……)
嬉しさと罪悪感を感じる俺を、置き去りにして、二人の会話は続く。
「で、なんの用なんだ?」
「ああ、頼まれたんだよ。こいつを聖都にこさすなとな」
レイバンの答えに、ゼルの眉がぴくりと動き、眉間に皺がよる。それは、教会に裏切り者がいるかも知れないと、言っているのも同じだった。
ゆっくりとした口調だったがゼルは、怒っているようだった。
「それは……誰にだい?」
「言えねえな。聞きたかったら、力ずくで言わせろよ。得意だろっ!」
二人の姿が一斉に消え、剣が交じ合う音だけがあちこちで聞こえてくる。
(……こんなにも実力差が、あるのか)
その事実に打ちのめされるが、今はそんなことを考えている場合じゃないと、自分に言い聞かせる。
集中し、その戦いの中で、二人の姿を目で追えるようになった頃、ゼルが押されているように見えた。するとレイバンが、突然止まり剣を地面に突き刺し、怒鳴りだした。
「いい加減にしろよ!俺にそのままで勝てると思ってるのか!」
「思ってないよ……君は強い」
困った顔をしているゼルに、レイバンは舌打ちをすると、次はこちらを向いて、怖いことを言い出す。
「ちっ。そうか……そいつのせいだな。じゃあこいつを殺したら、本気出すか?半殺しにするつもりだったが、殺す。恨むなら自分の師匠を恨めよ」
わけのわからない事を言うレイバンは剣を地面から抜き、俺に一瞬にして詰め寄り、刃を向ける。とっさだったが今度は、レイバンの剣をなんとか踏ん張って受け止めた。しかし、胸を蹴られ地面を滑っていく。ゼルが怒鳴った。
「レイバン!」
「うるせえ!お前のせいで弟子が死ぬところでも、そこで見てろよ!」
そのまま俺に襲いかかるレイバンの前に、ゼルが出て刃を受け止め斬りかかる。レイバンは、素早く後ろに飛び距離をとった。
目の前のゼルは、身体の周りに金色のオーラが溢れ出ていた。にやりと笑ったレイバンが、衝撃の名前を呼ぶ。
「やっと本気になるのか。イゼル・ルミナリア」
ルミナリア――この国では、誰もが知る聖王の一族の名前だった。
それだけじゃなく、目の前でゼルの容姿が変わっていく。焦げ茶色の髪は金色の髪になり、灰色の瞳も淡い金色に変わる。
疑いもない。誰もが知る、この国の聖王のみ現れる、リュミエルの子孫の証だった。
その姿に俺は息を呑む。レイバンは満足げな顔をして、笑っている。
(まさか……ゼル師匠が、聖王だったなんて……)
目を見開き、ゼルを見上げる。姿を変えたゼルの横顔が、悲しそうにしていた。
「……カイ。騙していてすまない」
つぶやくゼルの声に、俺は我に返る。不思議とその嘘に対して、裏切られたとは感じなかった。
「……いえ。でも……俺の方こそ、不敬じゃないかと……」
なんとか言葉を使って、気にしてないことを伝えようとするが、驚きすぎて的外れなことを言ってしまう。
その時、レイバンがこちらに向かって突っ込んでくるのが見え、とっさに叫んだ。
「――ゼル師匠、前!」
ガッキィーーーン!!
とっさに剣を受け止めるイゼルは、さっきよりも余裕を感じた。止められたのに笑っているレイバンは、舌なめずりをした。
「やっと、本番だな!」
そのままレイバンは、イゼルに攻撃を仕掛けるが、次々とかわされている。今度は攻撃しているレイバンが、押されているように見える。だが、それでもレイバンは嬉しそうだ。
「ほっんと。気に食わねー奴だな。お前は」
「もうやめろ。お前に勝ち目はない」
「嫌だね。諦めたら、俺が何の為に、教団についたのかわからねーからな」
そう言って、レイバンは一度距離を取る。イゼルはそれには答えず複雑な顔をして見つめていた。その瞳は、悲しそうに見えた。
この戦いに入る隙がないので、聞こえてくる会話を聞いていると、二人の間には昔何かあったのかもしれないと推測してしまう。
次にイゼルは自分から斬り込んでいった。レイバンは何回か受けていたが、最後は剣と共に後ろに弾かれる。体勢を崩したレイバンを、仕留められる状況だったが、イゼルは、その場から動かなかった。
その行動に苛ついたレイバンは立ち上がり、怒鳴り散らす。
「それが気に入らねーんだよ!!何なんだよ!あの頃のお前はどこにいったんだ?”残虐の王子さま”よ!」
その吐き出した言葉を聞いたイゼルは、一瞬、俺の方に目を向けたが、すぐにレイバンに低い声で答えた。
「もういない……諦めろ。それに、私はお前と、戦いたくはないんだ」
「そんなことは聞きたくねーよ!!」
「……レイバン」
体勢を立て直したレイバンは、オーラを貯めた。それを見てイゼルも剣にオーラを纏わせる。
最初にレイバンが地面を蹴り、イゼルに向かって踏み込んだ。対するイゼルも踏み込み、中央で剣がぶつかり合う。
「うおおおおおお!!」
「はああああああ!!」
二人の力比べが続くその時、金色に黒のオーラを纏った雷が落ちてきた。二人は、落ちる寸前に後ろに飛び避ける。
体勢を立て直しながらレイバンが、落ちたところに向かって叫んだ。
「だれだ!戦いの邪魔をするのは!?」
すると見たことのある黒い霧が現れた。その霧の中から、姿を現したのは、見覚えのある黒い鎧の騎士だった。イゼルがその姿を見て、警戒をしながら呟いた。
「……漆黒の騎士」
驚いたことに漆黒の騎士から、すごく低い声が途切れて聞こえてくる。
『……リュミエルの……気配……殺す……』
話せないと思っていた漆黒の騎士の声に、みんな戸惑う。それを代表したかのように、声に出したのはレイバンだった。
「あいつ喋れたのか!」
その声に反応した漆黒の騎士は、レイバンに攻撃を仕掛けた。重い攻撃を受け止めたレイバンは、文句を言う。
「はあ?なんで俺なんだよ。用があるのはイゼルだろ!」
漆黒の剣士の攻撃をいなし、そのままイゼルの方に蹴った。体勢を立て直し、今度は蹴られた先にいたイゼルと、剣を交える。
それをイゼルが弾くと、後ろに飛び、手を掲げ何かを呟いた。すると空に黒い雲が集まり、二人の元に、さっきの雷が無数に落ちてくる。二人は雷を避けたり、弾いたりして難をしのいだ。
雷が収まった頃、少し肩を揺らしている二人は横に立ち、漆黒の騎士を見据えていた。
「……レイバン。一旦休戦だ」
「くそっ……仕方ねえ」
二人は共闘することにして、一斉に攻撃をするが、漆黒の騎士はいなしている。
「俺たちとやり合うか……こんな奴、今までで一人しかしらねえ」
「ああ、そうだな」
息のあった二人の攻撃を続けていると、突然、頭上から女性の透き通る声で、歌うような詠唱が聞こえてきた。
夜空一面に、巨大な白く光る魔法陣が現れる。
魔法陣が現れると、イゼルとレイバンは、何が起こるかわかっているかのように漆黒の騎士から距離を取った。
「女神ティティーリア
月の涙を癒し
海に浄化の種を植え
夜明けと穢れを清め給え――《月涙浄歌》!」
それから大きな白く光る柱が、漆黒の騎士の上に落ちて、地面がへこむ。その衝撃の中に立っている漆黒の騎士は、膝をついて頭を押さえて苦しみ出した。
「うぅあああっ……」
苦しんでいる漆黒の騎士の身体から、黒い煙が立ち上がる。だが、突然後ろに霧の塊が現れた。身体をなんとか起こした漆黒の騎士は、そこに入ると消えていった。




