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蒼穹の方舟 〜落ちこぼれ冒険者と記憶を失った少女〜  作者: 蒼月 りんね


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第三十四話 重ねてしまう面影

ティアナ視点です。

 あの子は――私の妹によく似ていた。


 初めてカイが連れて来たときは、ただ綺麗な子だと思った。 

 記憶をなくしている儚い少女は、カイの命を救ってくれた。

 カイが目覚めるまで、同じ女性の私が面倒を見ることになった。


 初めは、少し疑っていた。カイが騙されているんじゃないかって。でも、何をするにも私の後をついてきて、私のことを真似をするエイラを、いつの間にか妹と重ねるようになっていた。


『お姉ちゃん、私もそれする!』


 そう言って妹は、いつも私の後をつけてきた。エイラを見ていると懐かしい気持ちになる。そして、それは私の心を締め付ける。


(私は……もうあの頃には戻れない……)


 未練があるわけじゃない。ただ、懐かしいだけ。そう自分に言い聞かす。エイラといると、つい幼い頃の自分を思い出すのが、少し嫌だった。



 アウロラの塔に向かう途中、物資を買い付けるため二泊することになった。次の日は、一日自由行動になったので、エイラとお出かけをすることにした。

 朝、用意して宿屋の階段を降りると、楽しそうにカイがゼルと話していた。その中に意外にもアッシュがいた。


(昨日まで、嫌っていたのに……)


 珍しいと思いながらも、声をかける。


「みんな、おっはよー」

「ティアナ、おはよう」


 最初に気づいたカイが返してくれると、後で二人も「おはよう」と返してくれる。アッシュは目が合うと、さっと視線を外した。


(ここは、私が大人になってあげよう)


 たぶん、ゼルと話しているところを、見られて気まずそうにするアッシュに、寛容な私は、そっとしておく。でも少し、にやついてしまう。

 そのあとで後ろについてきていた、エイラも挨拶をすると、カイが声をかけた。


「おはよう、エイラ。町に行くの?」

「うん!ティアナと買い物に行ってくる」


 嬉しそうに言うエイラを、みんなが見ている中、カイがこっちを見た。


「ティアナ、エイラをよろしく頼むな」

「ええ、わかっているわ」


 なんとなくその会話に対して、胸がざわつくのを感じる。その感情を隠すように、笑顔で返す。その感情に、自分が嫌になる。最近、カイがエイラのことを心配すると、この感情が湧き出てくる。

 アッシュが、なぜか心配そうに声をかけてきた。


「大丈夫か?」

「何が?……大丈夫よ。ちゃんと帰ってくるわよ」


 つい睨んでしまった私を、一瞬呆れたアッシュは、頭をかきながら呟いた。


「じゃなくてだな……」

「あんたと話していると、時間がなくなるから行くね。エイラいこ」


 何を言われるのか怖くて、言い終わる前に、私はエイラの手をとってその場をあとにした。 昔から一緒にいるアッシュは、ちょっとのことで気づいてくる。それが鬱陶しくてこの上ない。


 宿の出入口の扉を開けると、誰かとぶつかった。とっさに謝るが見ると、外で用事をしていたヨアだった。


「あっ、すいません……って、ヨアだったんだ。よかった〜」

「ああ、ティアナか。エイラとお出かけかい?気をつけて行ってくるんだよ」

「うん。行ってきます。ヨアはどこ行ってたの?」

「必要な物買って、帰って来たところだよ」

「今からずっと宿にいるつもり?まだ昼前よ」

「そうだな。カイを誘ってどっか行くよ」


 そう言って手を振って笑顔で送り出してくれた。


 ヨアはとてもできる男だ。私の周りの女友達は、必ずと言っていいほどヨアを好きになり、そして振られる。ヨアは濁しているが、私は断る理由を知っている。

 その理由は、できる男がかすんでしまう程だった。


(カイが心配で、そばにいたいなんて……重度のブラコンは怖いわ)


 それが何でもできる男の唯一の欠点でもある。それがなければ、仲間になってなかったのかもしれない。完璧すぎる人の、ずっとそばにいるなんて無理だもの。


(でも、弟が大事なのはわかってしまうのよね……私も妹が世界で一番大事だもの)


 そう思った瞬間、心が重くなり、首を振って、気持ちを切り替えた。



 始めにエイラと行ったのは、服屋で二人で色々服を着て見せあった。


(この子は何を着ても可愛いわ)


 満足気に頷く私を、エイラは気づかないで私に合う服を探している。


「ティアナ。この服似合いそう」

『お姉ちゃんは、この花が似合うよ』


 満面の笑みを向けるエイラに、あの子を重ねてしまう。


 十歳の時に師匠と出会うまでは、二人で暮らしていた。そして、私の不注意で妹は怪我をして、それまでの記憶を失った。エイラと同じように。


 何もかも妹を思い出してしまうエイラは、いつの間にか私の支えになっていた。

 妹にできなかった償いをエイラにしているかのように。


(今度はちゃんとエイラを守る!)


 そう誓ったはずだった――。



◇◇◇


「……ティアナ。ティアナ。大丈夫か?」


 アッシュの声で、目覚めると頭が痛い。頭を押さえながら、起き上がり、周りを見ると、そこは塔の外だと言うことを思いだした。


(……何があったんだっけ?)


 少し意識がはっきりして、思い出してくる。


 私たちは、塔から出てきて、ダリオに迎えてもらった。そこにリゼットの姿はなく、騎士も半分に減っていた。ダリオにそのことを聞くと、「君たちが入ってから、次の日に、本部からリゼットに呼び出しがかかってね。騎士を半分伴って、帰ったんだ」と言っていた。


 そのことに何も思わず、ヨアがでてくるまで、雫の記憶の話はしないでおこうと、塔から出る前に四人で話し合っていたから、ダリオに”神の雫”だけを渡す。


 ダリオがヨアがいないことに疑問に思い聞いてきたけど、本当のことを言えないので、誤魔化しながら、後から出てくることを伝える。すると、一瞬難しい顔をした気がしたが、すぐに笑顔になり、私たちに飲み物と食べ物が用意されている机に案内してくれた。


 それを見た瞬間、急にお腹が空いてきて、私たちは食事を楽しんだ。


(そこまでは、いいのよ……)


 段々と思い出してくる記憶に、眉をしかめる。


 食事をしている途中に、カイが突然寝始めた。私たちは疲れているのだと思ったが、横を見ると、エイラも寝ている。変だなと思った瞬間、私も視界がぼやけ始めた。ますますおかしいと思って、アッシュを見ると、彼も難しい顔をしてふらついている。


 身体の力がなくなり机に顔をつけて、なんとか瞼が閉じることを抵抗していると、そこにダリオがやってきて、エイラを抱えた。


「……どこに……連れて行くの……」


 驚いてなんとか言葉にするが、身体はいうことをきかない。ダリオは目を見開き驚いた顔をする。


「まだ起きていられるなんて、すごいな……まあ、いい。悪いが、この子は教会がもらって行くよ。追ってきたら、今度は永遠に寝てもらうことになる」


 そこにはいい人ダリオはいなかった――そこにいたのは、冷酷な男だった。


(エイラは連れて行かれたんだ!)

「エイラを助けにいくわ!」


 私はすべてを思い出して叫んだ。

 横に置いてあった大斧を持とうとすると、アッシュがそれを止めた。


「おい、待て。どこに行くんだ?」

「エイラが、ダリオに連れて行かれた。助けにいかないと」

「それは俺も知っている。お前とダリオの会話を聞いていたから……でも、待て。カイもまだ起きないし、ヨアもまだ出てきてはないんだ」

「そんなのしらないわよ!私だけで行くわ!」

「は?……おい、待て、落ち着けって!」


 慌てたアッシュは、武器を持とうとする私を後ろから羽交い締めし始めた。思いっきり暴れても、アッシュは離してくれない。

 しばらく言い合いが続くと、後ろから聞き覚えがある声が聞こえてきた。


「……何があったんだ?」


 その声の主に、アッシュは助けを求める。


「ヨア!助けてくれ。ティアナを止めてくれ」

「いやだー!はなして!私はいくのー」


 暴れる私の前に、ヨアは立ち、手のひらを私のおでこに当てた。そして、やさしい口調で話し出す。


「ティアナ。落ち着け。何があったんだ?」


 おでこから感じる、ヨアの手の体温を感じて、涙が溢れてくる。


「うっ、うっ、エイラが……エイラが連れていかれたの……うええええん」


 泣きだすと、アッシュの拘束が緩められる。いつもならこんな時、ぶつぶつ文句を言うアッシュなのに、今はほっとしているようだった。私の頭を撫でるヨアの手は優しいのに、アッシュにかけた声は、強張っていた。


「アッシュ、何があった?」

「教会が裏切った。眠らされている間に、ダリオがエイラを連れて行ったんだ。カイはまだ起きていない……」

「睡眠薬か?」

「ああ、俺はあまり効かない体質だが、寝かされたとなると……かなり、強い薬だ」


 二人の真剣な話し声を聞いている間に、私は落ち着きを取り戻し始めた。


「ねえ。エイラは無事かな?」

「わからないが……教会は、エイラを殺しはしないだろ」

「それって、殺しはしなくても、何かするってこと!?やっぱり、早く助けなきゃ!」


 武器を持とうとする私を、アッシュがまた必死に止めている横で、ヨアは難しい顔をして何か考えていた。

 すると、近くの木々の間で音がした。魔獣かと思い顔を向けると、そこにはいるはずもないゼルが手を上げて、こちらに向かって歩いてきた。


「おーい。久しぶりだな。元気だったか?」


 その姿を見て、状況は変わらないことはわかっていたが、みんなが少しだけほっとした。

 




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