第三十話 アウロラの塔
カイ視点です。
フレイガルドを倒し少し休んだ後、塔に向かって出発する。怪我をした人は、回復魔法とポーションで治して進んで行く。不思議なことに、広場をでてから、まだ、魔獣は一匹もでてこないし、近くに気配もしない。緊張感もなく、荷馬車の上で休むことができた。
癒しの聖女・ソルレアのポーションを飲んだおかげか、傷も疲れも一気に取れている。ティアナが不思議そうに瓶を眺めて呟いた。
「それにしてもすごいわね。このポーション」
それにエイラが興奮気味に答える。
「ほんと!体力まで回復するなんて!私は傷しか治せないのに……」
「いやいや、エイラちゃん。傷を治せるのもすごいんだからね」
アッシュがエイラをフォローする。その後を、ヨアがアッシュに、遠回しに皮肉を言う。
「そうだよ。すごい力を隠し持っていた奴でさえ、傷を直すことはできないんだから」
「お前は、まだ言うのか……」
すごく嫌そうな顔をしてヨアを見るアッシュに、ティアナは笑い出した。
「あはは。ヨアって……はは、根に持つタイプよね。あはは。ああ、お腹痛い……」
ティアナは、お腹を押さえて笑っている。それにつられてみんなが笑う。いつもの風景に安心したのか、瞼が閉じてしまう。エイラの優しい声が聞こえてくる。
「あれ、カイが寝てきそう。きっと疲れたのね」
「そうね。大活躍だったもの」
「ああ。寝かしておこう」
「俺も寝ていいか」
みんなの声が、遠くで聞こえた。俺の意識はそこで途切れた。
◇◇◇
目を開けると、俺は、落ちていた。
大空の中、落ちていく。
(えっ?さっきまで荷馬車の上にいたはずだけど!)
下を向くと、見たことない大きな木があった。それは星を抱きしめているほど大きい木だった。その圧倒的な大きさに、落ちていることを一瞬、忘れてしまった。すぐに我に返ったが、妙に冷静な自分に気づく。
(……じゃなくて、どんなに高い所から落ちているんだ?いやいやいや、これはどう考えても、夢だろう。……でも夢ならどうやって覚めるんだ?)
考えながら落ちても、なかなか下にもつかない。この不思議な体験は、どう考えても夢だ。それに、この状況を分析をしている自分が、一番おかしかった。
(とりあえず一回目を閉じてみるか)
その考えにいきつき、瞼を閉じてみる。
もう一度目を開けると――そこは、大きな城が見える丘の上だった。
空は暗く、霧が少しかかっている。見たことのない風景に、思わず大きな独り言を呟いた。
「ここはどこだ?」
誰もいないと思っていたのに、後ろから少年の声が聞こえてきた。
「あれ?お兄さん、きちゃったんだ」
その声に驚いて、後ろを振り向く。そこには、黒の半ズボンスタイルに燕尾服。シルクハットを被って、蝶ネクタイをしている、貴族のような少年がいた。十歳ぐらいの少年は、ニコリと笑う。その人懐っこい笑顔に、思わず緊張感が薄れていく。
(でも、誰だ?――見たことないな)
自分の夢なのに、知らない少年を不思議に見つめた。彼は俺のことを知っている口ぶりだったのが、気になった。
「君は誰だい?俺のことを知っているみたいだけど……それにここはどこなんだ?」
「一気に聞いてくるんだね。そんなに聞かれても答えられないよ。そうだね。僕はお兄ちゃんのことは知っている。でも、今、言えることは、僕の名前ぐらいかな」
子供なのに落ち着いた口調の少年は、自分の名前しか答えられないらしい。自分の夢なのに思うようにはいかないのを、歯がゆく思う。仕方がないので、子供に聞くように質問する。
「君の名前はなんていうの?」
「初めまして。僕の名前は、ラクト」
「ここで何をしてるの?」
「ん〜それも、まだ話せないかな。でも、一つだけ特別に教えてあげる」
子供っぽい喋り方なのに、子供と話している感じがしないから、少し戸惑ってしまう。
「何を教えてくれる?」
するとラクトは俺に向かって微笑んだ。
「ここはね。こっちとあっちの狭間にある場所なんだよ」
「ん?こっちとあっち?……どういう意味だ?」
ラクトの言っている意味がわからないのは、俺の頭のせいではないのはわかった。もう少し聞こうとすると、ラクトは終わりの言葉を口に出した。
「あー残念。もう、時間も来ちゃったみたいだ」
「えっ?時間って?」
「お兄さんは、もう目覚める時間だ。また会おうね」
ラクトは、勝手に笑顔で別れを告げ、笑顔で手を振っている。俺はラクトに歩み寄ろうとしたが、足が地面から離れない。
(なんだこれ?)
手を振りながら、ラクトは何か思い出したように最後に言った。
「ああ、そうだ。エイラのことよろしくね」
「なんで――」
聞き返そうとした時、俺の真下の地面に穴が開き、俺はまた落ちていった。
◇◇◇
「うわぁ」
俺は飛び起きた。ヨアが声を掛けてくる。
「どうした。カイ?」
「えっ?ここは……?」
その質問にティアナが答えてくれる。
「何言ってるの。塔に向かっている最中よ」
周りを見渡すと、ちゃんと森の中だった。俺はほっと息を吐く。エイラが挙動不審な俺を、心配してくれる。
「カイ寝てたんだよ。少しうなされてたけど、何か嫌な夢でも見てたの?」
(……夢。ああ、そうだ。大きな木に、城、に少年。あの少年の名前は……駄目だ。思い出せない。何か大事なことを、最後に言っていたよな……)
「大丈夫?」
エイラが考え事をしている俺を覗き込む。
「……ああ、大丈夫だ」
「ほらカイ。丁度、塔に着いたぞ」
アッシュの言葉に目を上げると、そこには最上階が見えない巨大な塔が目の前に迫っていた。それを目を細めながら見つめた。
(ついに着いたのか……)
太陽が真上に来た頃、俺たちはお昼を終え、大きな扉の目に立つ。その五人の後ろには、リゼットとダリオが立っていた。騎士たちは野営の準備をしている。
ダリオが俺たちに声をかけるので、振り向くと、すまなそうな顔をしていた。
「さっきも言ったが、三日経っても出てこなかったら、騎士団は帰ることになっている。ギリギリまで待つようにはするから……気をつけてな」
「はい。わかっています」
その後をリゼットも気まずそうに、声をかけてくれた。
「……気をつけてね」
そっけなく言っているが、今ならリゼットなりの心配の仕方なのかも知れないと、思うようになった。ダリオが始めに言っていた「根はいい子」は、本当なのかもしれない。
「では、行ってきます」
扉の方に振り向き頷くと、ヨアが扉に鍵を差す。カチッと音がすると、自動で大きな扉が開いた。
俺は気合を入れるために、声をみんなにかける。
「行くぞ!」
「「「おう」」」
全員が塔に入ると、扉は自然と閉まる。閉じられた部屋に、ほんわりと明かりが灯り、部屋を見渡すと、真ん中に宝箱と、奥に古そうな女神の像を祀っている祭壇みたいなのがあるだけだった。
その宝箱にティアナが、飛びついた。
「あっ、宝箱があるー」
「おい、ちょっと待て!」
アッシュが急いで止めてくれたが、ティアナはすごく睨んでいる。
「何するのよ!」
「待てだ。俺たちの目的を思い出せ。宝に触れたら、外に放り出されるかも知れないだろ」
「あーそうだった……一瞬忘れてたわ。ごめんごめん」
何をしに来たか思い出したティアナは軽く謝ったが、アッシュが呆れた顔で見ている。その横で、違う方向を見て、戸惑っているエイラに気がついた。その視線の先にはヨアがいた。
(ん?どうしたんだろう?)
そのエイラが、祭壇の方に歩いて行くヨアに声をかける。
「ヨア?どうしたの?」
どこか様子のおかしいヨアは、返事もせずに歩みを止めない。俺もヨアが、おかしいことに気づき、急いで大きな声で呼び止めた。
「おい。ヨア!どうしたんだ?」
その声がヨアは聞こえていないらしく、そのまま祭壇の前で止まると、前にあるただの丸い石に手を当てた。するとその石は光だして、緑色に輝く水晶になる。その瞬間、突然ヨアが頭を押さえて苦しみだした。
「うわあああああああ」
「どうした!?ヨア!?」
その尋常ではない叫びに、みんなヨアのそばにかけよった。倒れそうになるヨアを、アッシュと俺が、両側からヨアを支える。するとヨアは意識を失った。
「何が起こっているんだ?」
「わからない……」
アッシュが聞いてくるが、答えられない。みんなが困惑している中、ティアナが弱々しく、口を開いた。
「ねえ。地面が光りだしたんだけど……」
「転移魔法よ!」
エイラが叫んだ瞬間、俺たちはその部屋から姿を消した。




