第二十九話 隠し事と信頼
カイ視点です。
フレイガルドを倒した俺は、少しふらついてダリオに支えてもらったが、メンバーの元に歩いて行った。近くまで送ってもらうとダリオは、騎士団を一瞥し、「また後でくるよ」と言って、その場を離れた。
こちらを見ているみんなは、ぼろぼろだったが笑顔で迎えてくれた。
「やったな!カイ!」
「ああ!」
力強く応えた。みんなの笑顔を見て、やっと緊張が溶けていくのがわかる。
「みんな無事でよかった」
そう言うとティアナが嫌味ったらしい言い方で反論する。
「みんなじゃないわよ。一人、隠していた力を使ったからへばっているわ」
その一人に顔を向けると、地面に座ったまま気まずそうに笑っている。そこにヨアが割り込んだ。
「ティアナ。隠していたのは悪いけど、アッシュのお陰でなんとかなったんだ。そんなにせめてやるなよ」
なぜか「隠していたのは悪い」を強調したヨアに、アッシュはますます縮こまる。自分も隠し事があるのに、アッシュには容赦がないなと思わなくもない。ヨアはただ、からかっているだけだと思うが、今のアッシュは目を泳がせ、言い淀んだ。
「いや……それはだな…なんだ、あれだ……」
「あれってなんなのよ」
「聞いてやるから言ってみなよ」
二人はからかうのをやめようとはせず、追い詰める。アッシュもいつもなら二人の意地悪に、気づくはずなのに、よっぽど余裕がないらしい。俺は仕方なく、助け舟を出してみる。
「二人ともその辺で止めとけよ。アッシュが困っているだろ」
「……カイ!」
嬉しそうに俺を呼ぶアッシュ。だが、ティアナとヨアの容赦がない言葉が続く。
「弱っているアッシュなんて、めったにないのよ。今じゃなきゃ、いつからかうのよ」
「そうだよ。アッシュを追い詰めるなんて、面白いことないんだよ」
「おい、お前ら……」
やっとからかわれたことがわかったアッシュが、呆れたように二人を見た。するとヨアが唐突に話を振ってきた。
「カイも思うだろ。あの技はすごかったって」
ヨアのその言葉で、俺の中にあの技を見た時の興奮が蘇り、一気にアッシュに伝えてしまう。
「ああ、あの技はすごかったよ!アッシュが剣を使えるなんて知らなかったし、絶対強いよな。隠しているのはもったいないよ。今度よかったら手合わせはしてくれよ!」
思っていた言葉が、口から自然と出てしまった。そんな俺にヨアは満足気に頷き、アッシュはなぜか固まっている。
「すごいわ、ヨア。無邪気にアッシュを追い詰めてる」
「そうだな。さすがカイだな」
「えっ、全然違うけど」
俺が二人の感想を否定すると、エイラが「ふふ」っと笑った。その笑みは場を柔らかくする。その笑い声につられて、みんなが笑い出した。いつものザリオだ。
笑いが収まった頃、アッシュは真剣な顔をして、立ち上がり頭を下げた。
「隠していて済まなかった。この力は……」
「いいわよ。言わなくて」
「ああ、聞きたくもない」
アッシュが、言いかけると二人は、さっきとは違い興味がない素振りを見せて、それを止めた。ぽかんとしているアッシュがいる。
(ほんと素直じゃないんだからな)
俺は二人の言葉を、訳して代わりに言う。
「そうだよ。アッシュ。隠していたってことは言いたくないんだろ。言わなくてもいいよ」
「……えっ、いいのかよ」
「ああ、でも言ってもいいと思える時がきたら、言ってくれよ」
その言葉にみんなも頷くと、アッシュは弱々しい安心した笑みを浮かべた。
「ああ、ありがとう」
ヨアといいアッシュといい、困った兄貴たちだ。二人が隠しごとをしていても、俺はどんな彼らでも、信じると思う。いつか喋ってくれたら嬉しいけど、今はこれでいい。
「いい雰囲気のところお邪魔するけど、ちょっといい?」
その声は戦いの最中に聞こえた、あの叫び声ではなく、別人か?と思うほどの冷静な声のリゼットだった。戦闘中聞きたかったことを、ヨアがすかさず切り込んだ。
「いいですけど、先に一つだけ聞きたいことが……」
「何かしら?」
「リゼットさん、戦いの最中、広場に出るのは、”中級の魔獣だ”と叫んでいましたよね。俺たちは聞かされていませんよ。どういうことですか?」
「えっ……そんなこと叫んでいたかしら……」
リゼットは、気まずそうに視線を外した。それをアッシュとティアナが追い込んでいく。
「大声で叫んでいたぞ」
「もうパニックになっていたわよね。ねえ、エイラ」
「うん。あの時、「いやあああー!こんなの聞いてない!!出てくるのは中級の魔獣って言ってたじゃない!」と言ってたわ」
少しリゼットに真似て、一句も間違いなく再現するエイラに驚いた。それを見てアッシュとティアナは満足そうに頷いている。それを見て少し不安になった。
(お前ら、エイラに何を教えているんだ)
二人を呆れて見ていると、笑い声が聞こえてくる。笑っている人物は、意外にもリゼットだった。
「ふふ、なに、それ私の真似なの。……わかった。正直に話すわ」
難しそうな顔をしていたリゼットが、急に近くなったように感じた。
その年相応な笑顔に、みんなが意表をつかれた顔をしている。それが不服らしく、少し怒り口調になった。
「なんなのその顔は?」
「いや。そんなに素直に話してくれるとは思わなくて」
「失礼ね。あなたたちのおかげで2回も、命を救われたのに、そんなに薄情じゃないわよ」
後ろでアッシュとティアナが、大げさに驚いているのがわかる。そんな二人はヨアが見ると目線をそらし、リゼットの方に振り向き謝罪する。
「すまない。……それで何を隠していた」
「いいのよ。――私たちは、この広場に魔獣が出ることを知っていたの。……でも、出てくるのは中級の魔獣で、この騎士団でも対処できると聞いていたのよ。だから、その魔物はこちらで対処するつもりだった……まさか幻の魔獣がでてくるとは思わないわよ!知ってたら命令でもこなかったのに!あいつら人使いが荒いのよ。この前だって――」
説明をしているうちに、最後の方は私情が入りだして怒り口調になっていた。俺たちの冷めた視線に気づいたのか、リゼットは咳き込んだ。
「こほん。取り乱したわ。出てきた魔物を倒さなきゃいけない理由は、これよ」
冷静に戻ったリゼットが手を差し出す。その手の上にあったのは、フレイガルドの首にあった同じ色の紅い石がついた金色の鍵だった。
「なんの鍵だ?」
アッシュが鍵を見ながら指でつついてみる。
「それはアウロラの塔の鍵よ。フレイガルドが消えてこれが現れた。私たちが持っている情報はね。――塔に入れるのは、この広場に出てくる魔物を倒すと、鍵が手に入るということ。だから、隠していたことは謝るわ。ごめんなさい」
頭を下げたあと、リゼットは少し小声で喋りだした。
「それから……」
何か言いかけたとき、後ろから声が聞こえてきた。
「リゼット、何の話をしてるんだい?」
振り向くとダリオが立っているのを見ると、リゼットは視線を反らし答えた。
「聞いていた中級の魔獣のことを、黙っていたことを謝っていたのよ」
「そうか。それについては俺からも謝るよ。本当は騎士団が倒すはずだったんだ。力不足で情けない……すまなかった」
頭を下げてくれたダリオに、ヨアが返し、俺も続いた。
「いや、もういいんです。教会も悪気があったんじゃないんだと知りましたから」
「そうです。俺たちの為に黙っていてくれたのですから。頭を上げてください」
頭を上げたダリオは、いつもの笑みを浮かべてくれた。
「そう言ってくれると助かるよ。少し休んだら塔に向かおうと思う。それまで休んでいてくれ。じゃあリゼット、怪我をした騎士を見てくれないか」
「……ええ。わかったわ。これ、癒しの聖女・ソルレア様が作ったポーションをおいていくわね。じゃあ、またあとで」
黄緑色をした液体が入っている瓶を、手渡してきた。ヘリオス・シンクの一人、癒しの聖女、ソルレアが作ったポーションは、効能はもちろんのこと、金額も高額だった。幻だと言われるポーションに、俺たちは浮足立った。
「え、そんな高価な物、いいのか?ありがとう」
「……いいのよ。気にしないで」
「ありがとう」
「ええ……」
リゼットは何かを言いたそうにしていたが、ダリオに背中を押され、共に怪我をした騎士の元に向かって行く。
その時ダリオから、銀色の光る小さな物が落ちた。落ちた瞬間開いたそこには、大人と子供が写っている、ロケットだった。
「ダリオさん、何か落ちましたよ」
声を掛け、拾い上げた瞬間、ダリオが奪うようにそれを取った。俺は驚いてダリオを見た。
「あ、いやすまない。大事なものだったので……ついな。はは」
「そうなんですね。その二人はダリオさんの家族ですか?」
「そうだが……見たのか?」
「はっきりとは見えなかったけど、女の人と女の子が見えました。勝手に見てすいません」
謝る俺に、ダリオは手を横に振った。
「いやいや、こちらこそ失礼な態度だったよ。……この写真に写ってるのは、俺の大事な家族なんだ」
家族の写真を見て、一瞬辛そうな顔をしたような気がした。でも次の瞬間、普通の笑みに戻っていたので、気のせいだったのかもかもれない。
読んでくださりありがとうございます。
今年もよろしくお願いします。




