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はじめての王城

 男に連れられ、俺とトニアの二人は、王都グランセルの中央通りを進む。

 その王都の活気は、俺がかつて見たことのないものだった。


「すっごいな、これは……」


 俺は男のあとに漠然ばくぜんとついていきながら、ずっと周囲の様子を、物珍しく感じながら見ていた。


 石畳で舗装された中央通りは、大型馬車が往路二台、復路二台で合計四台すれ違えるほどのとんでもない広さだというのに、その広さの道幅が、いっぱいの人の波でごった返している。


 楽しげに話をしながら歩いている、二人組の垢抜けた女性。

 道ばたの露天商を相手に、値引きを要求している男。

 美人女性につきまとって、必死に口説いている若い男。

 道のすみっこに集まって、井戸端会議を開いている中年女性たち……などなど。


 人々の中には、人間だけじゃなく、エルフやドワーフ、獣人といった種族の者たちも、わりと多く見かける。

 それに、武器と防具で武装した冒険者の一団パーティらしき数人のグループもいて――俺はまるで、異世界にでも迷い込んでしまったかのように感じていた。


 そんな街の様子を好奇の目で見ている俺に、トニアが寄ってきて、笑いかける。


「あはは、クルスってば、完全におのぼりさんだね」


「しょうがないだろ。実際そうなんだから」


「うん。クルスのそういう変に見栄を張らないところ、ボクは好きだな」


「そりゃどうも。……そう言うトニアは、王都は初めてじゃないみたいだな」


「冒険者だからね。そこそこ旅はしてるし、いろんな街も見てるよ」


「へぇ、そういうのって、なんかいいよな」


 そこで俺は、ふと疑問に思ったことを、トニアに質問してみる。


「そういえば、冒険者って、一体何なんだ? 騎士みたいに、モンスターや外敵から国の平和を守る仕事をしてるってわけでもないんだろ?」


「冒険者が、どんな仕事かっていうこと? んー……一体何だと聞かれると、やっぱ一番はこれかな」


 俺の質問に対し、トニアは自分の右腕にはまった銀の腕輪を見せてくる。


「……魔装器?」


「うん。この魔装器ってね、いにしえの時代に滅びたっていう、古代王国の遺産なんだ。その時代って、今よりも魔法文明が進んでいたんだって。それで魔装器は、現代の魔法技術じゃ作れないから、古代の遺跡から見つけてくるしかない。ボクたち冒険者は、古代王国期の遺跡にもぐって、この魔装器を見つけてくるっていうのが一番の目標なんだ」


 ふむ、そうだったのか。

 俺がなんとなく納得していると、トニアがさらに付け加える。


「……まあ実際には、魔装器なんて滅多に発見されないから、冒険者はモンスター退治とかの依頼を請け負って小銭を稼いで、どうにか食いつないでいるっていうのが普通だけどね。実際に魔装を見たことがない小さな街の住人とかだと、冒険者をただのトラブルハンターだと思っている人もたくさんいるぐらいだし」


「ふーん。冒険者ってのも、いろいろ大変なんだな」


「あはは、またずいぶん雑にまとめられたね」


 と、そんなことを話しながら歩いているうちに、やがて俺たちは、王城の前へと到着した。

 街を横断する川をへだて、その向こう側に鎮座する城へは、ちょっとした跳ね橋を渡って行くことになる。


 跳ね橋を渡ると、目の前には威圧感のある城壁に設えられた門があり、その前には斧槍ハルバードと鎧兜で武装した門番がいる。

 俺たちを連れてきた男が門番と話すと、やがてその門が開かれる。

 俺とトニアは、開かれた門を通り、さらに男のあとについてゆく。


 城門を抜けて中庭に入ると、男はそのまま城へは向かわず、横手へと歩いて行く。

 俺たちはやはりそのあとをついて行くのだが――そのあたりで、トニアが少し落ち着かなさげな様子を見せ始めた。


「……ん? どうしたトニア、便所行きたいのか?」


「違うし! っていうかクルス、女の子へ向ける言葉の配慮とか、そういうのないの?」


「いや、トニアはそういうの、大丈夫なほうかなと思って」


「うう、確かに男の子っぽくしてるけど……っていうか、そうじゃなくて。ここにはちょっと苦手な知り合いがいるんだよ。でもやっぱり、話の流れ上、会わないわけにいかないだろうなぁと思って」


「ふーん。何ならトニアは、ここまででもいいけど。ここまで来れば、あとは俺一人でも大丈夫だろ」


「……ううん、やっぱりボクも行く。ここまで来たら、事の顛末てんまつを見届けたいしね」


 二人でそんな話をしながら男の後をついて行くと、やがて一軒の木造の宿舎のような建物が見えてきた。


 そして、その宿舎のすぐ横手にある広場では、数人の男たちが手に木剣を持って、二人ひと組になって剣の訓練をしていた。

 俺たちはその様子を横目に、宿舎らしき建物の中に入っていこうとする。


 だがそのとき、訓練の休憩中らしき男の一人がやってきて、俺たちを連れてきた男を問い詰めはじめた。


「おい、なんだその貧相な身なりの平民は。なぜここにそんなのを連れてきた」


 俺を指さし、そんなことを言っている。

 くすんだ銀髪の若い男で、おそらくは俺と同い年ぐらい。

 身なりからして騎士か貴族か、そんなところだろうか。

 訓練中だったためか、全身汗だくのようだ。


 俺たちを連れてきた男が、俺たちのことを魔装使いだと紹介すると、銀髪の男は露骨に舌打ちをする。


「ちっ……こんな薄汚い平民が、魔装使いだと? ……ふん、どんな汚い手を使って手に入れたか知らんが、気に入らんな」


 そう言い捨てて、不愉快そうにまた訓練へと戻っていった。

 俺たちを連れてきた男が、すみませんと俺に頭を下げつつ、建物の中へと案内する。


「何あいつ。勝手に決めつけて、感じ悪い。騎士だか何だか知らないけど、ああいうやつって嫌だよね、傲慢ごうまんでさ」


 俺の横では、トニアがぷんぷんと怒っていた。

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