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はじめての王都

 リンドバーグの街を出立してから、三日目の夕方頃。

 空に朱色が混ざり始めてからしばらくした頃に、俺とトニアの二人はついに、王都グランセルの前へと到着した。


「はー……しかしすごいもんだな、王都っていうのは」


「あー、うん。最初見ると驚くよね、この立派さは」


 王都へは初めて来る俺だが、何というか、街に入る前から「とにかくすごい」というのが率直な感想だった。

 これまでに見た別の街と比べると、いろいろとすごい。


 まず、なんと言っても市壁――街をぐるっと取り囲んでいる壁――の高さや立派さが段違いだ。


 例えばリンドバーグなどでは、大きさも形も不揃ふぞろいな岩を重ねて、どうにかこうにか、一階建ての家の屋根ぐらいの高さまでの岩壁を作ってある。


 それと比べ、目の前にそびえ立つ王都グランセルの市壁は、格別だった。

 綺麗に四角く切り取られた岩が、すきまなく規則的に積み重ねられていて、重たい大型のハンマーでどれだけ叩いたとしても、びくともしそうにない堅牢けんろうさだ。


 それに、壁の高さもリンドバーグの市壁の二倍ぐらい――つまり、二階建ての家の屋根ぐらいまである。

 真四角の岩がぴっちりと敷き詰められた上に、こんな高さなのでは、普通の人間がよじ登るのは至難の業だろう。


 それに、壁だけじゃない。

 出入りする人の数も、ほかの街とは段違いだ。

 人の入りが多い夕刻だからというのもあるだろうが、門の前には、街に入る人や馬車による、ちょっとした行列ができていた。


 また、門の前で人の出入りをチェックしている門番も、リンドバーグの門番をやっているノルドみたいな、暇をもてあましている若者とかではない。

 槍を手にし、鉄製の兜をかぶって鎖かたびら(チェインメイル)を着た、体格のいい強面こわもてのおっさんである。


 ……なんか正直、気後れする。


 俺、こんなところに来て、大丈夫なのか?

 着装している状態だと、なんかすごい自分になった気がする俺だが、いかにも貧乏農夫ですっていうこのボロ服姿だと、何しに来たんだ俺?ってなる。


 俺は、王都への入り口前の行列の最後尾へと並びつつ、俺の前に並んだトニアに不安をぶつけてみた。


「……なあ、トニア。俺、着装したほうがいいかな」


「なんで!? 王都相手にケンカでも売るつもり!?」


「いや俺、こんなところに何しに来たんだろうって思って」


「えっ、ちょっと、この三日間の道程を全否定するようなこと言わないでくれる? 魔装器を届けに来たんだよね……?」


 そうだった。

 俺はこの右腕にはまった魔装器を、王都に届けるよう、あの瀕死だった男の死に際に言われたのだ。


 しかし、そう考えると、別の疑問が出てくる。


 問題の魔装器は、俺の腕にはまったまま、どうやっても外れない。

 いろいろ試してみたが、完全に俺の腕と一体化しているような感じで、びくともしないのだ。


 その件をトニアに聞いてみたところ、トニアも実際にそういう例を見たのは初めてだという。

 しかし、そういう事例があったという話自体は、聞いたことがあるとのことだった。


 ――魔装器が、使用者を選ぶ。

 そういう伝説とも眉唾まゆつばとも言える話が、魔装使いの間で語られているらしい。


 まあ、それはともかく。

 現実問題、俺の腕から外せないとなると、困ることがある。

 この魔装器を王都に届けると言っても、これを渡しようがないのだ。


「やっぱり俺、腕とか切り落されるのかなぁ……」


「いやいやいや、それはないでしょ、いくらなんでも……。そりゃあ確かに、Sランクの魔装器の価値となれば、人間一人の価値なんかよりよっぽど高いのは、そうだろうけどさ。だいたいクルスは、腕ごと渡せって言われたら、承諾するつもり?」


「まさか。いくら死に際の男の遺言でも、そこまでしてやるようなお人好しじゃないさ、俺は」


「遺言だからって三日間かけてここまで来てるクルスは、十分お人好しっていうか、義理堅い人だと思うけどね。普通こんなとんでもない宝物を、ひょっこり手に入れたら、そのまま着服しようって考えると思うよ」


「え、じゃあトニアは同じ状況で、着服するか?」


「……え、ボク? ボクは……どうだろ、うーん……でも、魔が差しちゃう可能性はあるかもしれない。やっぱりクルスみたいに、当たり前にはできないよ。――だからクルスってやっぱり、いい人なんだと思う」


 トニアが俺に、信頼を乗せた笑顔で、そう言ってくる。

 その無邪気な表情に、俺は少しドキッとしてしまった。


 俺は恥ずかしくなって、トニアの顔から視線を外す。

 その俺の様子を見て、少女が首をかしげる。


「ん、どうしたの、クルス?」


「……いや、その……トニアって、そうやって無邪気に笑うと、可愛いなって思って」


「は……? えっ……ちょっ、えっ……や、やめてよそういうこと言うの……」


 ちらと視線を向けると、トニアも顔を赤らめて、不自然にそっぽを向いていた。


 うーむ……。

 困った、気まずい。


 そう思っていたら、ちょうど良い具合に行列が進んで、俺とトニアが門でチェックを受ける番になった。

 助かった、恥ずかしくて死ぬかと思っていたところだ。


「よし、次。お前たちは、二人連れか? 入市目的と、滞在予定期間、それから……」


 いかつい門番が俺たちに向かって、定例業務を始めようとしたが――そのとき門番が、俺とトニアの腕にあった、銀の腕輪を見とがめた。


「そ、その腕輪は……!? まさかとは思うが……お前たち二人とも、魔装使いか?」


 いかつい門番から、そう質問される。


 魔装使いか、と聞かれると、俺のはあくまでも一時的な預かり物なので、どう答えたものか困った。

 しかしトニアは、ためらうことなく首を縦に振り、門番へと答える。


「はい。ボクたち二人とも、魔装使いですよ。『ソードマスターのトニア』って言えば、王都の魔装使いの人には、だいたい通ると思います。王都の騎士団に用事があって来ました。通ってもいいですか?」


 トニアのその言葉に、門番は少し慌てた様子で、「ちょっと待っ……いえ、少々お待ち下さい」と言って、門のすぐ近くに建てられた小屋の前まで行って、何やら中に声をかけた。


 すると少しして、その小屋から一人の男が出てきて、俺たちの前まで来る。

 男は俺たちに一言断りを入れてから、俺とトニアの腕にある魔装器を、注意深く観察した。


「確かにどちらも魔装器……いや、これは確か、ブランシェ郷の『ゴッドナイト』では……!?」


 男は俺の顔をまじまじと見てくる。


 俺がどう説明したものかと思っていると、隣からトニアが助け船を出してくれた。


「はい。ボクたちはその件について、お話があってまいりました」


「なんと……すみませんがお二人とも、王城内にある騎士団の詰め所まで、ご足労願えますか」


 俺とトニアは顔を見合わせて、互いにうなずき、男の後について王都へと入っていった。


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