山賊が現れた
現れた男たちは、全部で六人だった。
彼らは手にした刃物をひけらかしながら、街道をふさいでいる。
山賊というやつだろう。
こちらと向こうの距離は、十歩以上、二十歩以内といったところか。
「いよぉ、若者たち。カップルで旅をしている最中悪いんだが、ここを通るには通行料が必要なんだ。ちょいと払っていってくれねぇか」
男たちの中で最も体格の大きいひげ面の男が、前に出てそう話しかけてくる。
山賊たちのリーダーなのだろう。
そしてそれには、トニアが少し頬を染めながら、こちらも一歩前に出て応対する。
「まず、カップルじゃないし。……それで、一応聞いておくけど、通行料っていくらぐらい? ボクも正義の味方ってわけじゃないし、無用な殺生は好きじゃないから、金額によっては考えるよ」
トニアがそう言うと、山賊たちは顔を見合わせ、げらげらと笑い出した。
「ムヨーな殺生、だってよ!」「ひぇ~、腹痛ぇ~!」とか言いながら、散々にはやし立てている。
その山賊たちを制して、リーダー格の男が言う。
「気の強い嬢ちゃんだ、気に入ったぜ。なぁに、大した額じゃねぇよ。そうだなぁ――男の方は身ぐるみ全部、嬢ちゃんの方は体で払ってくれればいいぜ。今夜一晩、俺たちの相手をしてくれよ。ま、明日には、足腰立たなくなっちまってるかもしれねぇけどな」
その言葉を聞いた山賊たちは、また下品そうにげらげらと笑う。
それを見て、トニアがため息をつく。
「……はあ。晩酌に付き合うとか、そういう話でもなさそうだね。――却下だよ。話にならない」
「そうかい。じゃあ無理矢理にでも払ってもらうしかねぇな。――おいテメェら、女のほうは殺すなよ、分かってるな」
リーダー格の男の指示で、彼の後ろにいた山賊たちが武器を手に、へらへらと笑いながら前に出てくる。
しかしその山賊たちのうちの一人、気弱そうなひょろい男が、リーダー格の男に申し立てた。
「で、でもアニキ、あいつらヤバくねぇっすか……? なんか光ってたし、さっきと服装変わってるし、この人数差見ても怖じ気づいてないし……ひょっとしてあいつら、噂の『魔装使い』とかいうやつなんじゃあ……」
しかしその不安の声に、リーダー格の男はゲンコツで応えた。
ぽかりと気弱そうな男の頭を殴り、罵倒する。
「バァカ! だからお前はいつまでも三下なんだよ。いいか、あんなのはハッタリか、現実ってもんをわかってねぇ英雄気取りの勘違いちゃんに決まってる。だいたいお前なぁ、魔装使いなんてもんに、実際に遭ったことあるか?」
「いや、ねぇっすけど……」
「だろ? 実際にはいねぇんだよ、そんなもん。おとぎ話の中にしかいねぇもんを相手にビビっててどうすんだ」
そうどやされると、気弱そうな男も従うしかなかったようだ。
それを見て、トニアが再びため息をつく。
「はあ……。ごめんねクルス、勝手に話進めちゃって。でも、あいつバカすぎて、交渉にならない。さすがにあの条件をのむわけにいかなかったし」
いや、そりゃそうだろう。
トニアへの要求はもちろんのめないし、それ以前に、そもそも俺の身ぐるみっていうだけでも、高価そうに見える魔装器を見逃してくれそうにないのは明らかだ。
ひょっとしなくても、腕ごと切り落すぐらいのことは言うだろう。
それよりも、あーむずなんとかを教えてほしい。
トニアにそう伝えると、
「そうだった。武装解放ね。要は『着装』と同じで、合言葉を唱えるだけなんだけど――ちょっとやってみせるから、見てて」
トニアは、両手を左右に開いて握りを作るようにし、前を向く。
そして、いつものよく通る声で、高らかに唱えた。
「――武装解放!」
すると、トニアが作った手の握りの部分から、右手に一本、左手に一本、それぞれ光が伸びてゆく。
そして次の瞬間、その光がバンと弾けて、彼女の手には、二振りの剣が生まれていた。
現れた剣はどちらも同じものに見える。
材質は普通に金属に見えるが、その刃の周囲を淡い青色の光が覆っていた。
「これが、ボクの魔装『ソードマスター』の基本武装、双剣形態だよ。もう一つ、大剣形態っていうのもあるんだけど、多人数相手には双剣のほうが向いてるから、今回はこれで。――じゃあ、クルスもやってみて」
俺はうなずいて、トニアの真似をしてみる。
「武装解放!」
すると、トニアのときと同じような過程を経て、俺の右手には剣が、左手には盾が現れた。
盾は凧型盾と呼ばれる類のもので、肩から膝下ぐらいまでを隠せるほどの大きさだ。
……なんか、感動だ。
ちなみに、現れた剣や盾にはしっかりとした重量感があるが、手にしっくりと馴染む感じで、重すぎて取り扱いが難しいということもない。
そしてトニアの剣とは微妙に異なり、俺の剣と盾は、緑色の淡い光に覆われていた。
「うん、オッケー。それが魔装『ゴッドナイト』の基本武装だね。ナイト系の魔装だと、確かもう一つの形態はランスタイプだったかな? まあ、基本武装が一番使い勝手はいいと思うよ」
と、そんな感じでトニアから指導を受けていると、向こうでは山賊たちが動揺していた。
「あ、アニキ! 何すか今の!? やっぱりあいつら、魔装使いなんじゃあ……!」
「バ、バカ! うろたえるんじゃねぇ! ありゃあこけおどしか、手品か、なんかそういうやつに決まってる! さっさと畳んじまえ!」
そうリーダー格の男にけしかけられた山賊たちは、少し困惑しながらも、武器を振り上げ雄叫びを上げながら向かってきた。
それに対し、再びため息をついたトニアが、彼らに向き直って今一度、警告の言葉をぶつける。
「そうやって人に武器を向けて襲いかかろうっていうなら――殺されても、文句は言えないよ。いいんだね?」
先ほどまでの朗らかな彼女とは一線を画した、低く冷たい声だった。
だが、勢い込んで走り出した山賊たちが、それで止まることはない。
「……しょうがないな」
トニアは二本の剣を構え、山賊たちを迎え撃つ。
すっと細められたその目が、向かってくる男たちを冷たく見すえていた。
俺も、戦いの経験はないなりに、なんとなくで剣と盾を構え、山賊たちを迎え撃つことにした。




