あのとき戦ったのは魔神なんとかいう超強いモンスターだったらしい
「――“八つ手の魔神”ベルザレム。クルスが倒したっていうモンスターは、おそらくはそれだと思う」
リンドバーグの街から北へと延びる街道を進みながら、俺の隣を歩くトニアがそう教えてくれる。
リンドバーグを出てからは、この銀髪の少女との二人旅となった。
俺が王都に行ったことがないと言うと、付き添いを買って出てくれたのだ。
昨日はリンドバーグの街で一泊して、今朝は朝早く宿を出立して、街を出た。
街道をしばらく歩いて、時刻は間もなく太陽が真上に差しかかろうという頃――すなわち、もうすぐお昼時という頃合いである。
「えっと……そのベルなんとかってのは、結構強いモンスターなのか?」
俺がそう聞くと、少女は少し困った顔をする。
「うーん、強いかどうかって聞かれたら、強いって答えるしかないんだけど……何しろ魔神だからね」
「魔神って言われてもな……神様ってわけでもないんだろ」
「そりゃあそうだよ。魔神っていうのは、ある種のモンスターの総称だね。ただ、魔神は全般的に、べらぼうに強いから……普通、魔神の討伐をしようと思ったら、一体を倒すのに、何十人の兵を組織して、それでなお多大な犠牲を覚悟しないといけないぐらいだよ。正直、ボクが魔装を使っても、一人じゃ勝てる気がしない」
「……それを俺が倒したってこと?」
「そういうことになるんでしょ。だから驚いてるんだよ」
そう言うトニアはしかし、少し面白くなさそうだった。
「なに怒ってんだよ」
「怒ってなんかないよ。ただ、やっぱりさ、自分より強い人が身近に現れちゃうと、なんか劣等感みたいなものが刺激されるっていうか……驕らないようにしてたつもりだったけど、やっぱり驕ってたんだなぁって気付いちゃったっていうか……いずれにせよ、こっちの話。クルスが気にすることじゃないよ」
「はあ……そうか」
いまいちよく分からない。
が、気にするなと言うなら、気にしなければいいのだろう。
「それより、この辺は最近山賊が出るらしいから、気をつけよう。着装状態じゃないときに矢でも射られたら、ボクらもただの人だからね」
トニアがそう注意を呼びかけてくる。
言われてみると、トニアは先ほどから、街道の周囲の森に注意深く視線を走らせていた。
俺もそれにならい、少し周囲に注意をしながら歩くことにする。
「そういや、着装状態ってあれ、どうやったら解けるんだ? ずっとその、着装状態のままってのはできないのか?」
俺はふと、疑問に思ったことをトニアに聞いてみる。
「え? あー……えっとね、基本は着装してから、一定時間がたつと自然に解除されるよ。ずっと着装状態っていうのは、着装解除しないように意識していればできなくはないけど、本当にずっとだと、普通は魔力がもたないと思う。着装状態のときは、微量だけど、体内の魔力を消費し続けてるんだ。特に武装解放してるときは、余計に魔力を食うから気をつけて」
……ん?
何やら聞き覚えのない言葉が出てきた。
「あーむずりりーす? って何だ?」
「……へ? え、あれ、うそ、武装解放も知らない……? えっ、じゃあ、ベルザレムはどうやって倒したのさ?」
「いや、どうって……肉弾戦と、あとはあの男の腰にあった剣を借りて、それでこう。まあ、剣は折れちまったけどな」
「え? え? ええええええっ!? ちょっ、それ、市販の一般武器で倒したってこと? “八つ手の魔神”ベルザレムを!?」
「いや……そのベルなんとかってやつだったのかは、わかんねぇけど」
何やらトニアは口をパクパクさせている。
どうも、彼女の言うとおりのモンスターだったとしたら、すごいことらしい。
「え、いや……Sランクの魔装って、そこまで違うの……? えー、うそだぁ……やっぱり、クルス自身に原因があるとしか……」
「まあ、それはいいとしてさ。それより、さっきのあーむずなんとかっての教えてくれよ」
「それよりって……うう、自分より強い人に、戦い方教えなきゃいけないなんて……」
そう、歩きながらしょぼくれるように言うトニアだったが――そのときぴくりと、彼女が動きを止めた。
「……ねえ、クルス。教えるのは、実戦を通してってことでいいかな」
「えっ? あ、ああ、いいけど……って、実戦?」
「うん。じゃあ、クルスも着装して」
そう言ってトニアは、自身も銀の腕輪――魔装器をつけた右腕を掲げ、その鈴のような綺麗な声で叫んだ。
「――着装!」
すると、トニアの体が光に包まれ、その肌の輪郭だけが残った光のシルエットになる。
……なんかこう、あれ、傍から見てると、真っ裸みたいで恥ずかしいものがあるな。
それから瞬く間に、少女のシルエットが光の衣服をまとってゆく。
そして最後には光が弾けて、先ほどまでとは違った衣装をまとった美少女の姿ができあがっていた。
銀髪ショートカットは、もちろんそのまま。
しかし衣服は、踝ぐらいまでの長さの末広がりの臙脂色のコートをまとっていて、さらにその上から、銀色に輝く胸当てを身につけている。
何というか、すごく絵になっている。
俺はそのトニアの着装した姿を、惚けたように、ぼーっと見てしまっていた。
「どうしたの、クルス。早く着装しなよ」
「……お? ああ、悪い。着装したトニア、綺麗だなぁと思って、見惚れちまってた」
「はぁ……? えっ、ちょっと、や、やめてよそういうの……。そんなことより、クルスも早く着装して。やり方は分かるんでしょ?」
「お、おう」
なんだか顔を赤くして慌てたようなトニアを見て、こっちも恥ずかしくなってしまう。
が、さておいて俺も……
「着装!」
そう叫ぶと、以前のときと同様に、視界が真っ白な光に包まれる。
そして次の瞬間には、身につけていたボロ服が失われ、例の鎧マントの姿へと変わっていた。
「うわっ、うわっ、うわあ……着装したクルス、やばっ、カッコイイ……」
なんかトニアが興奮していた。
さっきの意趣返しか何かだろうか。
だがすぐに、「っとと、そんな場合じゃなかった」と言って、トニアはあたりを見渡す。
そして、明らかに「俺じゃない誰か」に向かって、大声を張り上げた。
「回り込んで取り囲もうとしてるのは分かってるよ。小細工しても無駄だから、出てきたら?」
街道の周囲の森に向かって、声を張り上げるトニア。
すると、周囲の木々のかげからぞろそろと、人影が現れた。
それは剣、槍、斧など、思い思いの武器を手にした、粗野な雰囲気の男たちであった。




