赤い輝き
馬を駆る騎士の集団を追うようにして、俺は緩やかな下りの道を駆け下りる。
周囲の景色が高速で背後へと流れてゆき、目的地がぐんぐんと近づいてくる。
そのとき俺の、そして前方を駆ける騎士たちの頭上を、矢と火の球の雨が通過していった。
それらが向かう先は、丘の下、魔神たちが集まりうごめく場所だ。
それらの矢と火球の中に、ボッという音とともに、驚くほどの高速で通過していった一矢と一発があった。
その二発が、丘の下、最も近くにいた魔神――ぶくぶくと太った、蛙のような巨体に直撃する。
そしてそれを追うようにして、残りの矢と火球がそこに降り注いだ。
その大量の矢と火球は、その一部が魔神に直撃したが、残りの大部分は、目標を捕らえずに、地面へと突き刺さった。
着弾した火球が地面へと突き刺さり、もうもうと砂塵を舞わせる。
砂塵がやむと、そこにはさしてこたえた風もない、ぶくぶく蛙魔神の姿があった。
その体には矢が数本刺さっているようにも見えるが、まだ遠くて、あれがどの程度の手傷を負っているのかは分からない。
そう思っていると、今度は向かう先から、赤く輝く球状の何かがいくつか、高速で飛来してきた。
そのうちの一つが俺に向かってきたので、盾を構えて受け止める。
「ぐっ……!」
重い――というのが最初の感想だった。
しかも、俺の盾にぶつかった赤い輝きは、着弾したとたんに弾けて、爆発を起こした。
俺の体が、爆炎に包まれる。
魔装が身を守ってくれるのが分かった。
鎧に覆われていない素肌の部分を含め、何かエネルギーの膜のようなものが俺を包み込んで、爆炎から俺の身を守っていた。
それでも少し熱さを感じたが、駆けていた俺は、すぐにその爆炎から抜け出した。
やけどをする寸前、といったタイミングでの脱出だった。
髪ぐらいは多少、焼けたかもしれない。
だが――周囲の惨状は、まったくそんなものではなかった。
「ぐわぁーっ!」
「ぎゃあああああっ!」
前から後ろから、たくさんの悲鳴が聞こえてくる。
前方では、騎士たちの数人が落馬し、地面でのたうち回っていた。
爆発が地面を浅くえぐったあとがあり、その周囲に数体の馬と数人の騎士が倒れている。
背後からは、次々と爆発音が起こり、それと同時に多数の人の悲鳴があがる。
立ち止まって振り向いてみれば、丘の上の方で何ヶ所か爆炎があがり、その都度、鎧を着た人間たちがゴミのように吹き飛ばされていた。
「――クルス! 止まっちゃダメ!」
上から追いかけてきたトニアが、片手で俺の腕をつかみ、前を向かせる。
するとまた、前からあの赤い光が、いくつも向かってきていた。
「くぅっ……!」
トニアがその一つを、身をひねってからくも回避する。
赤い光の球は、俺とトニアの横を通り過ぎ、一瞬後に背後で大きな爆発音を発した。
「無茶苦茶だ、こんなの――クルス、行こう! ここで立ち止まってても、しょうがない!」
「あ、ああ――って、トニア!」
「えっ……うわわっ!」
俺はとっさに、トニアの腕をつかんで引き寄せる。
少し前までトニアがいた場所を、赤い光が通り過ぎていって、すぐに背後で爆発音をあげる。
「あ、ありがと……」
「言ってる場合じゃないんだろ」
「う、うん」
俺は再び、丘を下りに向かって走り始める。
トニアがそのあとに続く。
トニアの言うとおりだ。
前方から次々と飛んでくるあの赤い光の球。
あれは魔神の攻撃に違いないのだから、この惨状をどうにかするには、さっさとその元凶を断たなければならない。
一方で自陣からも、赤い光に対抗するように、矢と火球が雨あられと頭上を過ぎ去り、行く先へと降り注いでゆく。
しかし、攻撃力の差は歴然だ。
延々と遠距離戦をやっていたのでは、圧倒的に分が悪い。
俺は眼下からやってきて、自分の近くを通り過ぎて行こうとする赤い光の塊を、できる限り盾で弾きながら、全速力で丘を下る。
盾に光が着弾するたびに俺は爆炎に包まれるが、俺が被弾する分には大したダメージにはならない。
でもこれが、俺の後ろにいる別の兵たちのもとで爆発すれば、そこで大惨事が起こる。
だったらできる限り、俺の後ろには行かせない。
「――クルス! 無茶しないで!」
背後からトニアの声が聞こえてくる。
「無茶じゃない! これが最善だろ!」
「――っ!? ひょっとして、それ受けてダメージないの!?」
「まったくないってわけじゃないけどな!」
事実、熱を浴び続けて、肌がひりひりしてきている部分もある。
何十発も連続で受け続ければ、ヤバいかもしれない。
でも、数発の赤い光を弾いたところで、丘を下り切った。
すると、すぐ目の前には、何体かの魔神たちと、それに数倍する数の騎士たちが交戦している姿があった。




