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決戦

 洞窟は、入り口の大きさから想像するほどには、広大ではなかった。

 中へ踏み入って、道なりにしばらく進むと、もう終点が見えてきた。


 終点――すなわち、行き止まり。


 その薄暗い洞窟の最奥には、巨大な生き物がとぐろを巻いて潜んでいた。

 兵士の一人が、火のついたたいまつを掲げて、その姿を照らし出す。


 それは緑色の鱗を持った、ドラゴンとしか形容できないような巨大生物だった。

 ただし、前肢まえあしが翼と一体化しているのか、あしと思しき部位は二本しかない。

 また、尻尾の先が巨大なサソリのそれのように鋭くとがっているのが特徴的だ。


 俺たちにとっては、自分が小人に思えてくるような大きな洞窟も、その巨大な生き物――ワイバーンにとっては窮屈であるように見えた。

 その巨大生物は、自らの巣穴に入り込んできた侵入者の姿を認め、その鎌首をもたげる。


「洞窟の中にいてくれたのは僥倖ぎょうこうだ――眠っていてくれれば、なお良かったのだがな」


 アランがそう言って、自ら戦闘態勢を整えながら、同時に部隊の戦闘指揮をとり始めた。


「大盾は俺とともに前へ! 弓手ゆんでは下がって射撃! 的はでかいんだ、しっかり当てろ!」


 アランは全身鎧をガチャガチャと鳴らしながら、凧型盾カイトシールドを体の前に構えつつ、前に出る。

 その左右に、二人の兵士が方形盾ホプライトシールド――全身をゆうに覆い隠せる大きさの長方形の大盾を構え、並んだ。


 そして、弓を持った二人の兵士は、アランの指示通りにやや後退すると、背中の矢筒から矢を取り出し、弓につがえるとその弦を引き絞り、洞窟の奥に向けて狙いを定めた。


 なお、俺はと言えば、アランの指揮下にない遊撃部隊――つまり、自分の判断で自由に動いていい、予備戦力の扱いだ。


 そしてそのとき――


 ――ギャオオオオオオオオッ!

 

 洞窟の奥の主が、ビリビリと空気の震えるような咆吼ほうこうをあげて、矮小わいしょうな人間たちを葬り去らんと、アランたちに向けて襲いかかった。


「怯むな! ――撃て!」


 アランの指示によって、二人の弓手が矢を放つ。

 バンという弦の弾かれる音とともに発射された矢は、うち一つは狙いがわずかに逸れて外れたが、もう一つが、今にもアランたち前衛に躍りかかろうとしていたワイバーンの、首の付け根に突き刺さった。


 矢はその三分の一ほどまでが刺さったが、それはワイバーンの図体からすれば、大した手傷ではないと見えた。

 それが証拠に、ワイバーンは怯むどころか余計に怒り狂い、アランたち前衛に襲いかかった。


「ぐあああっ!」


「ひっ、ひぃっ!」


 前線が瓦解するのは、あっという間だった。


 兵士の一人は、独立した生命体のように動いたワイバーンの太く鋭い尾で、木製の大盾を貫通され、さらにそのままの勢いで堅革鎧ハードレザーアーマーの上から腹部を貫かれた。

 二重の防壁のおかげが、命に関わるほどの深手ではなさそうだが、あの尾には確か猛毒があったはずだ。


 一方、別の一人の兵士は、ワイバーンの牙で大盾をかみ砕かれ、尻餅をついて戦意を喪失していた。

 それを見たアランは、焦りもあらわに叫ぶ。


「くっ……ヒューイ、腰を抜かしている場合か! 負傷したピートを連れて下がってすぐ解毒しろ! 前はオレ一人で何とか抑える! 弓手はとにかく撃ち続けろ!」


 どうにもまずい状況のようだ。

 アランは一人で抑えると言っているが、あの様子だとそう長くはもたないだろう。

 そしてそれまでに、二人の弓手がワイバーンを仕留められるとも思えない。


 ――でも。


 ここまでの流れを見ていて、何となく分かったことがある。

 それは何かと言えば――ああ、あの程度ならどうとでもなりそうだな、ということだった。


「おい、アラン。肩を借りるぞ」


「は? 何だって?」


「踏み台に、ちょうどいいんだよ」


 俺はそう言って、アランの背後からジャンプする。

 そして、アランの肩を足がかりにして、さらにもう一つジャンプ。


「なっ……!?」


 アランがよろけながらもどうにか踏ん張りつつ、頭上を仰ぎ見てくる。

 その視線の先には、一階建ての家の屋根ぐらいの高さまで跳んだ俺がいる。


 そして、そこまで跳べば、ワイバーンの頭頂高と並べる。

 俺はそこで、高らかに叫んだ。


「――武装解放アームズリリース!」


 空中で、俺の手の中に光り輝く剣と盾が現れ、一瞬で具現化する。

 俺はその手の剣を、落下と同時に振り下ろした。


 ワイバーンの肩口から切り込んだ剣の刃は、熱したナイフでバターを切るかのように、その表皮と肉をゆうゆうと断ち切った。

 俺が着地すると、ワイバーンの大きな叫びの声とともに、その深い傷口から猛烈な勢いで血が噴き出した。


 しかし、ワイバーンは苦悶しながらも、同時にその尻尾の毒針で俺を攻撃してくる。

 鋭い風切り音とともに襲いかかってきたその一撃を、俺は左手に構えた凧型盾カイトシールドで受け止める。


 盾は接触時に光を発し――パキンと音を立てて折れたのは、ワイバーンの尾の先にあった毒針のほうだった。

 俺はさらに剣を振り下ろし、尾の一部を真っ二つに輪切りにする。


 ――ギャオオオオオオオオンッ!!


 怒り狂ったワイバーンは、その牙でがむしゃらに俺にかみつこうとしてくる。

 俺は素早く横にステップを踏んでそれを回避し、手にした剣を、ワイバーンの頭部めがけて振り下ろした。


 そこに頭蓋骨があろうが、俺の剣の切れ味に、大差はなかった。

 俺の剣は、ワイバーンの巨大な頭部の右半分を、縦一文字に断ち切った。


 ワイバーンの巨大な図体は、ずぅんと音を立てて、地に倒れ伏した。

 体はそれからわずかの間だけびくびくと動いていたが、やがて完全に動きを止める。


 その後、少しするとワイバーンの巨体は黒いもやのようになって消え、そのあとには紫色の宝石が現れ、地面に転がった。

 宝石は、魔神なんとかを倒したときのものと同じぐらいの大きさか、それよりも少し小さいぐらいだった。


「ふぅ……」


 俺はその宝石を拾いあげつつ、「リムーブ」と唱えて武装を解除する。


 そうして背後を振り返ると――そこには、唖然とした顔で俺を見る、アランと兵士たちの姿があった。


「す、すげぇ……」


 兵士の誰かがつぶやいた言葉が、広大な洞窟に響き渡った。


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