魔獣の棲みか
ワイバーンが棲みついたと目される洞窟は、村から少し歩いた場所にある、小高い山の頂近くにうがたれていた。
俺たち一行は、崖っぷちとでも呼ぶべきであろう険しい山道を歩き、ようやくそこまでたどり着いた。
なお、俺とアランが村まで乗りつけてきた軍馬は、村の老領主の館に置いてきている。
このような山道をのぼるのであれば、馬は逆に邪魔になるためだが――重武装に身を固めたまま徒歩で山道をのぼることになったアランは、さすがに息を切らせていた。
しかしそれでも、弱音らしき部分を兵士の前で見せようとしないのは、大したものだとは思う。
俺だって普段から農作業に明け暮れていたのだから、体力にはそこそこ自信があるのだが、さすがにあの重武装でここまでのぼってきたら、とうにへたばっていると思う。
「――あの洞窟か。ワイバーンが棲みついたというだけあって、かなり大きいものだな」
一行の先頭をゆくアランが足を止め、感想を述べる。
その眼差しは、行く先の右手側、断崖を掘ったようにしてできた大きな空洞を見上げていた。
俺たちが今いる場所は、このまま山道を数十歩ほどのぼってゆけば、洞窟の前に出るというような位置だ。
右手側は切り立った断崖になっていて、左手側は逆に、足を滑らせたら真っ逆さまというような崖である。
その山道の幅はそう狭くはなく、二列縦隊で進んでもどうにかなる程度だが、今は慎重を期して六人が一列の隊列で進んでおり、俺はその最後尾についていた。
「この山道でワイバーンと戦うのは、面白くはないな。どうにかあの洞窟の中で戦いたいものだが……」
アランはそう言いながら、再び歩き出し、鎧をガチャガチャと鳴らしながら、山道をのぼってゆく。
そのあとを四人の兵士たちが順についてゆき、俺はさらにその後ろを歩いて行く形になる。
――ワイバーン。
聞いた話によると、竜の亜種のようなモンスターで、頭の先端から尻尾の先までの全長が十メートルほどにもなる大型モンスターだそうだ。
竜のように炎を吐いたりはしないが、爪や牙は強固で鋭く、その直撃を受ければ、騎士が着る板金鎧すらも断ち切られ、重傷を負うことは免れないだろうという。
しかし、何より恐ろしいのはその尻尾の毒針で、その尾に突き刺され毒を注入されれば、人間などはものの数分で死に至ると言われている。
もっとも今回は、その毒針対策として高価な解毒用の霊薬を持ってきているから、尾に刺され毒を注がれたらその瞬間即死確定、ということはないはずだ。
むしろ今回怖いのは、ワイバーンがその翼で、空を自由に飛び回ることができるという事実だろう。
この崖っぷちの山道で戦うことになれば、部隊は相当不利な戦いを強いられることになるし、崖からの転落死という危険性だって出てくる。
そんな心配をしながら洞窟までの道をのぼって行ったのだが、その間に洞窟からワイバーンが姿を現すようなこともなく、俺たち六人は、その巨大な洞窟の前までたどり着くことができた。
洞窟の前は、わりと広い踊り場のようになっていて、ここまで来れば転落という恐怖と戦う必要もなさそうだった。
しかしアランは、険しい表情のまま、巨大な洞窟の奥を見つめている。
そして、俺のほうに向かってぽつりと、声をかけてきた。
「おい平み……いや、クルス」
「何だよ」
「お前なら、単身でワイバーンを倒せるのか?」
「そんなの分かんねぇよ。やったことない」
「そうか。……そうだな。ならいい」
そう言ってアランは、部隊を指揮して、洞窟の中へと足を踏み入れて行く。
それを受けて俺は、その場で着装し、一行の後に続いた。




